【アジアン・カンフー・ジェネレーションの新作『フジエダEP』】藤枝市の録音スタジオ「MUSIC inn Fujieda」の開幕を告げる「祝祭」

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は2026年3月25日発表のアジアン・カンフー・ジェネレーション『フジエダEP』を題材に。
(文・写真/論説委員・橋爪充 CD写真/写真部・堀池和朗)

アジカンのCDではおなじみ、中村佑介さんのジャケットに目を凝らす。現代の飛脚とも言うべきスタイルのランニング女子の奥に見えるのは白壁の土蔵。池にはパンダ仕様の足こぎボート、遥か彼方に富士山が見える。3月22日にオープンしたばかりの藤枝市藤枝の滞在型音楽制作スタジオ「MUSIC inn Fujieda」、藤枝市を象徴する蓮華寺池公園、静岡県が世界に誇る霊峰を全てモチーフとして取り込んだジャケットは、この作品がいかに静岡県民にとってスペシャルなものであるかを雄弁に伝えている。

一番手前のランニング女子に再び目を移す。キャップには「MUSIC inn Fujieda」のロゴの一部が確認できる。竹に挟んだ書簡の住所は「藤枝市藤枝」。まさしく「MUSIC inn Fujieda」の所在地である。藤枝と日本各地、いや世界各地をつなぎ、音楽のネットワーク構築を図ろうという新スタジオの野心を表しているかのようだ。

先週から今週にかけて多くの報道があるように、「MUSIC inn Fujieda」はアジカンのフロントマンの後藤正文さん(島田市出身)が仲間たちと設立したNPO法人アップルビネガー音楽支援機構が運営に当たる。22日の内覧会には、スタジオの施設工事費を募ったクラウドファンディングの出資者や音楽ファンらが大勢詰めかけた。

筆者も施設オープンの午前10時に間に合うように見学の列に並んだが、このスタジオが非常に多くの人との「共創」で完成に至ったことが実感できた。陳腐な言い方だが、みんなこのスタジオ、プロジェクトに自分の「夢」や「理想」を託しているのだろう。それを人任せにせず「自ら動く」というスタンスも感じられるのが2020年代っぽいところだ。

3月22日の内覧会で公開された「MUSIC inn Fujieda」のコントロールルーム


さて、そんな「MUSIC inn Fujieda」で録音した「フジエダEP」は、先行リリースされた「おかえりジョニー」を含めた4曲を収録。一聴して分かるが、ドラムの音がいい。良い意味で「明らかに人間が扱っている」音がする。特に心臓の鼓動そのもののようなキックの音に惹かれた。先端が丸みを帯びたハンマーで、聴く者の胸を的確に打ち抜くかのようだ。

タイプの違う4曲の中で異彩を放つのがスピッツのカバー「ナンプラー日和」だ。アジカンがスピッツをカバーするのは2015年のスピッツトリビュートアルバムの「グラスホッパー」以来だと思う。世代は多少異なるが、4人バンドの半数が静岡県人である点で、二つのバンドは共通する。

アジカンで言えば後藤さんに加えてベースの山田貴洋さんが富士宮市出身。スピッツはギターの三輪テツヤさん、ベースの田村明浩さんが共に藤枝市内の高校を卒業している。アジカンが今作を出す上でスピッツの楽曲を選んだのは、メンバーの出身地を意識したと思われる。

その「ナンプラー日和」だが、沖縄のカチャーシーのようなリズムとメロディーをラウドなギターサウンドで奏でている。ウィーザーやシュガー、ハスカー・ドゥといったオルタナバンドが頭に浮かぶ。アジカンとスピッツのメンバー8人が、リヴァース・クオモやボブ・モウルドらを巻き込んで、手を振りかざして躍っているような、楽しすぎる絵が浮かぶ。

疾走感、ドライブ感という言葉をそのまま曲にしたような『膝栗毛』、追憶の先にある強い意志を感じる『おかえりジョニー』、藤枝の風景を織り込んだ『ペダルボート』も素晴らしい。メランコリックなメロディーがことごとく力強く響く。「MUSIC inn Fujieda」の開幕を告げる、祝祭の一作だ。

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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