コロナ禍の母子家庭 「家賃払えぬ」悲鳴【NEXT特捜隊】

 「新型コロナの影響で収入が減り、このままでは家賃が払えない」

家賃を払う見通しが立たず、悩む女性(右)。子どもの明るさは救いという=5月21日、静岡県内
家賃を払う見通しが立たず、悩む女性(右)。子どもの明るさは救いという=5月21日、静岡県内

 読者の日常の困り事や疑問について取材、調査する静岡新聞社「NEXT特捜隊」に、小学生の子どもをひとりで育てる女性(47)から切実な声が寄せられた。母子家庭はコロナ禍をどう乗り切ったらいいのか、取材を進めると、女性活躍推進を目指しているはずの現代で解消されていない、女性の雇用や子育ての責任をめぐる意識の問題が浮かんだ。
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 女性は生命保険会社の保険外交員。新型コロナウイルス感染症の影響で営業ができず、4月の収入が手取りで4万6千円に半減した。飲食店のアルバイトで4万6千円の副収入があったが、店は4月下旬から休業し、5月も収入が回復する見込みはない。元夫からは一度も養育費を受け取っておらず、貯蓄もない。
 4月分の家賃4万2500円を滞納し、5月分も含めて支払いのめどが立たない。申請を済ませた1人10万円の給付金が直近の唯一の頼り。国はひとり親家庭に対する臨時給付金も支給する方針だが、支給時期は8月以降の見通しで心細い。
 離職などにより住居を失った人やその恐れが高い人に対し一定期間、家賃相当額を支給する生活困窮者向けの「住宅確保給付金」について、国は年齢や離職の要件を緩和している。女性は給付金を利用しようと居住自治体に問い合わせたが、支給の収入要件は月16万円以下。女性の収入は、給与に子ども手当と児童扶養手当の1カ月分計5万円を加え、総支給額が16万6千円と算定され、対象外だった。静岡市を拠点に、困窮したひとり親家庭への食料支援などを行う当事者団体「シングルペアレント101」の田中志保代表は「収入要件が厳しく、母子家庭では利用しにくい」とみる。

 ■休校で支出増
 一方で、収入に関係なく支出は増えているという専門家の指摘をネット上で見つけ、話を聞いた。母子家庭の住宅問題を研究する追手門学院大の葛西リサ准教授が、ひとり親を対象に4月末から実施したウェブアンケートでは、収入が変わらない世帯でも、休校による子どもの在宅で増えた食費や光熱費が家計を圧迫していた。葛西准教授は「母子世帯が家を失うリスクは高まっている」として、住宅確保給付金のさらなる要件緩和や、生活保護の柔軟な運用を求める。
 現金が底を突き、収入の見通しがなくなったらどうしたらいいのだろう。田中代表は「社会福祉協議会が実施する生活費の貸し付けも対象が広がっているが、希望者の集中で手続きに時間がかかっている。生活保護を受け、家計を立て直すのが現実的では」と話す。
 女性は子どもが1歳のころ、夫が全財産を持って消えた。夫名義で借りていた住宅は退去を迫られ、就職は育児に親の支援がないのを理由に何度も断られた。それから10年以上たつが、「子どもと2人で困っても、最終的には離婚した母親が悪い、という世の中の空気は変わらない」と感じている。

 ■子育ては女性
 労働政策研究・研修機構の子育て世帯全国調査(2018年)では、母子世帯の年間の平均収入はふたり親世帯の4割程度。離別した父親の44%は子どもと全く交流がなく、子育てに参加していない。普段から不安定な働き方を強いられ、父親側からの支援も薄い中、独力で子どもを育てる母親たち。コロナ禍が、経済基盤の弱い母子家庭を直撃している。(TEAM NEXT編集委員 西條朋子)

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