サッカージャーナリスト河治良幸
運命の国立決戦!清水エスパルスに立ちはだかる東京ヴェルディとは。J1昇格プレーオフ決勝の注目ポイント
オリジナル10によるサバイバルマッチ
昇格プレーオフの決勝で、清水エスパルスは東京ヴェルディと対戦する。いわゆる“オリジナル10”によるサバイバルマッチ。しかも国立競技場で行われるとあって、世間的な注目度も高まっているが、引き分けなら年間順位で上回るヴェルディが昇格となる。そのためモンテディオ山形との準決勝をスコアレスドローで勝ち上がった清水も、決勝では90分で勝ち切るしかない。
J2最少失点の堅守
経験豊富な城福浩監督が率い、16年ぶりのJ1を目指すヴェルディの強みはJ2最少失点の堅守だ。ヴェルディといえば元々テクニカルにボールを動かしながら、相手のディフェンスを崩していく伝統がある。2年目の城福監督はそうした伝統をベースとして引き継ぎながら、4−4−2のコンパクトなブロックで相手の攻撃を阻み、ボールを奪って前にスペースがあれば、縦に早く持ち出してゴールを狙う意識を植え付けている。
ジェフ千葉との準決勝では千葉の立ち上がりからの猛攻に耐えて、相手に隙が生じたタイミングを突いて、ボランチの森田晃樹の縦パスがこぼれたところに、右サイドから流れてきた中原輝が左足を振り抜き、鮮やかなゴールを決めた。
さらにカウンターから齋藤功佑のクロスに二列目から飛び出した森田がヘッドで合わせて追加点。1点を返されたが、終盤をしっかりとコントロールして、2−1で勝利した。
東京Vは清水のタレント力を警戒「個の能力はJ2のレベルではない」
2トップの一角として前線からチームを牽引したFW染野唯月は「自分もプレーオフは初めての経験で緊張しましたし、前半は相手に圧倒されてしまった部分があったので。その中で、先制点が取れたのは一番大きかったのかな。勝利に繋がる1点だった」と振り返る。鹿島アントラーズから育成型期限付きで夏に加入した22歳の染野。後半戦だけで6得点を記録しているが、前線から精力的に守備することを第一のタスクにおいている。
そうした意識がチーム全体に浸透しているのがヴェルディであり、千葉戦でも発揮された形だ。ただし、決勝はさらに厳しい戦いになることを染野も覚悟している。理由は清水のタレント力だ。千葉も組織的で非常に手強い相手だが、やはり”個の力”という部分ではヴェルディもしっかりと太刀打ちできた。しかし、千葉戦の前日に行われた清水と山形の試合を映像で観ていたという染野は「やっぱり個の能力はJ2のレベルではない」と清水を評した。
「自分たちも遠慮せずに、自分たちからゲームを運ぶことを意識したい。雰囲気や相手のプレスに飲まれずに、自分たちが主導権を握って試合を進めれば、自分たちが勝つのかなと思います」
そう染野は力を込める。清水は味の素スタジアムで行われた8月6日のアウエーゲームに1−0で勝利しているが、染野は4本のシュートを放つなど、清水ディフェンスの脅威になった。その時は4−1−4−1というシステムだったが、おそらくプレーオフの決勝は千葉戦と同じく4−4−2で来るだろう。染野の相棒はスピードのある山田剛綺が予想される。
東京Vのサイドアタックに注意
ヴェルディは山形戦でゴールを決めた右サイドの中原も危険だが、左から2得点の起点になった齋藤功佑にも注意は必要だ。横浜FC時代にJ1を2シーズン経験している齋藤は全国から注目が集まる大一番であることを認識した上で「自分のプレースタイル的にも、チームとしてうまく機能しないと、自分も活躍できない。結局チームのためにやることが自分のためにつながる」と語る。
右サイドからドリブルで切り裂いてくる中原、左から嫌らしく守備のポケットに入り込んでくる齋藤。彼らを引き出すのは中央に構える司令塔の森田であり、縦横無尽の機動力を持つ稲見哲行だ。稲見はボールを奪ってそのままミドルシュートに持ち込む”パンチ力”もあるので、清水は白崎凌兵やホナウドが、中盤で生じるバトルに勝っていく必要がある。
清水は焦らず、90分で勝ち切るサッカーを
ヴェルディの4バックは相手の攻撃を止めるだけでなく、しっかりとボールを動かし、正確なパスで攻撃の起点になれる選手たちだ。右サイドバックの宮原和也は172センチとサイズこそ大きくないが、1対1の守備にめっぽう強く、攻撃では自在にボールを動かして、絶妙な縦パスを付けてくる。もし清水のカルリーニョス・ジュニオが対面することになった場合も、ある程度ディフェンスの貢献は求められるはず。もちろん守備に追われて、本来の攻撃力が半減したら意味はない。そしてヴェルディが誇る”最後の砦”がブラジル人GKのマテウス。ホームの試合でビッグセーブした時に、電光掲示板に「Nice Save」と表示されて、マテウスが人差し指を横に振る映像は清水サポーターもあまり見たくないだろう。
とにかく清水は点を取らなければ勝てない。ただ、闇雲に攻めてボールを奪われて、千葉のように前半リードされる展開になると非常に苦しくなる。清水にはベンチに勝負をかけるカードも豊富にあるだけに、攻撃的に、しかし焦らず90分で勝ち切るサッカーを目指してもらいたい。
<河治良幸>
タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。 サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。著書は「ジャイアントキリングはキセキじゃない」(東邦出版)「勝負のスイッチ」(白夜書房)「解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る」(内外出版社)など。
タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。