昔の人たちは、自然災害を妖怪に例えて、語り継いだ可能性があることが分かりました。地域に伝わる妖怪の民話から、防災の教訓を紐解こうとする大学院生の取り組みを追いました。
静岡市清水区を流れる巴川です。そこにかかる橋にいたのはー妖怪の「河童」です。

<静岡大学大学院 小川日南さん>
「河童は水の神が姿を変えたものともいわれる。巴川の豊かな水源を象徴しているとともに、去年の台風15号の水害もこの辺りはひどかったが、水の災害とか自然の脅威を表した妖怪」
静岡大学大学院2年の小川日南さんは、地域に伝わる妖怪の民話から災害の歴史を調査しています。
約50年前の七夕豪雨でも巴川があふれ、甚大な被害が出るなど、昔から巴川は水害と切り離せない歴史があります。

<静岡大学大学院 小川日南さん>
「昔は災害のメカニズムなど科学的な理解がなかったと思う。そういう時代に妖怪を登場させることで、人々は自然の脅威を納得するように自分たちに語り継いできたのかなと思う」
小川さんは、大学時代から郷土誌の分析や地域での聞き取り調査などをもとに、災害伝承について研究を進めてきました。
<静岡大学大学院 小川日南さん>
「歴史の観点と科学の観点という両方捉えることをしている」
小川さんの研究によって「河童=大雨や洪水」「龍や大蛇=土砂災害」など、妖怪は災害の歴史と結びついていて、妖怪の民話が残る地域は、ハザードマップでも被災想定区域であることが分かってきました。

11月11日、小川さんは、巴川の上流に位置する麻機地域を調べるためフィールドワークに参加しました。

<静岡大学大学院 小川日南さん>
「ここにも土石流渓流の看板がありますね、いっぱい出てきますね。巴川の水流なので、危険な場所もあるのかもしれない」
かつて多くの沼があった麻機地域は、土砂災害のリスクがあります。小川さんは、地域に伝わる「沼のばあさん」という民話に着目しました。
河童に孫娘をさらわれたおばあさんが、龍に姿を変えて河童を退治し、沼の守護神になったというお話です。実際に、地域の寺には沼のばあさんの像が安置されています。
<大安寺住職>
「地域の鎮守さんというか、毘沙門さんと沼のばあさんは地域の鎮守様なので」
<静岡大学大学院 小川日南さん>
「神様のような?」
<大安寺住職>
「鎮守様は守り神」
小川さんは、これまでの調査結果を「防災妖怪学」と題して論文にまとめています。
さらに、教職課程での学びと合わせて、妖怪を切り口に小中学生向けの防災教材を作るのが目標です。

<静岡大学大学院 小川日南さん>
「なぜ、その地域に妖怪や昔話が伝わっているかを子どもたち自身が読み解くことによって、地域の災害のリスクに気付いたり、地域の地形に気付いたり、という風な防災教育をできれば」
河童や龍、大蛇のほかに、鬼は火山噴火の歴史とつながりがあることも分かってきました。小川さんは「現代では、妖怪の民話だけが残って、災害の歴史は忘れ去られていることが多い」と指摘していて「地域の民話に隠された災害の記録を残していく必要がある」と話していました。
















