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静岡県東部の観光業、富裕層向けで「リベンジ需要」を狙う

 観光業が盛んな県東部、伊豆地域で、立地や地域資源を生かして高級路線化を進め、他にはない体験価値を提供する富裕層向けの宿泊サービスが相次いで登場し、また今後の計画も進められています。訪日外国人や、国内の新型コロナウイルス禍からの「リベンジ需要」の取り込みを図る動きをまとめました。

「沼津倶楽部」14日に改装開業 レストランなど一新、宿泊棟は一般開放

 レストランなどとして活用されていた沼津市千本郷林の国登録有形文化財「沼津倶楽部」の運営が東京の企業に引き継がれ、6月14日にリニューアルオープンする。建物内に静岡県内出身のシェフが監修した中華レストランが開業する。隣接の宿泊棟も改装し、京都・西陣織の老舗が手がけた客室が設けられ、これまでの会員制から一般に開放する。地元客や外国人観光客など幅広い層の利用を目指す。

6月14日にリニューアルオープンする「沼津倶楽部」(提供写真)
6月14日にリニューアルオープンする「沼津倶楽部」(提供写真)
 継承したのは、ホテルや飲食店を運営する「GREENING(グリーニング)」。これまでレストランを併設した会員制宿泊施設「千本松・沼津倶楽部」として運営してきたプロジェクトN(同市)から昨年8月に引き継ぎ、休業して改装を進めてきた。
 開業するレストラン「茶亭」は、東京の人気店「東京チャイニーズ一凛」の斎藤宏文シェフ(御殿場市出身)が監修。県内で水揚げされた魚介類や県内産の野菜を使ったコース料理を提供する。
 2008年に増築された宿泊棟「別邸」は全8室。このうち、1室は沼津スイートと名付け、西陣織の老舗「HOSOO(ホソオ)」の織物を用いた家具などを配した。宿泊料金は1泊2食付き2人1室利用で、1人5万3125円から。公式サイトで予約を開始している。
 グリーニングの広報担当者は「富士山を望め、千本松原や沼津港などの観光地も近いことから、外国人観光客の宿泊利用も想定している。レストランも含め、地元の方にも利用いただける施設にしたい」と話す。

 沼津倶楽部 旧ミツワ石鹸(せっけん)の社長三輪善兵衛の別荘として1913(大正2)年、沼津市の景勝地・千本松原の一角に建てられた。数寄屋造りの北棟と南棟、かやぶきの長屋門は国の登録有形文化財。宿泊棟は敷地内に2008年に建てられた。

富裕層向けの宿 静岡県東部に続々 1泊2人10万円超も 観光業反転攻勢へ

 観光業が盛んな県東部、伊豆地域で、立地や地域資源を生かして高級路線化を進め、他にはない体験価値を提供する富裕層向けの宿泊サービスが相次いで登場している。訪日外国人や、国内の新型コロナウイルス禍からの「リベンジ需要」の取り込みを図る。

蔵をリノベーションしたロクワット西伊豆の客室。立地や地域資源を生かし、付加価値を高めた宿泊サービスが広がる=4月下旬、伊豆市
蔵をリノベーションしたロクワット西伊豆の客室。立地や地域資源を生かし、付加価値を高めた宿泊サービスが広がる=4月下旬、伊豆市

 伊豆市の土肥温泉街に2021年開業した複合施設「LOQUAT(ロクワット)西伊豆」。名家の屋敷の蔵をリノベーションした1日2組限定の客室は、1泊2人11万円から。柱や屋根などは極力残し、歴史を感じられる空間にした。地元食材をふんだんに使った食事、名産の白びわを原料にしたせっけんなどのアメニティーを用意した。宿泊者限定のバーもある。
 運営会社「ARTH(アース)」執行役員COO(最高執行責任者)の黄昌元さんは「単に高級なものはつまらないと感じる富裕層もいる。蔵に泊まる体験はここしかできず、創造力を高められる」と話す。県内や都内の富裕層の利用が多く、口コミで評判が広がっている。22年4月には近くの空き家をリニューアルした別邸もオープンした。点在する空き家を再生して町全体を宿泊施設にしようと思い描く。
 同10月にオープンした富士スピードウェイホテル(小山町)は敷地内に、専用ガレージやドッグテラスを備える平屋のヴィラ5棟を設けた。2人1室で1泊約18万円超からと同ホテルで最も高額だが、他の客室よりも予約が埋まりやすい。キッチンや広いクローゼットもあり、長期滞在もできる。ガレージの愛車をガラス越しに眺めてゆったりと過ごす客がいるという。
 ホテルチェーン「ハイアット」で、唯一無二の体験を提供するホテルブランド「アンバウンドコレクション」の国内初のホテル。トヨタグループが展開するモータースポーツ文化を楽しむエリアの主要施設でもあり、担当者は「新しい楽しみ方、新たな世界を発見できる場所にして他のラグジュアリーホテルとの違いを出したい」と展望を語る。  「水際緩和」以降顕著に  日本政府観光局によると、高付加価値旅行を求める動きは海外の富裕層を中心に高まり、新型コロナの水際対策を緩和した昨年10月から顕著になっている。コロナ禍で経済的な影響を受けなかった富裕層が消費活動を活発化させていることが背景にあるとされ、この流れは今後も加速するとみている。
 大都市とは違う魅力を味わおうと地方を目指す動きも出ているという。担当者は「見るだけ、泊まるだけではなく、物やことのストーリーを求めている」と分析。こうした要求を満たすには「受け入れる側が地域のコンテンツの歴史や意味、背景を理解し、伝える仕組みをつくる必要がある」と指摘する。
 (東部総局・矢嶋宏行)

地元アメニティー満載 富士スピードウェイホテル 小山町に開業

 小山町の富士スピードウェイ(SW)に隣接する富士スピードウェイホテルが7日、オープンした。レストランの食材やアメニティーグッズに静岡県産や小山町産を多数採用し、訪れる人に地域の魅力を発信する。

富士スピードウェイホテルは静岡県や小山町の魅力発信の場になると期待される=同町
富士スピードウェイホテルは静岡県や小山町の魅力発信の場になると期待される=同町
 レストランでは小山町特産の金太郎マスやアメーラトマトなどを提供し、県産食材のみを使うメニューも準備。客室には丸七製茶(藤枝市)のティーバッグを備える。温泉に用意するコーヒー牛乳や客室のバスソルトも県内産だ。
 トヨタ自動車によるモータースポーツ文化の体験エリア「富士モータースポーツフォレスト」の中核施設。自動車ファンに加え、自然体験やリゾート体験を求める都会の人々をターゲットにする。
 運営する日本ハイアットの坂村政彦代表取締役(49)はオープニングセレモニーで、「ここでしか味わえない体験価値を創出したい」とあいさつした。体験型観光コンテンツを提供する近隣の事業者との連携にも意欲を示す。
 セレモニーに出席した池谷晴一町長は「素晴らしい施設。多くの人に来ていただき小山町の自然を楽しんでほしい」と期待した。

アカオ・スパ&リゾート 27年に宿泊事業再参入 5年間で160億円投資

 熱海市のアカオ・スパ&リゾートは16日、ホテル売却により撤退を表明していた宿泊事業について、2027年に再参入すると発表した。5年間で総額160億円を投じ、富裕層向けの宿泊施設や若手芸術家を支援する環境を整備する。

アカオフォレスト内に建設するコテージ型ホテルのイメージ(アカオ・スパ&リゾート提供)
アカオフォレスト内に建設するコテージ型ホテルのイメージ(アカオ・スパ&リゾート提供)
 観光庭園「アカオフォレスト」内にコテージ型のホテルを約20棟建設するほか、国道135号下の「アカオビーチ」沿いに建築家隈研吾氏がデザインを手がける宿泊施設を12棟設ける予定。
 23年4月にはフォレスト入り口付近に同社の拠点事務所を移す。ギャラリー機能を備え、開放的な交流空間にするという。
 同社は16日、ホテルアカオアネックス(旧ホテルニューアカオ)とホテルアカオ(旧ロイヤルウイング)を米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに正式に売却したことも明らかにした。両施設の運営を引き継ぐ同ファンド系のマイステイズ・ホテル・マネジメントは同日、ホテルアカオの名称をホテルニューアカオに改めて営業を開始した。旧ホテルニューアカオも来夏に営業を再開する予定。
地域再生大賞