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袴田さん再審、有罪立証へ みそ漬け衣類が再び焦点か

 1966年に現在の静岡市清水区で一家4人が殺害された事件で死刑が確定し、釈放された袴田巌さん(87)の裁判をやり直す再審公判で、検察側は10日、袴田さんの有罪を立証する方針を静岡地裁に伝えました。再審公判では、犯行の着衣とされ捏造(ねつぞう)の可能性が指摘された「5点の衣類」が再び焦点となる可能性があります。
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審理さらに長期化 袴田さん弁護団は抗議書提出

 現在の静岡市清水区で1966年、みそ製造会社の専務一家4人を殺害したとして死刑が確定した元プロボクサー袴田巌さん(87)の再審公判を巡り、静岡地検は10日、有罪立証を維持する方針を決めた。公判を重ねることが濃厚になり、審理は長期化するとみられる。弁護団は同日午後、地検に抗議書を提出した。

有罪立証の方針に抗議するため、静岡地検を訪れた袴田巌さんの弁護団=10日午後2時すぎ、静岡市葵区
有罪立証の方針に抗議するため、静岡地検を訪れた袴田巌さんの弁護団=10日午後2時すぎ、静岡市葵区
 袴田さんの再審公判に向け、静岡地裁の国井恒志裁判長は弁護団と静岡地検の双方に対し、10日までに主張・立証の方針と取り調べを請求する証拠について書面で示すよう求めていた。
 事件発生から約1年2カ月後に現場近くのみそタンクで、付着した血痕に赤みが残る「5点の衣類」が見つかり、確定判決は袴田さんの犯行着衣と認定した。第2次再審請求審の差し戻し後の即時抗告審で東京高裁は、専門家の化学的知見に加え、自ら検察の実験に立ち会い、その結果を肉眼で確認した上で血痕に赤みが残ることはないと判断。今年3月の決定で、袴田さんの再審開始を認めるとともに、捜査機関が衣類を捏造(ねつぞう)した可能性が「極めて高い」とした。
 再審公判で検察が有罪立証することは法的には問題ない。「島田事件」など過去にあった死刑囚の再審4事件では、実際に有罪立証を試みた。しかし、いずれも無罪判決に至っている。

 
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 袴田事件 現在の静岡市清水区で1966年6月30日未明、みそ製造会社の専務=当時(41)=方から出火し、ほぼ全焼した。焼け跡から専務一家4人の遺体が見つかり、県警は同8月、強盗殺人容疑などで住み込み従業員の袴田巌さんを逮捕した。袴田さんは勾留期限の間際に「自白」したが、同11月の初公判で否認し、以降は一貫して無実を訴えた。80年に最高裁で死刑判決が確定。袴田さんの姉ひで子さんが2008年4月に第2次再審請求を申し立て、静岡地裁は14年3月、再審開始を認めると同時に死刑と拘置の執行停止を決定し、袴田さんは約48年ぶりに釈放された。
 検察が即時抗告し、東京高裁は18年6月、一転して再審請求を棄却したが、釈放は維持した。最高裁は20年12月、審理不尽の違法があるとして高裁決定を取り消し、審理を高裁に差し戻した。高裁は23年3月、検察の即時抗告を棄却し、重要証拠が捜査機関によって捏造(ねつぞう)された可能性が高いと指摘した。検察が特別抗告を断念したため、再審開始が確定。再審公判に向けた法曹三者の打ち合わせが4月から毎月、静岡地裁で行われてきた。
(社会部・佐藤章弘)
<2023.7.10 あなたの静岡新聞>

血痕の赤みなど補充捜査 検察、有罪立証可能と判断か

 現在の静岡市清水区で起きた一家4人殺害事件で死刑が確定し、裁判やり直しが決まった袴田巌さん(87)の再審公判で、検察側が有罪立証する方向で最終調整していることが8日、関係者への取材で分かった。弁護側は「審理に時間がかかる」などと非難した。検察は慎重に検討を重ね、期限としてきた10日、静岡地裁に方針を伝える見通し。

みそタンクから見つかった「5点の衣類」(支援者の山崎俊樹さん提供)
みそタンクから見つかった「5点の衣類」(支援者の山崎俊樹さん提供)
 関係者によると、検察は、確定判決で「犯行の着衣」とされた5点の衣類に残った血痕の赤みなどについて補充捜査。有罪立証可能とみているもようで、衣類の評価が再審で再び焦点となる可能性がある。
 衣類は事件から約1年2カ月後、赤みが残った状態でみそタンクから見つかった。3月の東京高裁決定は弁護側の実験結果などに基づき、こうした状況では「衣類に赤みは残らない」と判断。捜査機関側が証拠を捏造(ねつぞう)した可能性に言及し、再審開始を認めた。
 最高裁への特別抗告は憲法違反や判例違反がある場合に限られる。検察は高裁決定に「承服しがたい点がある」(幹部)としつつ、申し立てを断念。再審開始が決まったが再審公判の主張内容に法的な制限はない。刑事訴訟法は再審開始について「無罪を言い渡す明らかな証拠」があった時と定め、再審無罪判決が言い渡される公算が大きい中、検察の対応が注目されている。
<2023.7.9 あなたの静岡新聞>

「新証拠での立証は困難」弁護団がけん制

 現在の静岡市清水区で1966年、みそ製造会社の専務一家4人を殺害したとして死刑が確定し、3月に裁判のやり直しが決まった袴田巌さん(87)の支援集会が25日、同区内で開かれた。検察側が再審公判での主張・立証方針を7月10日までに明らかにするとしている中、弁護団の一員で元裁判官の水野智幸弁護士は「新たな証拠を出す形での積極的な有罪立証はできないだろう」とけん制した。

来場者からの質問に答える水野智幸弁護士=25日、静岡市清水区内
来場者からの質問に答える水野智幸弁護士=25日、静岡市清水区内
 事件から1年2カ月後にみそタンクで見つかり、袴田さんの犯行着衣とされた「5点の衣類」を巡り、再審開始を認めた東京高裁決定は、長期間みそ漬けの血痕に赤みは残らないとした弁護団の鑑定を評価した。
 水野弁護士は集会で、4月に始まった静岡地裁、地検との協議の経過を報告した。再審公判では検察側に立証責任があるとし、血痕に「赤みが残る可能性がある」というレベルでは「責任を満たすほどの立証ではない」と指摘。その上で、証拠の捏造(ねつぞう)可能性を高裁などに指摘されたことへの抵抗として「再審請求審の証拠を公判になるべく出させないようにするという消極的な有罪立証はあり得る」と見通した。
 地裁については「傍聴人が法廷で見て聞いて分かる裁判をしようとしていると思う。注目されているからこそどちらか片方に偏したと批判されないよう、公判で証拠を見るまでは心証を採らないという強い意志を感じる」と説明。捜査機関による証拠捏造の認定を得るために「弁護団はきちんとしたプレゼンをしなければならない」と自戒した。
 集会は袴田巌さんを救援する清水・静岡市民の会が開いた。袴田さんの姉ひで子さん(90)は「(袴田さんが収監されていた)48年の歳月が無駄にならないよう、せめて再審法を改めていただきたい」と訴えた。
(社会部・佐藤章弘)
<2023.6.26 あなたの静岡新聞>

長期化抑止 再審法改正へ国会議員意欲

 日本弁護士連合会(小林元治会長)は6日、再審法(刑事訴訟法の再審規定)の改正を求め、都内の衆議院第二議員会館で集会を開いた。与野党の国会議員30人が集まり、参加議員を含む89人が法改正への賛同メッセージを寄せた。小林会長は取材に「国の政策にきちんと反映させなければいけない、との大きな合意ができつつある」と述べ、議員や関係者への働き掛けを続けていく考えを示した。

与野党の国会議員が参加した再審法改正を求める院内集会。手前は袴田ひで子さん=6日、都内
与野党の国会議員が参加した再審法改正を求める院内集会。手前は袴田ひで子さん=6日、都内
 集会には、再審開始が確定した袴田巌さん(87)の姉ひで子さん(90)も出席した。弁護団の戸舘圭之弁護士は「もし再審開始決定に対する検察官の上訴が禁止されていれば、9年前に再審が開始され、再審公判で無罪になっていた」と指摘し、法の不備を訴えた。
 国会議員25人以上があいさつした。弁護士でもある自民党の稲田朋美衆院議員は「刑事司法の公正・公平に関わる与野党を問わない問題」と声を上げ、同じく弁護士で立憲民主党の米山隆一衆院議員は「制度設計に入っていかなくてはいけない」と促した。国民民主党の田中健衆院議員(比例東海)は「世論を喚起し、改正につなげる」とした。
 メッセージを寄せた国会議員89人の所属内訳は自民党21、公明党3、立憲民主党36、共産党16、日本維新の会4、国民民主党5、社民党1、無所属3。静岡県内関係では田中議員の他、細野豪志衆院議員(静岡5区)が「義を見てせざるは勇なきなり」とし、平山佐知子参院議員(無所属、静岡選挙区)が「憲法の理念に沿って再審法のあり方を見直すことが必要」と記した。
 日弁連の小林会長は取材に「可能であれば議員立法ではなく、国民の総意として政府に改正案を提出してもらいたい」と希望した。
(社会部・佐藤章弘)
<2023.6.7 あなたの静岡新聞>
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