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マナー違反、迷惑行為続出 富士登山者数急増でみえてきた課題

 富士山の登山客者数が急増した今夏、一部の外国人観光客による弾丸登山や迷惑行為が続出しています。川勝平太知事は、22日の定例記者会見で、現在は任意で徴収している富士山保全協力金(入山料)について義務化へ議論加速させる考えを示しました。富士登山を巡る課題を1ページでまとめます。
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富士登山者数 須走口はコロナ前超え ごみも大幅増

 小山町は8月16日までに、富士山須走口で7月10日の開山日から同31日までに1万75人(速報値)の登山者を確認したと発表した。新型コロナウイルス拡大前の2019年の同時期の人数(8817人)を上回った。一方、登山者の増加に比例してごみの不法投棄も大幅に増え、マナー周知の課題が浮き彫りになっている。

お盆期間中の1回の清掃活動で回収した登山道のごみ=13日、小山町の富士山須走口5合目
お盆期間中の1回の清掃活動で回収した登山道のごみ=13日、小山町の富士山須走口5合目
 須走口5合目で保全協力金の任意徴収業務に当たるスタッフらが人数を数えた。夜間は不在の時間もあり実際の登山者数はさらに多い可能性がある。22年度の同時期は6349人。今夏は新型コロナの制限解除やインバウンド(訪日客)の回復も含めた観光登山者の増加、富士山世界文化遺産登録10周年の記念イヤー、好天候など複数の要因が重なったと分析している。
 登山者増に伴い、開山前から懸念されていたごみの不法投棄が深刻化している。2日に1回程度、清掃、巡視活動を行う同町のガイド集団「やまぼうし」の米山千晴代表(71)によると、今年は平日に平均約20キロ、土日は平均約50キロのごみを回収。盆期間の12~13日に行った清掃では約85キロ分を集めた。安価なビニール製のかっぱや食べ残し、ペットボトル、防寒着などが特に多く、外国人登山者の中にはマナーの理解が低い人も少なくないという。
 県は不法投棄防止を訴える多言語のメッセージを表示したごみ袋を作り、県内3登山口や山小屋などで配布する取り組みを続ける。富士山の環境改善に向け、米山代表は「登山者のマナー意識の向上がまだ不十分だと思う。登山前にきちんと周知する機会を工夫して作り出していく必要がある」と指摘する。
 (御殿場支局・塩谷将広)
 〈2023.08.17 あなたの静岡新聞〉

悪天候構わず...お盆の富士山「無計画」 外国人続々と

 お盆の富士山は、国内在住の外国人とみられる登山者が悪天候に構わず訪れている。軽装で雨にぬれ、深夜に山小屋を訪ねたり危険な場所で火をたいたりと、無計画さやマナー違反が散見される。関係者は「命に関わる事故が起きないか」と危機感を募らせる。

外国人に引き返すよう求める富士登山ナビゲーター(左側)=14日午後4時ごろ、富士山富士宮口5合目
外国人に引き返すよう求める富士登山ナビゲーター(左側)=14日午後4時ごろ、富士山富士宮口5合目
 富士宮口8合目の池田館では雨が降った8月13日夜、消灯後の午後9時以降に何人もの宿泊予約していない登山者が扉をたたいた。同館は予約キャンセルの枠を活用して約70人の希望者を山小屋の中に入れた。大半が外国人だったという。着替えを持たない人が多く、貸し出した寝袋は水浸しになり、従業員たちは乾燥を急ぐ。池田裕之代表は「もし今晩(14日夜)来ても対応は難しい」と頭を抱える。
 14日の同口5合目登山道入り口では、案内役のナビゲーターが登ろうとする人たちに下山を促した。午後4時ごろ、外国人5人組に対してナビゲーターは「命の危険があるから引き返して」と求めた。5人は「山小屋を予約している」と食い下がり、問答の末、6合目まで行って引き返すことで落ち着いた。
 荒天時は救助要請の対応も厳しさを増す。富士宮署山岳遭難救助隊の渡辺浩行小隊長は「富士山は独立峰で強風が吹きやすい。大人でも飛ばされそうになるなど、現場にたどり着くのが難しいほどの危険が伴う場合もある」と話す。
 お盆の時期は以前から、国内企業の休暇に合わせて多くの外国人労働者が登山を企画する。山小屋は、たき火やごみの放置、大音量の音楽などのマナー違反に悩まされてきた。今季は同口5合目で、高床になっているプレハブ小屋の下で火をおこしている姿も確認されている。池田代表は「富士山に来る前に意識改革ができないものか」とこぼす。
 (富士宮支局・国本啓志郎)
 〈2023.08.15 あなたの静岡新聞〉

 

5合目駐車場で危険な運転、一時騒然 富士山富士宮口

 富士山富士宮口5合目駐車場で9日朝、外国人とみられる男が乗った乗用車が危険な運転を繰り返し、5合目に向かう富士山スカイラインが通行止めになるなど、一時騒然となった。富士宮署が状況を調べている。

富士山
富士山
 複数の目撃者によると、同日午前7時ごろに同乗用車が駐車場に到着し、一方通行の場内を約3時間にわたって周回し続けた。到着時に富士山保全協力金受付の近くにあったバリケードを突破したとの情報もある。暴走車両を見ていた男性は「スピードを出したと思えば、横断歩道で止まって歩行者を渡らせていた。よく分からない運転だった」と困惑気味に話した。
 富士山スカイラインは9月10日までの開山期、2合目の旧料金所で許可車両以外の通行を規制している。県によると、同日は乗用車が1台、警備員の制止を振り切ってゲートを通過した。富士宮署と県などは事態を沈静化するために午前9時半ごろから同11時ごろまで、警察車両以外の通行を禁止した。
 〈2023.8.10 あなたの静岡新聞〉

入山料義務化へ議論加速 来夏までに方向性

 川勝平太知事は22日の定例記者会見で、現在は任意で徴収している富士山保全協力金(入山料)について、登山者から漏れなく徴収できる条件が整うことを前提に、「義務化するのが義務だ。次の夏までに料金や義務化に関わることの方向性を出さねばならない」と述べ、議論を加速させる考えを示した。

静岡県庁
静岡県庁
 同協力金の義務化については、静岡県や山梨県などでつくる「富士山世界遺産協議会」に設置された専門委員会で法定外目的税としての義務化が検討されたが、入山可能ルートが複数存在する中、徴収漏れを防ぐ対策がネックとなり、当面の導入が見送られた経緯がある。
 今季の富士山は、新型コロナウイルスの5類移行で登山者数が回復するとともに、弾丸登山やマナー違反などが指摘されている。川勝知事は「国の宝である富士山の自然環境を守り伝えていくために、登山者増加に伴う自然保護や登山者の安全対策は登山者が公平に負担することが望ましい」と述べ、「協力金の額によって安全性を保てるというのであれば、その観点からも議論をしてほしい」とした。
 同協力金義務化の課題として、知事は登山者全員を捕捉できないことが大きな論点と指摘した。登山者に義務化への賛同の声が浸透しつつある一方で、山小屋関係者の懸念があることも踏まえ、「慎重な議論が必要」とした。
 今夏の夏山登山を巡っては、山梨県側の吉田ルートで、お盆期間中の山頂付近の混雑回避のため、一時的に登山者の進行を止める「登山規制」が検討された。川勝知事は「(山梨県側では)地元関係者から規制の要望があった。本県側では現段階で地元関係者から要望がない」と本県側で実施しない経緯を説明し、山梨県側の登山規制の状況を注視する考えを示した。
 山梨県側は7月1日、静岡県側は7月10日と、開山日が異なる状況についても「来訪者管理は一体で考える必要があり、重要な課題と認識している」と指摘した。
 (政治部・青島英治)
 〈2023.08.23 あなたの静岡新聞〉
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