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オランウータンのジュン 天国へ

 静岡市立日本平動物園の人気者オランウータンのジュン(39)が天国へ旅立ち、ファンの間に悲しみが広がっています。日本平動物園で生まれ、一生をかけて来園者に豊かな時間を届けたジュンの横顔を振り返ります。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・尾原崇也〉

緊急事態宣言の臨時休園中に届いた悲報… 14日から献花台設置予定

 静岡市駿河区の日本平動物園は6日、雄のオランウータン「ジュン」(39歳)が死んだと発表した。同園は緊急事態宣言に伴い休園中で、14日からオランウータン舎前に献花台を設置する予定。

来園者の人気を集めた「ジュン」(日本平動物園提供)
来園者の人気を集めた「ジュン」(日本平動物園提供)
 ジュンは1982年5月に同園で生まれた。小さい頃に母親を亡くし、人工哺育(ほいく)で育てられた。おっとりとした素直な性格で、飼育員を困らせることはほとんどなかったという。2018年に来園した雌の「ミンピー」(14歳)と並んでひなたぼっこするなど、仲むつまじい姿が見られた。
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ジュン(左)とミンピー(2019年8月、日本平動物園提供)

今年初めごろに体調を崩し、治療を続けていた。死因は多臓器不全。同園のオランウータンはミンピー1頭になった。
 〈2021.9.7 あなたの静岡新聞〉

さまざまな表情やしぐさで来園者を楽しませた

 

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〈2013.3.28 静岡新聞朝刊〉
 
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〈2006.12.25 静岡新聞朝刊〉

クリスマスケーキを口に運ぶジュン=日本平動物園〈2010.12.4 静岡新聞朝刊〉
クリスマスケーキを口に運ぶジュン=日本平動物園〈2010.12.4 静岡新聞朝刊〉

これまでに2回 繁殖成功していた

 日本平動物園は、3頭のオランウータンを飼育しています。オスのジュン(29歳)は性格が非常に温厚で、飼育員を困らせることはほとんどありません。メスのキャンディ(33歳)は少し頑固な面があります。昨年(※2010年)9月、赤ちゃんが生まれました。

母親のキャンディ(右)に抱かれるクッキー
母親のキャンディ(右)に抱かれるクッキー
 2000年11月、先代のメスが死亡したため繁殖目的でキャンディが来園しました。しかし当初は2頭の相性が悪く、同居を試みたところジュンがキャンディを押さえつけてけがをさせてしまいました。オランウータンはオスとメスに体格差があります。メスは約50キロですが、オスは100キロを超える場合もあります。キャンディは回復後もジュンを怖がり、気配を感じるだけで鳴くようになってしまいました。
 毎日30分程度の同居を根気強く続けた結果、5年後に大きな変化が表れました。2頭が寄り添う姿が見られるようになったのです。キャンディも心を開いたのか、鳴くことがほとんどなくなってきました。その後交尾行動も見られ、「繁殖か」と思ったのですが、なかなか妊娠の兆候が認められません。「生殖機能に何か問題があるのか」と心配もしました。09年2月、ホルモン調査で妊娠が確認された時は「いよいよ」という思いでした。
 妊娠期に心配していた拒食や便秘などもなく、10年9月13日の早朝、無事クッキー(オス)を出産しました。当園でオランウータンが生まれるのは17年ぶりです。現在9カ月。だいぶ大きくなりましたが、まだまだ母親にべったりです。無事成長できるよう、見守ってあげてください。
【メモ】哺乳綱霊長目ヒト科。スマトラとボルネオの2亜種。日本平で飼育されているのは後者。開発により生息地が失われつつあり、絶滅が心配されている。
 〈2011.6.20 静岡新聞朝刊 連載「動物園の動物学-日本平から」〉
 ※キャンディは2019年に、クッキーは2012年に亡くなりました。

デジタル絵本の題材になったことも 森林伐採、SDGsテーマ

 静岡大と静岡市立日本平動物園は、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の考え方を幼児や低学年児に伝えるデジタル絵本を制作した。情報通信技術(ICT)教育での活用を想定している。

デジタル絵本のパネル展示も行っている=静岡市立日本平動物園
デジタル絵本のパネル展示も行っている=静岡市立日本平動物園
 全17㌻。同園で人気のオランウータン「ジュン」と「ミンピー」を主人公とし、故郷の熱帯林が伐採で頭数を減らしている現状を伝えている。伐採は菓子やせっけんなどに用いるパーム油を生産する畑を作るため。同様に絶滅の危機にさらされている動物も登場し「故郷を守るためにできることを一緒に考えて」と皆で呼び掛ける。園内ではパネル展も開催し、教育現場での活用方法も事例を交えて紹介している。
 文章は同大教育学部の田宮縁教授、絵はイラストレーターの高見洋子さんが手がけた。監修した同園の柿島安博獣医師は「子どもたちが好きな動物をきっかけに、生息地の現状と自分たちの生活の関わりに興味を持ってくれれば」と話した。
 〈2021.3.16 静岡新聞朝刊〉
地域再生大賞