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浜松の山間地でのアワビ養殖 約8年の挑戦の軌跡とは?

 浜松市天竜区佐久間町のNPO法人「がんばらまいか佐久間」は、同町で取り組んでいたアワビの陸上養殖事業を6月末で終了することを決めました。約8年間にわたり事業の民営化を目指しましたが、養殖の生産管理が困難だったとのことです。
 山の中で海のものを育てる意外性が注目され、また、遊休施設を活用した地域活性化にも期待が集まったこの事業のこれまでをまとめました。

山間部アワビ養殖終了へ 民営化目指すも技術に壁 浜松・佐久間

 浜松市天竜区佐久間町のNPO法人「がんばらまいか佐久間」は14日までに、同町で取り組んでいたアワビの陸上養殖事業を6月末で終了することを決めた。約8年間にわたり事業の民営化を目指したが、養殖の生産管理が困難で軌道に乗らなかった。同NPOの大見芳理事長(70)は「成果が上がらず残念。設備を使用したい企業や組織がいれば話をしたい」と話した。

6月末で養殖事業が終わり、後継先が未定の養殖場=2022年10月下旬、浜松市天竜区佐久間町
6月末で養殖事業が終わり、後継先が未定の養殖場=2022年10月下旬、浜松市天竜区佐久間町
 養殖事業は、地域活性化の一環として、市が2015年に実証実験として始めた。同NPOが事業委託を受け、旧学校給食センターを養殖場に整備して取り組んだ。5年間は市の委託事業として取り組み、その後の3年間は市中山間地域まちづくり事業として採択され、運営資金2790万4千円の交付を受けていた。
 事業を終える理由として、一通りの成育に約5年かかることや水質、水温の調整が難しいなど技術面のハードルが高かった。
 生産は順調にいかなかった一方、観光客や学生が養殖場の見学で同町を訪れたほか、アワビの貝殻を使った装飾品が販売されるなど、さまざまな形で活用された点もあった。
 同NPOは、設備を生かした実験や養殖などを検討している企業、組織があれば話を聞く方針。大見理事長は「佐久間町の設備として、この場所で取り組んでくれる人に来てほしい」と話した。
〈2023.6.15 あなたの静岡新聞〉

浜松市の実証実験としてスタート「浜松の山間地で アワビ陸上養殖 市、今月下旬から実験本格化」

※2015年10月14日 静岡新聞朝刊から

アワビ養殖の実証実験に向けて準備を進める北嶋秀明課長補佐=7日、浜松市天竜区佐久間町の旧佐久間学校給食センター
アワビ養殖の実証実験に向けて準備を進める北嶋秀明課長補佐=7日、浜松市天竜区佐久間町の旧佐久間学校給食センター
 浜松市は10月下旬から、中山間地域の同市天竜区佐久間町を拠点に、アワビ養殖の産業化に向けた実証実験を本格化させる。5年間の実験で養殖技術の確立や採算性確保に向けた検討を進め、将来的には民間主導の事業化につなげる構想。関係者は「山間地に光が当たり、地域が元気になる事業にしたい」と意気込んでいる。

 実証実験は市の「中山間地域あらたな仕事づくり研究事業」の一環。遊休施設になっている旧佐久間学校給食センターを活用し、水槽の代わりに既設の流し台などを使う。市は地元NPOと学識経験者を交えた研究会で養殖の可能性を模索。電源確保や水道開通など施設稼働の準備が整い、10月下旬にアワビの種苗を投入することを決めた。
 陸上養殖を発案したのは、市民協働・地域政策課の北嶋秀明課長補佐。袋井市や栃木県那珂川町の「温泉トラフグ」の事例から着想を得たという。1月から、自前の水槽を職場に持ち込み、自身で買い求めた稚貝の飼育を続けてきた。
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浜松市役所内の水槽で育つアワビ

 飼育の過程では、海水成分を分析し、にがりの調合を変えるなど最適な飼育水の開発に没頭した。「お小遣いが尽きた」という今は熱帯魚用の人工海水を使っているが、2センチだったアワビは8センチに成長。「当初は『できるわけがない』と言っていた人の目つきも変わった。機運が盛り上がっている」と手応えを口にする。
 実験は地元のNPO法人「がんばらまいか佐久間」が受託する。河村秀昭事務局長は「地元の人間からは出てこない発想で、未来に希望が持てる。北嶋さんの熱意を無にしてはいけない」と意欲を燃やしている。

事業の試金石、初出荷果たす「『佐久間のアワビ』初出荷 ホテル料亭 美食会で提供」

※2019年6月19日 静岡新聞朝刊から

料亭の担当者(右)と出荷するアワビを確認する河村事務局長=浜松市天竜区佐久間町
料亭の担当者(右)と出荷するアワビを確認する河村事務局長=浜松市天竜区佐久間町
 浜松市天竜区佐久間町のNPO法人「がんばらまいか佐久間」は18日、同町で陸上養殖しているエゾアワビを試験的に初出荷した。19日にグランドホテル浜松(同市中区)別館の料亭「聴涛館(ちょうとうかん)」で開かれる開業90周年記念美食会で提供される。

 アワビは、市から養殖事業の委託を受ける同NPOが運営する食堂「いどばた」などで提供しているが、外部への流通ルートはまだ未定。今回はホテル側の「令和で広まるであろう地元食材にいち早く光を当てたい」という思いに共感し、8センチ前後の約70匹を特別に出荷した。
 この日は、同NPOの河村秀昭事務局長と市職員がアワビの様子を確認しながら箱詰めし、料亭担当者に手渡した。美食会には約65人が参加するといい、河村事務局長は「産業化に向けた試金石になる出荷。よいPR機会になれば」と話した。
(塩谷将広)

実証実験から民間委託事業へ「アワビ陸上養殖を採択 佐久間のNPO主体に」

※2020年6月30日 静岡新聞朝刊から

養殖しているアワビの状態を確認するNPO法人がんばらまいか佐久間の会員=浜松市天竜区の旧佐久間学校給食センター
養殖しているアワビの状態を確認するNPO法人がんばらまいか佐久間の会員=浜松市天竜区の旧佐久間学校給食センター
 浜松市はこのほど、市中山間地域まちづくり事業として天竜区佐久間町のNPO法人がんばらまいか佐久間のアワビ陸上養殖事業「佐久間アワビプロジェクト」を採択した。これまで市の実証実験として事業を進めてきたが、今後は同NPOが主体となって地域産業の創出を目指す。
 同NPOは市の委託事業として2015年秋から、佐久間町の旧佐久間学校給食センターでアワビの養殖に取り組んできた。現在は11水槽で約2千匹を育てている。飼育技術の向上に加え、情報通信技術を活用した水質管理の実践など、安定してアワビを量産できる環境を整えてきた。
 採択事業期間は7月1日から2023年6月30日までで、事業費3095万4千円に対して市が2790万4千円を交付する。事業の民営化に向けて新たに2水槽を追加して生産量の拡大を図るほか、マーケティングや民間企業との連携を並行して進めるという。同NPO法人の大見芳理事長(67)は「民営化への核となるスタッフの養成にも取り組んでいきたい」と話す。
(塩谷将広)
地域再生大賞