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田代ダム案協議開始 リニア湧水流出対策 これまでの議論をおさらい

 リニア中央新幹線トンネル工事に伴う湧水の静岡県外流出対策としてJR東海が提示した「田代ダム取水抑制案」について、JRと、ダムを管理する東京電力リニューアブルパワーとの間で協議が始まりました。懸念となっていた水利権などを巡る前提条件の調整が済み、同案の提示から1年2カ月を経て具体的な議論がようやく動き出しました。田代ダム案を巡るこれまでの議論を振り返ります。

JR東海と東電、協議入り 当事者間議論動き出す

 JR東海は22日、リニア中央新幹線トンネル工事に伴う湧水の静岡県外流出対策として静岡県などに提示した「田代ダム取水抑制案」について、ダムを管理する東京電力リニューアブルパワー(東電RP)と具体的な協議を開始したと発表した。JRが2022年4月、県有識者会議の専門部会にダム案を提示してから1年2カ月。実現に向けて当事者による議論がようやく動き出すことになった。

大井川最上流部から富士川水系に水を流す田代ダム(右)。付近の大井川(手前が下流側)はリニア工事で流量減少が予測されている=静岡市葵区(写真は2022年6月5日「あなたの静岡新聞」)
大井川最上流部から富士川水系に水を流す田代ダム(右)。付近の大井川(手前が下流側)はリニア工事で流量減少が予測されている=静岡市葵区(写真は2022年6月5日「あなたの静岡新聞」)
 JRが東電RPとの協議開始にあたり大井川流域市町などに了解を求めた前提条件について県が14日、市町の意見を取りまとめた上で同社に修正案を提示していた。JR側の前提条件に歩み寄る形に修正していて、丹羽俊介社長も15日の記者会見で協議入りに前向きな考えを示していた。
 JRによると、県が意見を取りまとめた大井川利水関係協議会の会員以外に、東電RPが事前了解を取る必要がある関係者として挙げていた国土交通省、山梨県、同県早川町、静岡市の4者からも22日までに協議開始の了解が得られたという。
 ダム案は、山梨県側と静岡県側の双方から掘り進めるトンネル先進坑がつながるまでの間、静岡県内で発生するトンネル湧水が山梨県側に流出する問題に対し、大井川上流部にあるダムの取水を流出量と同量抑制することで大井川表流水への影響を防ぐ方策。実現すれば、県などが求めている「トンネル湧水の全量戻し」がかなうことになる。JRと東電RPの協議内容には、先進坑掘削に先行して実施する高速長尺先進ボーリングに伴う湧水の県外流出に対してもダム案を適用することが含まれる。(政治部・尾原崇也)
 〈2023.06.23 あなたの静岡新聞〉

「水利権」で歩み寄り 静岡県、再修正案をJRに通知

 静岡県は14日、リニア中央新幹線トンネル工事湧水の県外流出対策としてJR東海が示している田代ダム取水抑制案を巡り、JRがダム管理者との協議開始にあたって大井川流域市町などに了解を求めた前提条件を再修正した案をJRに通知した。ダムを管理する東京電力リニューアブルパワー(東電RP)の水利権には影響を与えないとするJR側の前提条件に歩み寄る形に修正した。懸念となっていた水利権などについて東電RPの了解が得られれば、田代ダム案の具体的な協議に進む見込み。

静岡県庁
静岡県庁
 県は4月に修正案を提示し、JRから文言の意味をただす質問を受けた。流域市町などの意見を踏まえ、あらためて修正案を取りまとめた。再修正案では、流域市町や県など大井川利水関係協議会の会員は「田代ダム案を根拠とする(東電RPの)水利権について主張をしない」と明記。「県内の一定期間(約10カ月間と想定)の工事の進捗(しんちょく)や、水資源への影響が想定と大きく異なる場合等においては、JRは大井川利水関係協議会員と改めて協議を行う」との条件項目を追加した。
 JRは田代ダム案について東電RPと協議開始するための前提条件を3月に提示。「東電RPの水利権に影響を与えない」など3項目の了解を大井川流域市町などに求めてきた。
 〈2023.06.15 あなたの静岡新聞〉

これまでの議論は? 「水利権」巡り流域市町の賛否割れる

 大井川利水関係協議会が27日(※3月)、県庁で開かれ、リニア中央新幹線トンネル工事に伴う湧水の県外流出対策としてJR東海が示した田代ダム取水抑制案について、大井川流域市町や利水団体が説明を受けた。JRは、ダムを管理する東京電力リニューアブルパワー(東電RP)との間で具体的な協議に入るための前提条件を示し、了解を求めたが、市町や利水団体間で賛成意見と慎重な議論を求める意見とで分かれ、結論は持ち越された。

JR東海からリニアトンネル工事湧水の県外流出対策について説明を受ける大井川流域市町の首長と利水団体の代表者ら=27日午後、県庁
JR東海からリニアトンネル工事湧水の県外流出対策について説明を受ける大井川流域市町の首長と利水団体の代表者ら=27日午後、県庁
 協議会の事務局を務める県は「ダム案が『水利権に影響を与えない』という表現は慎重に調整しないといけない」(森貴志副知事)と文言修正が必要との認識を示した。意見を速やかに取りまとめ、JRの回答を受けて判断するとして協議を引き取った。
 ダム案を巡り、JRが東電RPとの協議開始の前提条件として示したのは、「東電RPの水利権に影響を与えない」「工事の一定期間(約10カ月間と想定)に取水を抑制する案として検討」など3点。
 島田、焼津、掛川、藤枝、菊川、牧之原の6市と川根本町の各首長は「ダム案は水利権の話とは一線を画す必要がある」(北村正平藤枝市長)などと条件に理解を示し、協議を早急に開始するべきと主張した。
 これに対し、御前崎市と吉田町の首長はダム案の実施期間を工事の一定期間とすることに疑問を呈した。利水団体の代表者は「水利権に影響を与えない」との断定的な表現に異論を唱えた。
 JRの担当者は、水利権の表現は「2025年末に迎える水利権更新時の議論に影響を与えないこと」だと説明。取水抑制することで東電RPが被る損失はJRが補償するとし、工事以外の期間は取水抑制に対応できないと理解を求めた。
 〈2023.03.28 あなたの静岡新聞〉

田代ダム案とは? 流出湧水と同じ水量のダム取水を抑えて相殺

 リニア中央新幹線工事に伴う大井川の水問題の対策を議論する県有識者会議の地質構造・水資源専門部会が26日(※2022年4月)、県庁で開かれ、JR東海は大井川最上流部から富士川に水を流している東京電力田代ダムの取水を抑制する方策案を説明した。県側が求める減水対策「トンネル湧水の全量戻し」の方法としてJRが提示したのは初めて。委員からは少雨時に水量が確保されるのかを十分に検討すべきだとする意見が相次いだ。

 田代ダムの取水抑制案は、トンネル掘削時に山梨県に流出する湧水量と同じ水量の取水を抑えて流出量を相殺する案。JRの担当者は会議で「関係者の理解を得ながら東京電力と具体的な話をしていきたい」と説明した。
 ただ、田代ダムはトンネル掘削箇所の下流側に位置する。塩坂邦雄委員(地質専門家)は「渇水期に田代ダム上流の水が減って、ダムに水がたまらなければ前提が崩れてしまう」と指摘し、丸井敦尚委員(産業技術総合研究所招へい研究員)は「(河川の機能を維持するために必要な)維持流量を確保できるのか」と問題提起した。
 難波喬司副知事は終了後、「案としては十分あり得るが、現実性があるのかは別の問題」とし、検討を続ける考えを示した。
 JRは田代ダムの取水抑制案とともに、これまで示していた「トンネル貫通後、10~20年かけて県外流出分の湧水を戻す方法」に関して大幅に期間を短縮する案を提示した。
 県が提供を求めていたルート選定時の地質調査資料は、JRが会議で配布し、「超高圧大量湧水の発生する可能性が高い」などとする施工上の留意点も説明した。今後、対策の検討に使われる。
〈2022.04.27 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞