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焼津漁協 市場一新へデジタル化進む

 焼津漁業協同組合(焼津市)は冷凍カツオ窃盗事件の再発防止や、長年の課題だった水揚げ作業の担い手不足の解消に向け、デジタル化に乗り出しました。新たに人工知能(AI)を使って魚を選別するシステムの検証を進めています。焼津漁協の取り組みをまとめます。

魚種や重量、AIが選別 漁協が導入検討

 焼津漁業協同組合(焼津市)は水揚げされた魚の魚種や重量を人工知能(AI)を使って選別するシステム導入の検討に入った。29日までの関係者への取材で分かった。4月からカツオを中心に魚のデータ収集作業を進め、システム本格稼働に備える。長年の課題だった水揚げ作業の担い手不足解消を図るとともに、カツオ盗難事件の再発防止策としての効果に期待する。

画像データの魚種選別事例。カツオは「tuna」とラベリングしている。
画像データの魚種選別事例。カツオは「tuna」とラベリングしている。
 システムを開発したのは製造機械メーカーのイシダテック(同市)。計画案では、水揚げされた魚を選別するためのレーンに2台のカメラを設置。AIが撮影した画像データを元に魚種、重量を判断し、仕分けていく。
 焼津漁協とイシダテックは昨年9月、水揚げ作業の自動化に向けた協議を開始。昨年末から、現地視察や検証作業を重ねてきた。焼津漁協ではシステムの有効性を一定程度、確認できたことから、導入の方向にかじを切った。
 4月から水揚げしたカツオの写真を撮影し、重量データとひも付ける作業を実施する。収集したデータをAIに読み込ませて、魚種や重量の判断するまでの時間や処理能力といった項目を3カ月ほどかけて検証していく。焼津漁協では提示された検証結果を基に、システム導入の可否を判断する。

負担軽減、正確性向上に効果
 焼津漁協が導入検討に入った新システムは、水揚げに携わる作業員の負担減少や、データに基づいた従来よりも正確な魚の選別に効果をもたらす。水産関係者は「人の目」頼みにならない選別作業の実現で、国内随一の水揚げ港としての存在感向上につながると期待を寄せる。
 
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 水揚げされた大量の魚は、漁港に設置しているレーンに乗って流れていく。20人ほどの作業員が並び、魚を種類や重量ごとに仕分けていく。作業員はレーンの下流に流すべきではない種類の魚を見つけると、取り上げて別のレーンへと持っていく。魚は重いもので一匹約8キロ。こうした作業は3~4日間続くという。
 水揚げ・選別は魚を市場に届けるための重要な作業だが、高齢化や負担の重さといった理由から担い手不足が課題となっている。
 新システムが本格稼働すると、選別作業の機械化に伴い「作業員一人一人の負担を減らすことが可能」(焼津漁協担当者)という。作業員に余裕も生まれ、「別の作業のサポートに回ることもできる」(同)と効果に期待を寄せる。(焼津支局・福田雄一)
〈2023.3.30 あなたの静岡新聞〉

冷凍カツオ窃盗事件の舞台、魚市場を最優先に

 焼津漁業協同組合(焼津市)は(2023年2月)1日までに、デジタル化導入に向けた計画を策定する委員会を設置した。近く初会合を開き、冷凍カツオ窃盗事件の舞台となった魚市場を最優先にデジタル技術導入に向けた議論を本格化させる。

 委員会は市場部や総務部など各部門の部長や次長、理事2人の計10人で構成。1年間かけて課題を洗い出しながら、漁協全体でのデジタル化計画を策定する。
 魚市場のデジタル化は、事件の再発防止策にも絡むことから最優先事項に位置づけ、議論を進める。具体的には、魚市場入り口にゲートを設け、トラックの車両番号の認証システム導入や、水揚げした魚の計量データのデジタル管理といった案が浮上している。
 デジタル化を巡っては、若手職員らでつくる「焼津魚市場改善改革チーム」が議論を進めてきた。委員会は同チームで議論した内容を踏まえ、検討、具体化させていく。
〈2023.2.2 あなたの静岡新聞〉

デジタル化へ先進地視察 大船渡/気仙沼

 冷凍カツオ盗難事件の舞台となった焼津魚市場。運営する焼津漁業協同組合は市場を一新させる策の一つとして、デジタル化に乗り出す。8月17、18両日には漁協で業務の改革を担う職員らがそのヒントを探ろうとデジタル化の先進地として知られる大船渡市(岩手県)、気仙沼市(宮城県)両魚市場を視察した。

再発防止 漁協職員が模索

 大船渡市魚市場は2014年の高度衛生管理型魚市場の整備事業に合わせて、情報通信技術(ICT)を活用した管理システムを構築した。魚市場内のサーバーで計量、運搬、入札といった各段階の情報を一元的に管理している。

入札結果を知らせるモニター=8月18日、宮城県の気仙沼市魚市場
入札結果を知らせるモニター=8月18日、宮城県の気仙沼市魚市場
 水揚げした魚は鮮度を保持するために魚市場が用意した「タンク」と呼ぶ箱に入れられる。箱にはICチップが埋め込まれていて、フォークリフトが計量すると、数量データが自動的に読み込まれる。買い受け人が市場外に運び出した場合でも追跡調査ができる。

 
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タンクに入った水揚げした魚をフォークリフトで計量する作業員=8月18日、岩手県の大船渡市魚市場

 魚市場での販売はほぼ全ての魚種で電子入札を取り入れている。買い受け人はそれぞれタブレット端末を使って入札に参加する。結果は魚市場内のモニターで表示される。どの業者がどの魚種をどれだけ落札したのか一目瞭然で、ホームページでは入船情報、入荷情報がリアルタイムで表示される。
 「情報開示は公設市場として義務。デジタル化で情報の共有化が可能になった。デメリットを感じたことはない」。大船渡魚市場の佐藤光男専務は言い切る。
 気仙沼市魚市場では特定の魚種販売で電子入札を導入している。当初はタブレット端末の扱いに苦労する買い受け人の姿が目立った。魚市場が講習の機会を設けるなどしてサポートし、今では使いこなしているという。導入した理由について、気仙沼漁協の臼井靖参事は「業務の省力化、スピード化、公正な取引の実現を考えた」と語った。

大船渡市魚市場 可視化で情報共有

 
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タブレット端末に値段を打ち込む買い受け人=8月18日、岩手県の大船渡市魚市場=8月18日、岩手県の大船渡市魚市場

 岩手県の水産流通拠点の一つ大船渡市魚市場。水揚げされた魚が市場外に出るまでのあらゆる情報はサーバーで一元管理されるとともに、タブレット端末やモニターで可視化されている。船主、買い受け人が同じ情報を共有することで、公正な市場運営に貢献している。
 水揚げした魚を入れる1100個のタンクにはICチップが内蔵されている。港から市場へと運搬するフォークリフトにはタブレット端末が備え付けられている。計量のためにタンクに近づくとICチップに反応し、タンクのナンバー情報が端末に表示される。作業員はフォークリフトで計量した数値を端末に入力すると、データがサーバーに保存される。
 市場内にタンクが運ばれると、買い受け人が近づき、中の魚を吟味する。手元のタブレット端末に希望価格を打ち込んでいく。落札すると端末画面の色が変わる。この間、会話は一切無い。以前は競りも行っていたが、コロナ禍を機にほぼ全て電子入札に切り替わった。場内に設置されたモニターには、端末上で繰り広げられた入札の結果が時間を置かずに表示される。
 運搬業者の動線は、市場関係者以外は立ち入りできないように厳密に分けられている。トラックスケールにはセンサーが設置されていて、車両番号を記録する。
 徹底した情報管理を施した魚市場。大船渡魚市場の佐藤光男専務は「大船渡方式が万能とは言わないが、デジタル化は避けて通れない。地元の事情に応じて進めれば」と述べた。

費用やシステムに質問 視察の漁協職員が報告会

 大船渡市、気仙沼市両魚市場を視察した焼津漁協の職員が8月25日、同漁協で報告会を行った。集まった魚市場担当職員からは焼津魚市場でのデジタル化導入を念頭に、費用面やシステムの詳細に関する質問が相次いだ。
 焼津魚市場改善改革チームのメンバーら4人が資料や動画を使って、視察先の魚市場の現状について説明した。出席者からは「フォークリフトの計量の所要時間は」「タブレット端末に入札結果が反映されるのか」などの質問が出た。

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大船渡市・気仙沼市魚市場などの視察内容についての報告会=8月25日、焼津市の焼津漁協

 出席者の一人はデジタル化を進めるべきとした上で「まずは環境を整備しないといけない」と話した。別の出席者からはデジタル化は5年計画になるとし「5年後を担う若手職員も視察に行くべき」と感想を述べた。

 メモ 焼津漁協が県に提出した報告書では、再発防止策の一つとして「デジタルの活用が必須」と記されている。今回視察に参加した焼津魚市場改善改革チームを中心に議論が始まったばかりだが、計量結果データの共有といったところから展開を目指す。このほか、漁協ではETCゲートによる入退場管理、計量小屋の監視カメラ導入といったハード面の整備も検討していく。
地域再生大賞