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社説(8月29日)戦没者遺骨の収集 国の本気度が問われる

 岸田文雄首相は15日の全国戦没者追悼式で、硫黄島と沖縄を含む海外戦没者の遺骨について、国の責務として収集を集中的に実施すると明言した。「一日も早くふるさとにお迎えできるよう、引き続き全力を尽くす」と述べた。
 厚生労働省によると海外戦没者は約240万人で、遺骨の未収容は約112万柱に上る。終戦から78年が経過し、遺骨の傷み、戦没者遺族の高齢化が進む。遺族会も縮小や解散が相次ぐ。県内の遺族会の会員世帯数は2022年12月末時点で約1万6千世帯。3年前から約5千世帯減った。国はできるだけ早く、1柱でも多くの遺骨が帰還できるよう力を尽くすべきだ。
 追悼式では14年の安倍晋三氏以降、出席した首相がほぼ毎年同じ内容を口にしているが、14~22年の政府派遣による戦没者遺骨の収容は約5800柱にとどまる。16年には遺骨収集を「国の責務」とした戦没者遺骨収集推進法が施行されたが、実態との乖離[かいり]が激しい。
 政府は今年6月、同法を改正し、事業の「集中実施期間」を29年度まで5年間延長した。今年7月の閣議決定では、沈没した艦船を含め国内外の約3300カ所の現地調査を実施するとした。精度の高い情報を集め、埋葬地の特定につなげてほしい。「集中実施」の本気度が問われる。
 収容された遺骨の身元の特定も、さらなる工夫が必要だ。03年度から始まったDNA鑑定で身元が判明したのは、22年度までで1231件にとどまる。
 厚労省は長く、DNA鑑定の対象を身元が推定できる遺留品や埋葬地名簿が一緒に残っている遺骨に限ってきた。だが、遺族からの批判もあり、厳格な要件は徐々に緩和されている。21年度からは手がかりがない遺骨もDNA鑑定を行うようになった。検体からのDNA抽出、DNA情報の判定、遺骨と遺族の判定マッチングの実施は、大学など外部の12機関に委託していたが、22年度には省内に自前の分析施設も設置した。
 同省が保管する遺骨の検体数は硫黄島、沖縄、旧ソ連など21地域の約1万2700(23年5月末)。新施設の稼働で検体数は増加した。遺族からの申請数も20年度は212件だったが、21年度503件、22年度919件と急増している。制度や成果の周知、迅速な鑑定を実現する体制整備を求めたい。
 遺骨収集は戦争の惨禍と向き合う重要な事業である。ただ、それを永遠に続けるわけにはいかないのも事実だ。収集は年々難しさを増している。「集中期間」を場当たり的に延長するのではなく、事業の将来について、具体的な議論が必要な時期だ。

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