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♨「湯守り」文化を発信 東伊豆町・熱川温泉その魅力は

 静岡県内有数の温泉地、東伊豆町の熱川温泉♨。温度はおよそ100度で全国トップクラス、噴き出る湯煙が名物です。今年6月には伊豆半島ユネスコ世界ジオパークのジオサイトにも登録されました。温泉の起源や観光地としての取り組みについて1ページで紹介します。

「湯の華」掃除の様子を初公開 巨大な結晶、つるはしで砕く重労働

 東伊豆町の熱川温泉旅館組合は(※9月)16日から、温泉源泉の掃除の様子を一般向けに初公開した。今夏の同温泉のジオサイト登録を記念した取り組みで、温泉管理をしてきた「湯守り」をはじめとした温泉文化を観光客らに周知する狙い。30日までの土日に見学イベントを開催した。

源泉の様子を確認する斉藤欣邦さん(左)と石島正和さん。湯煙がモクモクと噴き出している=9月12日、東伊豆町奈良本
源泉の様子を確認する斉藤欣邦さん(左)と石島正和さん。湯煙がモクモクと噴き出している=9月12日、東伊豆町奈良本
 「熱川には多くの露天風呂が点在しています。源泉の温度が高温で冷ます必要があるのですが、昔は水源が少なく外気で代用していたんですよ」。12日の同町奈良本。自噴する大量の温泉を受け止め、源泉を掃除するための「温泉櫓(やぐら)」を前に「ふたりの湯宿 湯花満開」専務の石島正和さん(37)がイベント当日の流れを確認していた。近隣温泉地の源泉温度は50~60度程度だが、熱川の温度はおよそ100度で全国トップクラスという。
 熱川温泉の特徴は、源泉の管の内部や周辺にこびりつく白い結晶。地元では「湯の華」と呼ばれ、源泉に溶け込む成分が豊富な故、温泉が地上に出た際に成分が凝固して形成される。
 この「華」を取り除く作業を手がけている一人が、温泉櫓を管理する「八大偕楽園」社長の斉藤欣邦さん(24)。他の温泉地のような機械作業は当地の高温な源泉では機械が耐えられないため、週に3回程度、人の力で行う必要がある。「ノミ」と呼ばれる棒状の道具を使って結晶を取り除き、吹き出し口周辺にたまった巨大な結晶をつるはしで砕く重労働だ。イベントではこの様子を一般に公開する。
 斉藤さんは「熱川温泉の魅力は何といっても豊富な成分。間近に見て、良質な温泉であるということを広く知ってもらいたい」と張り切る一方、「源泉は本当に高温。高価な服を着てくるのは避けてください」とおちゃめに笑う。当日はカッパを貸し出すという。
 (下田支局・伊藤龍太)
<2023.9.15 あなたの静岡新聞>

温泉の起源は室町時代? 「美肌の湯」とも

 熱川温泉の起源は室町時代にまでさかのぼるともされる。熱川温泉旅館組合によると、武将太田道灌が近隣での狩りの最中に深手を負った際に発見したとの説がある。

温泉を発見したとされる武将太田道灌にちなんで行われる行事「石曳(び)き道灌まつり花火大会」の様子。江戸城築城の際に伊豆で切り出した巨大な石を運んだとされる歴史を再現し、観光客ら250人が重さ12トンの伊豆石を運搬した。
温泉を発見したとされる武将太田道灌にちなんで行われる行事「石曳(び)き道灌まつり花火大会」の様子。江戸城築城の際に伊豆で切り出した巨大な石を運んだとされる歴史を再現し、観光客ら250人が重さ12トンの伊豆石を運搬した。
 温泉街に立つ温泉櫓(やぐら)は13本。コンパクトな温泉街で、面積あたりの櫓の数は日本一とうたっていて、各所から噴き出る湯煙が名物となっている。100年ほど前から旅館が並び始め、現在は17軒の宿泊施設が営業する。
 通常は高温の温泉が地表近くに噴き出す例は少ないが、伊豆半島の長年の地殻変動により、本来深い位置だったはずの熱を持った地層が地表近くに現れ、浅い場所で高温の温泉が噴き出すようになったという。
 泉質の特徴は豊富な「メタケイ酸」。肌の新陳代謝を促すとされ、一般的な温泉の4倍もの含有量といい、炭酸水素イオンやカルシウムイオンも豊富。「美肌の湯」とも称されている。

結晶人気 保湿成分豊富、入浴時のお供にいかが

 東伊豆町の熱川温泉に点在する「温泉櫓(やぐら)」の一つの管理を手がける「八大偕楽園」(同町)が今秋から販売開始した温泉の結晶「天然湯の花」が人気を集めている。同温泉には保湿成分の「メタケイ酸」が豊富に含まれているとされ、採取した結晶を粉砕し香料は使用していない。入浴時に使用し、「体の芯から温まる」などと好評を得ているという。

商品を紹介する斉藤さん=東伊豆町
商品を紹介する斉藤さん=東伊豆町
 結晶は源泉の管の内部や周辺にこびりつく。熱川温泉旅館組合によると、同温泉の源泉は全国トップクラスの高温で、溶け込む成分が豊富。温泉が地上に噴出した際に成分が凝固し、白色の結晶が発生する。
 この結晶に着目したのが八大偕楽園社長の斉藤欣邦さん(24)。メタケイ酸は肌の新陳代謝を促すともされ、源泉1キロあたり100ミリグラム以上含まれていれば他地域では「美肌の湯」と称することも多いが、同温泉の含有量は235ミリグラムという。
 1パック200グラム入りで1200円。家庭での入浴時はスプーン大さじ1杯で十分といい、12~14回程度「温泉気分」を楽しめる。他の温泉地では成分などをまねて「温泉風」の入浴剤を販売している地域もあるというが、「『本物』の温泉のぬくもりを感じてもらい、もう一度熱川に来てもらうきっかけにしたい」と斉藤さんは見据える。
 組合の事務所や熱川バナナワニ園、一部の宿泊施設で購入できる。問い合わせは八大偕楽園<電0557(22)0200>へ。
 (下田支局・伊藤龍太)
<2023.11.10 あなたの静岡新聞>

イベントや商品開発 熱川温泉の魅力を発信する斉藤欣邦さんに聞く

 今春に町職員から温泉管理会社「八大偕楽園」の4代目社長に就任。熱川温泉旅館組合と連携しながら、イベントや商品開発で魅力発信に努める。静岡市清水区出身。24歳。

斉藤欣邦さん
斉藤欣邦さん
 -普段の仕事内容は。
 「熱川温泉には自噴する大量の温泉を受け止め、源泉を掃除するための『温泉櫓(やぐら)』がいくつか立ち並んでいる。噴き出る湯煙が名物となっていて、この一つの管理が主な仕事」
 ―その源泉の掃除の様子を公開するイベントを9月に開催した。狙いは。
 「源泉温度がおよそ100度と全国トップクラスに高く、機械が耐えられないため多くの作業を人力で行う必要がある。期間を通じて約50人に参加してもらい、『温泉を身近に感じた』といった意見をいただいた。普段は触れることのない温泉の新たな魅力を示すことができた。温泉管理をはじめとした熱川の『湯守り』文化の発信につながった」
 -温泉の結晶の商品化も始めた。背景は。
 「源泉に溶け込む成分が豊富なため、源泉の管の内部や周辺に白い結晶がこびりつく。この除去が仕事の一つだが、何かに生かせないかと思い商品化した。保湿成分の『メタケイ酸』が豊富に含まれている。観光客に購入してもらい、再訪につなげる狙いだ」
 -抱負を。
 「熱川温泉の泉質は全国でもトップクラス。ただ、バブル前のピーク時に比べれば周辺の元気がなく、知名度もまだまだ不足している。温泉街としてだけでなく、企業としても、まずは“穴場”として県外から注目してもらえるようさまざまな取り組みをまた考えたい」
  (下田支局・伊藤龍太)
<2023.11.11 あなたの静岡新聞>
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