多様な背景を持った人たちが協力して壁を乗り越えるボルダリングのイベントが開かれました。指導したのは、全盲のレジェンドクライマー。今回のプロジェクトを通して伝えたかったこととは。
「こちらにあるのがクライミングの壁になります」
浜松市中央区のクライミングジムで開かれたのは、「まぜこぜスポーツまるシェ」。
「この状態でバランスを取って」
障害のある、なしや性別などに関係なくみんなでボルダリングを楽しもうというイベントです。
<視覚障害のある参加者>
「すごい楽しいです、登れるのって。めちゃくちゃ大変なんですけどゴールは大変うれしいです」
<半身まひのある参加者>
「自分は片手で、左半身麻痺ってことで初めてボルダリングをやらせてもらって楽しさがある」
この日、指導にあたったのは、全盲のクライマー小林幸一郎さんです。
<全盲のクライマー 小林幸一郎さん>
「『片腕が動かないですけど、登れますか?』と聞かれます。必ずこう答えます。『わかりません』と。だからこそ登ってみてほしいです」
小林さんは目の難病で視力を失いましたが、パラクライミングの世界選手権を4連覇したレジェンドクライマー。いまは全国で、クライミングを楽しむ機会を提供する活動を進めています。
今回、参加者が挑戦したのは、目が見えない状況でのクライミングです。
「左手が10時くらい!」
参加者はチームを組み、登る人は目隠しを、他の人が下から登り方を指示します。なぜ、こういう仕掛けを用意したのか。今回、目指したのは「一体感の共有」です。
<主催者「ASOBI」寺田美穂子さん>
「誰しも経験したことないことは怖いと思うんですよね。不安だし、それが見えない壁になっていると思う。でも、1対1になれば、そんなことは関係なくて、お互い人と人として、付き合えると感じてもらえたのでは」
Q.どれ動かしたい?
「左足」
最初は、ぎこちなかったやり取りも時間が経つにつれ、双方向に。
<参加者>
「目が見えないと自分たちと違う世界なんだなって感じる部分がたくさんありましたね」
「指示を聞けば自分はできるけど、指示を出す人は気持ちも考えなきゃいけないし難しい」
ハンデを抱えた人のために何ができるのか。参加者の心にはそんな思いが芽生えていました。
<全盲のクライマー 小林幸一郎さん>
「みんながスポーツを通じて一体感を得られる感覚って、私たちはあるべき社会の縮図だと言ってまして、意外に普通に一緒だったよ、楽しめる人たちだったよと持ってもらえる経験の場所にしたいと」
私たちが、知らず知らずのうちに自分の周りに築いてしまう「見えない壁」。それを打ち破る可能性をこのイベントは示しています。