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登頂以外の楽しみ方も 富士山もっと気軽に、またはストイックに

 コロナ5類移行と世界遺産登録10年目を迎えにぎわう富士山。富士登山といえば登頂しご来光をというイメージがありますが、そこまでの体力に自信がなくても楽しめる方法が紹介されています。静岡県民ながら未登頂のため、無理のない方法からチャレンジしたいと思います。

5合目以下、麓歩きの勧め 富士宮市が親子向けツアー

 富士山で登山者が体調不良や負傷で救助される事案が相次ぐ中、5合目より下の自然と触れ合う軽めのトレッキングを推奨する取り組みが動き始めている。富士宮市は25日、親子向けの日帰りツアーを初開催し、小学生の親子らが麓に広がる大自然に触れた。世界文化遺産登録10周年の節目で注目が集まる今季に市担当者は「体力に自信のない人でも無理なく霊峰に親しめることを広めたい」と話す。

富士山麓の森を進むツアー参加者=25日午前、富士宮市内
富士山麓の森を進むツアー参加者=25日午前、富士宮市内
 日帰りツアーではかつて多くの修験者が通ったとされる村山口登山道をたどった。こけが深くむして一面緑色の山道を進み、札打場(ふだうちば)や中宮八幡堂などを巡った。5合目より下を専門とするガイド岩崎仁さんの案内で植生に理解を深めた。
 要所を数十分間ずつ散策し、途中は車で移動する行程で5合目を目指した。参加者は道中の会話を楽しみながら、体力に余裕を残して行程を終えた。同市の富丘小6年仲間翼君(11)は「初めて森の奥深くを体験できていろんな発見があった」と満足げな表情を見せ、次は山頂に登る目標を立てた。岩崎さんは「これまでの噴火や標高差がつくり出した自然の多様性こそ富士山の魅力。小さな子を連れていても、四季折々の美しさに触れられる」と話した。
 富士山自然休養林保護管理協議会は長短13のハイキングコースを紹介している。今季は2合目付近で道に迷ったとの救助要請が発生していて、富士宮署は装備や道順の確認など入念な準備をして臨むよう呼びかけている。 
山岳医指摘 体調崩したら標高下げて  富士宮口8合目にある富士山衛生センターの山岳医大城和恵氏は、子どもが体調を崩したら下って標高を下げることを勧める。
 今季の富士山では17日、同口新7合目で5歳の男児が高山病とみられる症状で救助される事案が発生した。富士宮署によると、男児は前日に家族と登り始めた時から体調を崩しだし、山小屋で宿泊したが回復しなかったという。
 大城氏は、子どもは自身の体調を親に説明することが難しいと分析する。高所で呼吸が荒くなり体から水分が抜け、吐き気で食べられずエネルギー不足に陥り、高山病と脱水、低体温症に同時に見舞われる事例が多い。「機嫌や食欲などの小さな変化に親が敏感にならないといけない」と指摘する。
 遠方から来る登山者は長距離移動により寝不足や疲労がたまった状態で登山を始め、高山病のリスクが高いという。大城氏は体力を十分に回復してからの登山開始を促している。
(富士宮支局・国本啓志郎)
〈2023.7.31 あなたの静岡新聞〉

5合目からの「下山ツアー」 上向く期待

 富士山麓5市町(富士、富士宮、御殿場、裾野、小山)の観光協会でつくる「しずおか富士山利活用推進協議会」が、富士山の5合目から下る「富士下山」を薦めている。体力に自信がない人でも気軽に楽しめるとアピールする。旅行会社がツアーに組み込む動きも出ているという。

富士下山をPRする関係者=21日、富士市
富士下山をPRする関係者=21日、富士市
「弾丸」抑制、周遊増狙う  新型コロナウイルス対策で山小屋の収容人数が減り、来訪者も減少すると懸念したのがきっかけ。超高齢社会を迎え「山頂まで登るイメージが強い富士山の楽しみ方の選択肢を広げよう」と2021年にPRに乗り出した。「富士下山のすゝめ」と銘打ち、協議会構成団体の一つの富士山観光交流ビューローのホームページで推奨コースを紹介する。各地の観光案内所でチラシを配り、東京や大阪での観光キャンペーンでも周知する。
 コロナ禍に伴う行動制限がなくなった今夏は、当初の心配をよそに多くの人が詰めかける一方、山小屋の予約がとりにくく、休息せずに登り続ける弾丸登山の懸念が浮上。協議会は登頂に代わる楽しみ方として発信を強化している。
 山麓の店舗や施設の活性化も目的の一つ。登頂に比べて体力や時間に余裕が生まれ、周辺を回遊する機会が増えると期待する。昨年10月には富士下山と山麓施設を組み合わせた旅行会社向けモニターツアーを実施。ビューロー専務理事の土屋俊夫さん(67)は「周辺のグルメや施設も一緒に楽しみ地域全体の魅力を味わってほしい」と話す。
 5合目より上の登山ルート開通期間が2カ月なのに対し、5~10月前後まで楽しめるのもメリットだ。協議会は10月の土日祝日に、新富士駅から富士宮口5合目までのバスを独自に運行する。事業化の可能性を探る。在日外国人対象のモニターツアーも計画するなど多方面にアピールする。
推奨は富士宮口5合目-御殿場口新5合目  しずおか富士山利活用推進協議会が推奨する富士下山コースは、富士宮口5合目から御殿場口新5合目までの7.5キロ。標高差は1050メートル。約9割は下りで、4時間程度で歩けるという。
 富士宮口5合目から6合目まで上った後、宝永火口の縁を進む。樹林帯を通り抜け、御殿場口名物の大砂走りを下りる。土屋俊夫さんは「余裕をもって富士山の大自然を満喫できるコース」と太鼓判を押す。
 裾野市の水ケ塚公園を起点とする樹林帯トレッキングコース、須走口5合目を発着する小富士トレッキングコースも紹介する。
 (東部総局・矢嶋宏行)
〈2023.7.29 あなたの静岡新聞〉

海抜ゼロから山頂へ 全長42キロの挑戦も 2~4日コース

 海抜ゼロから3776メートルの山頂へ-。数ある富士登山道の中でもひと味違う達成感が味わえると評判なのが、富士市が設定している「富士山登山ルート3776」だ。同市の海岸付近を出発し、全長約42キロに及ぶ長距離ルートで日本最高峰を目指した挑戦者に醍醐味[だいごみ]などを聞いた。

富士山登山ルート3776で登頂を果たしたグループ=16日、同山剣ケ峰
富士山登山ルート3776で登頂を果たしたグループ=16日、同山剣ケ峰
挑戦者「達成感は格別」  静岡側の山開き(10日)から初の連休となった16日。富士山最高地点の剣ケ峰にある石柱の前は、多くの登山者でにぎわった。中には、ザックなどにルート3776の挑戦者であることを示すゼッケンを着けた人の姿もちらほら。到着すると記念撮影をして喜びをかみしめた。
 トレイルランニングも楽しむ仲間4人で2日間かけてゴールした会社員橋本学さん(48)=神奈川県鎌倉市=は、昨年に続き2度目のルート3776挑戦で初めての達成。「森林限界を抜けて一気に視界が開けた時は感動した。5合目から登るのに比べ、達成感は格別だった」と充実した表情を浮かべた。
 同ルートは、登山者が無事を祈って浜の石を積んだとされる「富士塚」(富士市鈴川西町)、展望台から富士山や田子の浦港などを見渡せる「ふじのくに田子の浦みなと公園」(同市前田)の2カ所のうちいずれかを「起点」として選ぶ。「海抜ゼロ」にちなみ、付近の海岸で海水に触れてからスタートを切る人も多いという。
 出発してしばらくは平らな市街地が続く。東海道の名勝として知られる「左富士」や吉原商店街を通ると、徐々に坂道へ。人家が減り、道の両脇に木が目立つようになる。富士山自然休養林に入ると、本格的に登山道が始まり次第に高度が上がる。森を抜けると横手に宝永山を望む宝永第一火口縁に着く。
 富士宮口6合目で5合目からの登山道と合流すれば、後は一般的なルートと同じだ。眼下に雲海や駿河湾などを眺め、ごつごつとした岩場や砂利を踏みしめて頂上に向かう。ゴールは日本最高地点の剣ケ峰だ。挑戦者の多くは2~4日間程度の日程で達成している。
 同ルートは観光誘客の促進のため、富士市が2015年に設定した。22年は774人が挑戦し、過去最多の619人が達成した。同市交流観光課の窪田真大さん(23)は「このルートでしか楽しめないオンリーワンの魅力が満載。記念すべき富士山の世界遺産登録10周年の年にぜひ挑戦してみてほしい」と話している。
地域住民も おもてなし  富士山登山ルート3776は、一般的な5合目からの登山では機会が限られる地域住民との交流も魅力。長年にわたり、登山者のもてなしに携わる2人を訪ね、思いを聞いた。
 富士市の推奨ルートに近い同市大淵の農家民宿「やまぼうし」。以前は花木生産を手がけていたこともあって、広い庭は季節ごとにさまざまな花が咲き誇る。宿を切り盛りする山本正子さん(74)が振る舞う有機栽培の野菜を使ったメニューが評判だ。
 8年ほど前に開業してから口コミで評判が広まり、今では海外からも富士登山者が訪れて英気を養う。山本さんは「多くの人に美しい富士山を見てほしい。今後も、うちに泊まって良かったと思っていただけるようなサービスを続けたい」と言葉に力を込める。
 起点にほど近い吉原商店街の一角にある土産物店「東海道表富士」(同市吉原)には、富士山関連のグッズがところ狭しと並ぶ。店主の西川卯一さん(48)は、登山ガイドとして多くの登山者を富士山に案内してきた。同山に続く信仰の道「村山古道」にも精通する。
 ルート3776の面白さは山頂を極めるだけでなく、森林や歴史、文化などいろいろな楽しみ方ができる点という。「海抜ゼロからの富士山も一つの伝統として定着し始めている。地元の子どもたちにも足を運んでもらい、地域で富士山の素晴らしさを受け継いでいってほしい」と願う。
挑戦者は計画書提出  富士山登山ルート3776に挑戦する場合は、同ルート公式ホームページなどで入手した計画書を事前に富士市に提出する。併せてスタンプラリーシートで道中のチェックポイント4カ所でスタンプを押し、山頂で撮影した記念写真を添えて送れば達成認定となる。起点からゴールまで、連続した日程でなくてもよい。両方を提出した人には市から達成証とバッジを贈る。2023年は、富士山の世界遺産登録10周年を記念したデザインのバッジを数量限定で用意している。
 市交流観光課によると、22年の挑戦者の男女別は男性が約8割。年代別は10歳未満から80代以上までと幅広い。居住地は本県のほか、東京都や神奈川、愛知両県などが多い。市はゆとりを持った計画の立案、万全な装備や登山保険への加入など「挑戦者の心得7カ条」を掲げ、安全な登山を呼びかけている。
 (生活報道部・草茅出)
〈2023.7.26 あなたの静岡新聞〉

9月10日まで開山 混雑予想カレンダー活用を

 富士山は1日、山梨県側の吉田ルートが山頂まで全面開通する。静岡県側の富士宮、須走、御殿場の3ルートの開通は10日。富士山世界遺産登録10年の今年の夏山シーズンは新型コロナウイルス下の行動制限がなくなり、昨年と比べて登山者の大幅な増加が予想される。山小屋によっては感染対策を継続する。

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2023年 富士山混雑予想カレンダー

 県は山頂付近での混雑をできるだけ避けるために「混雑予想カレンダー」を参考に登山計画を立てるよう呼びかけている。静岡、山梨両県などで構成する富士山世界文化遺産協議会が2017年夏から、週末や祝日に集中しがちな登山者を平日に誘導する平準化対策として運用を始めた。
 今夏は金、土、日曜のほか、お盆期間を含む8月第2、3週を中心に「混雑」や「特に混雑」が発生すると予想する。これらの日は午前3~5時ごろ、山頂での御来光を目指す人たちで8合目以上が渋滞し、「特に混雑」の日では転倒などの危険性が高まる。県の担当者は登山日をずらしたり、混雑する時間帯を避けて登頂したりすることを推奨している。
 県によると、8合目以上の山小屋の宿泊予約は平日でも取りにくい状態になっている。各ルートの山小屋組合のホームページで最新の予約状況を確認するよう求めている。
 コロナ感染対策について県は昨シーズンまで、県内の各ルートの5合目とマイカー規制駐車場で全登山者に検温と体調の確認を求め、異常がないと判断した人にリストバンドを渡していたが、今年はいずれも実施しない。山小屋への感染対策の要請も見合わせた。ただ、一部の山小屋と富士宮ルート8合目にある富士山衛生センターでは利用者に手指の消毒やマスク着用など基本的な感染対策を引き続き求める。県の担当者は「施設側の指示に従ってほしい」としている。
 閉山日は両県とも9月10日。
(政治部・尾原崇也)
〈2023.7.1 あなたの静岡新聞〉
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