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静岡の日本酒の今 ~新たな酒米、海外輸出拡大など~

 全国新酒鑑評会で毎年のように金賞を受賞するなど評価の高い静岡県の地酒。それらを手がける県内の酒造会社による商品開発・販路開拓の動きが今、盛んです。静岡県のブランド酒米を用いた清酒作りの推進や、新型コロナウイルス禍からの復調を期しての海外輸出の拡大などが起きています。一方、需要の回復に追いつかない事態もあるようです。静岡の地酒をめぐる現状をまとめました。

地元酒米で改良、販路開拓 静岡県内酒造、コロナ後へ踏ん張り 

 静岡県内酒造会社による商品開発・販路開拓の動きが盛んだ。新型コロナウイルス禍からの復調を期して海外輸出を拡大したり、静岡県のブランド酒米を用いた清酒作りを推進したりしている。個性あふれる日本酒文化の伝統を継承しながら、新たな発想で成長戦略を前に進める。

静岡市が開いた「しずおか酒蔵巡り」。県内外から参加者が訪れ、市内蔵元の日本酒を楽しんだ=5月、静岡市葵区
静岡市が開いた「しずおか酒蔵巡り」。県内外から参加者が訪れ、市内蔵元の日本酒を楽しんだ=5月、静岡市葵区
 地元の酒米を生かし、香り立つ日本酒作りを探求したい-。静岡平喜酒造(静岡市駿河区)は、県内産の酒米や酵母、安倍川の伏流水を用いるなど、地産地消にこだわった純米酒の製造を手がける。
 本県産酒米「誉富士」は23年産から新開発の「令和誉富士」に切り替わる。同社は9月以降に、令和誉富士のもろみを仕込み始める予定。戸塚堅二郎社長(36)は味わいや香りに期待を寄せ、「静岡の食文化になじむような酒を丁寧に作り、存在感を発揮していきたい」と話す。
 コロナ禍の自粛ムードで減退した日本酒の消費量は、飲食店の需要が本調子に戻らない中、回復途上にある。試飲会や商談会などを開く動きは活発で、蔵元各社は消費拡大に向けて希望を抱く。
 静岡市が5月、JR静岡駅地下で開いた日本酒の飲み放題イベント「しずおか酒蔵巡り」は1日当たりの参加者が前年比約2倍を記録した。市内6蔵元の酒やおでんなどを味わう内容で、市産業振興課の担当者は「県内外から来訪があり、地酒への関心の高さを感じた。販路開拓につながれば」と語る。
 江戸時代後期創業の杉井酒造(藤枝市)は、乳酸菌を自然に育てる伝統製法で清酒「杉錦」を手がけつつ、みりんや焼酎の商品化にも力を注いできた。近年は酒かすから作る穀物酢を開発中で、来年の発売を予定する。酒造りで培った技術を応用した取り組みで、杉井均乃介社長(65)は「個人・業務用を問わず、高品質を求める顧客層のニーズに応えたい」と話す。
(経済部・平野慧)
海外輸出は好調 22年過去最高  海外の社会経済活動正常化や為替の円安を背景に、2022年の日本酒輸出総額は過去最高の474億9200万円を記録した。
 花の舞酒造(浜松市浜北区)は22年、輸出額が20年比でほぼ倍増し、1億円を超えた。米国や中国での急速な需要拡大が要因で、高田晋之介輸出部長は「求められる酒の幅の広がりを感じる」と手応えを語る。
 日本酒は和食だけでなく、各国の料理に合わせた食中酒として使われるなど海外で顧客層の裾野が広がっている。
 英君酒造(静岡市清水区)は21年、各地の神社などで五穀豊穣(ほうじょう)を祝う「新嘗祭(にいなめさい)」に合わせて造った純米吟醸酒「新嘗」でユダヤ教の食の戒律「コーシャ」の認証を取得した。望月裕祐社長は海外の基準で製造工程が認められたとして「経験を今後の販売に生かしたい」と話す。
〈2023.7.18 あなたの静岡新聞〉

 

水も米も オール御殿場産の日本酒製造へ 酒蔵建設の計画始動

 御殿場市が誇る富士山の伏流水と地元産の米を活用して新たな地酒を製造する酒蔵の建設プロジェクトが動き出す。同市の印野郷土振興協会とつぼぐちフードサービスが共同し、寒冷な富士山麓の同市印野地区で進める計画で、農業振興だけでなく観光促進などへの波及効果も狙う。

勝又市長にプロジェクトを説明する関係者ら=御殿場市役所
勝又市長にプロジェクトを説明する関係者ら=御殿場市役所
 「酒は水、酒は米」とされる日本酒の世界で、富士山の雪解け水と酒米「令和誉富士」、御殿場コシヒカリなど地元の最高の素材を生かす。印野地区は標高約590メートルに位置し、年間平均気温が10度前後と比較的低く、日本酒造りに向いた環境という。今後、土地の造成や施設建設などを進め、2024年秋ごろの開設を目指す。
 市内には大型集客施設や観光地があり、同地区にも「富士山樹空の森」「たくみの郷」「御胎内温泉健康センター」など多彩な施設が存在。新たに酒造場を設けることで、観光客らが滞在の楽しさを一層感じる観光ゾーンの構築にもつなげる。
 22日につぼぐちフードサービスの坪口榮二代表取締役、印野郷土振興協会の勝間田政道理事長らが市役所に勝又正美市長を訪ね、プロジェクトについて説明した。勝又市長は「オール御殿場産の日本酒は大変喜ばしい。各施設との連携、相乗効果で観光交流の促進や地域活性化、農業振興が図られれば」と期待した。
(御殿場支局・塩谷将広)
〈2023.3.22 あなたの静岡新聞〉

静岡県内産の日本酒を中国へ なすび、輸出事業に着手

 飲食店経営のなすび(静岡市清水区)は静岡県内物産の輸出事業に乗り出す。9月中に日本酒約1トンを中国に輸出し、現地企業の店舗網を使って販売する。長引く新型コロナウイルス禍の影響で本業の飲食業が苦戦する中、海外で新たな収益の柱を育て挽回を図る。

船積みを控えた日本酒の前で、輸出事業について説明する藤田尚徳専務=16日午後、浜松市東区の鈴与浜松物流センター
船積みを控えた日本酒の前で、輸出事業について説明する藤田尚徳専務=16日午後、浜松市東区の鈴与浜松物流センター
 初回輸出分は花の舞酒造(浜松市浜北区)、三和酒造(静岡市清水区)の計19品目、約4600本。中国で日本式焼き肉店などを展開する現地企業を輸入元とし、関連店舗で日本酒を販売するほか、同社の電子商取引(EC)システムでの小売りにも対応する。物流の実務面では鈴与の協力を得た。
 輸出増に向け、県内の複数の酒造会社と交渉中。初年度の売上高目標は3千万円で、3年後に1億円達成を掲げる。
 現地で日本酒を含めた日本食は富裕層を中心に一定の人気を集める。なすびは2010年にも中国に県産日本酒を試験輸出したが、東日本大震災の影響で本格的なビジネス展開に至らなかった。藤田尚徳専務は「10年越しで本輸出にこぎつけた。コロナ禍で厳しい状況にある県内日本酒関連業界を支援したい」と語り、日本酒以外の県産品輸出も目指すとした。
(経済部・高松勝)
〈2022.9.17 あなたの静岡新聞〉

酒瓶足りない 需要回復に追いつかず 静岡県内日本酒業界苦慮

 新型コロナウイルス下での全国的なガラス瓶メーカーの生産調整や一部工場の稼働停止を受け、静岡県内の日本酒関連業界が容器の酒瓶不足に悩まされている。社会経済活動の正常化に伴い酒の需要が回復に向かう中、注文に応じきれない異例の事態も生じ、関係者は「春の行楽シーズンで反転攻勢を図ろうとしているだけに大打撃だ」と苦慮している。

日本酒生産用に仕入れた酒瓶。全国的な酒瓶の不足が各地の酒蔵や酒販店に影響を及ぼしている=3月、静岡市清水区の神沢川酒造場
日本酒生産用に仕入れた酒瓶。全国的な酒瓶の不足が各地の酒蔵や酒販店に影響を及ぼしている=3月、静岡市清水区の神沢川酒造場
 神沢川酒造場(静岡市清水区)では昨年冬、愛知県のガラス瓶メーカーが一部工場の操業を終了した影響で、商社から欠品が出るとの連絡が入った。早期対応で欠品分を補えたため、計画した酒製品の全量を生産、出荷できているが、従来と異なる色の瓶を使って急場をしのいだ場面もあった。望月正隆社長は「消費者が違う商品と錯覚してしまう可能性もある」と懸念する。瓶の価格は供給減で昨秋から1割以上上昇し、「光熱費や原料、人件費に加え、瓶まで高騰するとは」とため息をつく。
 酒販店も、国内の一部酒造場が生産を減らしたあおりを受ける。長島酒店(同市葵区)の長島隆博社長は「レストランから日本酒2ケースの注文があったが、在庫がないので1ケースに変更させてもらったこともあった」と打ち明ける。ホテルや飲食店を顧客に持つ同店では、必要な酒商品の入荷の遅れや減少が続く。販売店として取れる対応策は「ほとんどない」といい、顧客に別の銘柄を提案しつつ、一般消費者に空き瓶の返却を呼びかける。
 <メモ>日本ガラスびん協会などによると、新型コロナウイルス下の需要減を背景に、2021年の国内主要瓶メーカーの一升瓶の出荷本数はコロナ前の19年比21・1%減の3892万本。22年は4344万本と増加したものの、需要回復に供給が追いついていない。22年末の一部メーカーの生産減を受け、23年1、2月の累計出荷本数も前年同期比11・1%減にとどまる。
 一升瓶の回収率もインターネット通販での購入増などで、21年は71・3%と、02年比で15ポイント以上低下した。同協会担当者は「人手不足などもあり、瓶メーカーが急きょ増産体制に転じるのは難しく、当面は逼迫(ひっぱく)した状況が続くだろう」とみる。
(経済部・駒木千尋)
〈2023.4.16 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞