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学校の先生が足りない! 静岡県内公立小中の状況は

 深刻な教員のなり手不足が続いています。2023年度当初時点で静岡県内の公立小中学校では84人不足し、人員補充は追い付いていません。教員不足の問題を巡る静岡県内の状況を1ページにまとめます。

現場負担が増す悪循環に 静岡県教委が対応急ぐ

 静岡県内の公立小中学校の教員が2023年度当初時点で、定数に対し84人不足していたことが20日までに分かった。21年度の29人、22年度の75人から増加が続く。主に産・育休取得者や特別支援学級の増加が原因で、人員補充が追いついていない。静岡県教委は取材に「改善を要する問題で、対応を急いでいる」と回答した。

 教員を巡っては業務の多忙化などで若手志望者が減少し、現場負担が増す悪循環に陥っている。人材確保は喫緊の課題で、国は公立学校教員の給与制度の見直しや働き方改革の検討を進めている。
 定数に対する不足は県教委管轄76人、静岡市教委管轄8人。県教委管轄は全体の3割を占める年齢層が30代になり、産・育休取得者が増えた。静岡市教委管轄は異動内示後の急な退職者の発生が主な理由という。
 関係者の話では、ある小学校では定数に対し教員が3人足りず、全ての教諭を学級担任に配置する体制を強いられ、教諭はほぼ空き時間なしに勤務している。
 県教委は教職員人材バンクを利用し、教員免許を持ちながら別の職業に就いている人の掘り起こしなどを市町教委と進めている。民間企業との採用競争力を高めるため、来年度の教員試験実施時期を2カ月早める対策も決めた。国は本年度から、5~7月に産・育休入りする教員がいる場合にあらかじめ4月段階から臨時講師を置く対応を始めた。
 教員定数は学校数や学級数に基づき算定される基礎定数と、生徒指導や外国人児童生徒への日本語指導などに措置する加配定数で構成される。
〈2023.07.21 あなたの静岡新聞〉

 教員不足「悪化」4割 全国68教委
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教員不足に関して1年前と比べた状況

 2023年度開始時点で公立小中高校などの教員不足の状況が1年前より「悪化した」と回答した都道府県・政令指定都市教育委員会が29(43%)に上ることが20日、文部科学省の調査で分かった。22年度調査より減少したが、文科省は依然として厳しい状況にあると分析。教員免許を持ちながら教職に就いていない人向けの研修会が採用者の増加に効果があるとして、実施を求める通知を各教委に出した。
 調査対象の68教委(大阪府豊能地区教職員人事協議会を含む)のうち、1年前より「改善した」と答えたのは11、「同程度」は28、「悪化した」は29となった。22年度調査では「改善」が6、「悪化」が40などだった。
 教員不足は、病休や産休で生じた欠員を埋めるための非正規講師らが見つからないことで生じる。文科省の集計では、21年度当初に全国で約2500人が不足した。
 20日付の文科省通知などによると、30程度の教委が教員免許保有者への研修会を実施し、講師への登用につなげている。研修会により、数十人の講師採用につなげた自治体もあった。文科省は大学や企業とも連携し、やりがいの発信や人材掘り起こしを進める必要があるとしている。
 その他、学級担任を受け持つ再任用教員へ独自に手当を支給したり、高校生に教職の魅力をPRしたりする各自治体の取り組みも紹介した。
〈2023.6.21 あなたの静岡新聞より〉

志望者減少 教員の質確保に影響する「3倍」下回る年も

 静岡県教委が昨年実施した2023年度教員採用試験のうち小中学校の実質倍率は、小学校が3.13倍、中学校が5.01倍だった。特に校種別で免許取得者が少ない小学校では採用試験の倍率が低い傾向があり、県と静岡、浜松両市全てで「教員の質の確保に影響が出かねない」と言われる3倍を下回る年も出ている。

静岡県内公立学校教員採用試験の実質倍率
静岡県内公立学校教員採用試験の実質倍率
 静岡市の小学校は17年度採用で4倍台だった実質倍率が、22年度採用で2.19倍まで低下した。市教委教職員課は要因について「例年の受験者数が大幅に変わらないのに対し、団塊世代の大量退職や特別支援学級の増加で採用数が増えたため」と説明する。市は静岡大のほかに教育学部を持つ常葉大とも、学生や高校生対象のガイダンスに取り組んでいる。
 浜松市は優秀な学生の確保を目的に、21年度採用から大学推薦を導入した。東海地方を中心に全国で広報活動を行い、県外からの呼び込みにも力を注ぐ。市教委教職員課は「地元出身者以外でも、教員への熱意を持つ人に志望してもらいたい」とする。
 教員不足の現状を受け、国が教員免許更新制を廃止したほか、中教審も民間企業の採用に比べて実施時期が遅い教員採用試験の前倒しを昨年12月に答申した。23年度から地方公務員の定年延長も控え、教員採用を取り巻く環境は変化している。県教委義務教育課の担当者は「少子化の進行で教員定数が減るため、新規採用数も緩やかに減少する見込み。教員の質確保のため一定の倍率を維持できるよう、募集に力を入れたい」とする。
〈2023.1.25 あなたの静岡新聞〉

「定額働かせ放題」とやゆも 先生の残業代どうあるべき? 有識者に聞く

 公立学校教員の給与制度を見直す議論が国レベルで進んでいます。教職は厳格な時間管理が難しいとして、教職員給与特別措置法(給特法)は月給の4%をあらかじめ上乗せして支給する代わりに、残業代を支払わないとしています。教職調整額と呼ばれるこの特殊な規定は近年、学校現場の多忙化により実態に合わなくなりました。待遇の適正な改善は当然の方向性ですが、長時間労働が是正されることも肝要です。“先生”の残業代はどうあるべきか-。静岡県教職員組合の赤池浩章中央執行委員長(58)に見解を聞きました。(社会部・河村英之)

赤池浩章さん
赤池浩章さん

調整額増と働き方改革〝両輪〟
 見直しのたたき台とも言える案として、自民党の特命委員会は教職調整額を2.5倍の10%以上に引き上げる提言をまとめました。県教組はどのような立場ですか。
 率直に私たちの考え方とおおむね合致していて、義務教育の大改革につながると期待しています。給特法が学校現場の実情に合っていないことは明らかですし、日本は諸外国の給料と比べても大きく差を開けられています。提言は教職調整額を10%以上にすると同時に、時間外在校等時間(残業時間)を指針上限の月45時間から20時間以内に抑えたい-という内容も盛り込みました。長時間労働の改善策を併せて示したわけです。現行の教職調整額は1971年の給特法制定時に、当時の教員の平均残業時間だった月8時間に相当する4%に設定されました。教職調整額を2.5倍の10%にするから残業も同等(2.5倍)の20時間以内にしましょうというのは理にかなっています。教職調整額のアップという“お金”だけではこの問題は解決しないという認識は、私たちも共通しています。
 (県教組の上部団体である)日本教職員組合は「給特法を廃止して時間外勤務手当を」と主張している点で私たちとやや異なります。一般企業と同様に時間外勤務手当は予算が付きものですから、それを超える残業を強いることはできない、つまり長時間労働が是正されるという考え方です。ただ、これは非常に難しい問題。例えば子育て中の教員が午後5時に退校し、子どもの保育園の迎え、夕飯、風呂、寝かし付けを済ませ、その後、提出物に赤ペンを入れたりテストの採点をしたりするとします。この持ち帰り仕事と同じ作業を残業でやる人は時間外勤務手当が付きますが、自宅でやる人にはおそらく付かないでしょう。教員の業務は裁量権が大きいため、こうしたケースが非常に多くあります。時間外勤務かそうでないかの線引きは困難なのです。
 こうしたことから私たちは教職調整額の引き上げに賛同するのですが、引き上げとセットで実現すべき「月の残業を20時間以内に」には課題があります。既に過去の調査で明らかになっているように、実態として多くの教員が上限の45時間すら超える残業をしています。残業20時間以内を実現するには教職員定数を増やすか、業務の削減、とりわけ持ち授業時数を減らすしかありません。
 そこで県教組が試算したところ、18学級規模の小学校で教員数を3人程度増やし、授業時数を10%減らすと1人当たりの持ち授業時数は20時間以内に収まるだろうという結果が出ました。

 授業数の削減は学力に影響しませんか。
 授業数の10%削減は、いわゆる「ゆとり教育」の頃と似たイメージです。ゆとり教育は批判され、授業数はおおむね学校6日制時代と同水準に戻されましたが、ゆとり教育当時は学力の低下が「懸念される」ことを理由に批判されたのであり、実際に学力が落ちたかどうかは今も検証されていません。ゆとり世代には国内外で活躍する人材が多くいます。また、新型コロナウイルス対応で取られた3カ月間の休校措置では、文部科学省が「学力は落ちなかった」と評価したこともありました。3カ月は1年の25%に相当します。

 多忙とされる現役教員はどのような1日を過ごしているのでしょうか。
 30歳くらいの若手小学校教員から「ICT(情報通信技術)が一気に入ってきて大変」という声を聞きました。新型コロナでGIGAスクール構想が前倒しされ、タブレット端末が導入されました。地元教委に数人の教員が招集され、どのソフトを使うか急いで議論し、決定し、ほかの先生たちに説明する-。タブレットを授業で使った経験もなければ研修をしたこともない、そもそも指導計画や教科書が(タブレット使用を)想定していない。対応が大変なのは明らかです。
 ICTは、ただでさえ忙しくしていた教員らの日常に丸ごと乗っかってきました。先ほど例に挙げた若手教員は毎朝7時前に職場に着くそうです。子どものいない静かな時間帯にやれる準備をするためと言います。そして日中は授業準備、授業、問題行動を起こした子の対応、保護者への連絡-。12時間以上学校にいて、夜遅くなってようやく帰宅できます。
 中学校はまた違った大変さがあります。SNS(交流サイト)の普及で性被害や命に関わる問題は昔と比べものにならないくらい増えました。生徒が小遣い稼ぎで犯罪に手を染めてしまうリスクもゼロではありません。

 学校現場の負担を減らすにはどうすればいいのでしょうか。
 県教組は義務教育標準法を改正して教職員定数を改善し、教員の持ち授業時数を縮減するよう強く求めてきました。2000年代初頭のゆとり教育批判の中、学習指導要領の改訂で授業時数は増やされ、カリキュラムは過密化しました。さらに不登校や登校しぶりへの対応、特休・休職者の増加、教員定数の未配置…。教員が子どもと向き合う時間は極めて少なくなり、子どもたちが忙しい先生から離れていくのは当然です。問題行動、家庭問題にはスクールソーシャルワーカーやカウンセラーが組織的に関わるようにすべきです。人の職業選択の理由はさまざまあると思いますが、教職の場合、自身が子どもの頃に受けた先生の存在はすごく大きい。大人の皆さんにも1人はいるはずです。よく遊んでくれたり、悩みを聞いてくれたり。今はそれができず、先生は憧れの対象でなくなっています。教職離れの解決策として働き方を見直し、教育改革を行うことが極めて重要。引き続き定数改善や指導要領改訂の必要性を訴えていきます。

「定額働かせ放題」のやゆ
 教職員給与特別措置法の教職調整額を巡っては、教員が4%の上乗せ給与とはかけ離れた長時間の時間外勤務をしている実態から、「定額働かせ放題」とやゆされている。教職志望者の減少と教員不足の要因の一つだ。
 国の2022年度の教員勤務実態調査(速報値)では、過労死ラインとされる月80時間超の残業に相当する学校内勤務時間「週60時間以上」の教諭は小学校14.2%、中学校36.6%。指針上限の月45時間を超えることになる「週50時間以上」はそれぞれ64.5%、77.1%だった。文部科学省は働き方改革の成果は見えるとした一方、「依然として長時間勤務が常態化している」とまとめた。
 教職は教員の自発性や創造性が期待される業務が多く、一般行政職のような労働時間の管理はなじまないとされている。給特法はいわゆる超勤4項目(校外実習、学校行事、職員会議、災害対応)を除いては時間外労働を命じてはならないと規定。このことから時間外の授業準備や部活動指導などは超勤4項目に該当せず、「自主的な行動」などと解釈される。

 <メモ>教員の人材確保策を議論する自民党の特命委員会が教職調整額の増額などを提言したのは5月。手当の創設・拡充、支援スタッフの増員なども盛り込み、国費だけで年間約5000億円が必要とされる。
 政府は提言を踏まえ、6月に公表した経済財政運営指針「骨太方針」で給特法について「具体的な制度設計の検討を進め、教師の処遇を抜本的に見直す」と明記した。2024年度中の改正法案提出を目指す方向性も示した。

 静岡県教職員組合 組合員数は約1万3000人。県内の小中学校教職員の約9割が加入している。事務局は静岡市葵区。

 あかいけ・ひろあき 静岡大大学院教育学研究科修了。1988年から2012年まで県東部の複数の公立小学校に勤務し、その後、県教職員組合に。20年4月から現職。富士宮市在住。58歳。

〈2023.07.21 あなたの静岡新聞〉
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