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東日本大震災から12年 静岡県内「津波即時避難」意識低下

 東日本大震災の発生から12年を迎えるのを前に、静岡県内の沿岸部では3月5日、津波避難訓練が行われ、12市町で8万7639人が参加しました。一方、県がインターネット方式で実施した意識調査では、津波に対し「揺れを感じたら直ちに避難」が4割にとどまり、前年から10ポイント低下していることが分かりました。コロナ禍を機に、防災対策や意識の低下が指摘されています。

津波対策推進旬間、避難経路や要支援対応確認

 東日本大震災の発生から12年を迎えるのを前に、県内各地の沿岸部で5日、津波避難訓練が行われた。県によると、県が設定した「津波対策推進旬間」に地域住民が集まって実施する訓練は4年ぶり。統一実施日のこの日、12市町で8万7639人が参加した。参加者は避難経路や周囲の支援を必要とする避難者への対応を再確認した。

津波避難タワーに車椅子で避難した太田貞子さん(右から2人目)と和加子さん(右)=5日午前10時半ごろ、浜松市西区
津波避難タワーに車椅子で避難した太田貞子さん(右から2人目)と和加子さん(右)=5日午前10時半ごろ、浜松市西区
 伊豆市はビーコン(電波受発信機)を使った訓練を同市土肥の屋形区で行った。住民約100人が午前10時の時報を合図に区内7カ所の避難場所に向かい、ビーコンで自宅から避難場所までの所要時間を計った。
 市は訓練で得られたデータを、市内の松原公園に来年4月に開設する津波避難複合施設の運用に活用する。土肥小中一貫校5年の山口遥加さん(11)は「津波避難タワーを上るのが大変だった。ビーコンを確認しながら、速く逃げることを意識した」と話した。
 浜松市西区舞阪町の第2弁天島自主防災隊は、災害避難時に支援を必要とする「災害時要援護者」を津波避難タワー上層階へ運ぶ訓練を初めて行った。家族と一緒に車椅子で避難してきた太田貞子さん(74)を、自主防役員4人が協力して車椅子ごと運び上げた。
 参加前まで避難を諦めようと家族に話していたという太田さん。息子の浪吉さん(49)と妻の和加子さん(47)は「訓練に参加して津波避難への現実味が帯びた。課題も見つかったので、避難手順などを家族で話したい」と語った。
 沼津市志下地区では、県危機政策課の職員が南海トラフ地震発生の可能性を知らせる「南海トラフ地震臨時情報」について説明した。同課の池沢栄誠主幹(45)は「あくまで大きな地震の後、再び大規模地震が発生するかどうかを知らせる情報」と強調。マグニチュード(M)6・8以上の地震などの異常現象確認後に「警戒」が発表されると、足腰の弱い避難行動要支援者は1週間の事前避難が必要とした。
 県は本年度、同旬間を3~12日に設定した。12日までに9市町でも実施する。

静岡県民防災調査 「臨時情報」の認知度も減少

 南海トラフ地震の津波避難について、揺れたらすぐに避難を開始する割合が4割にとどまることが7日、静岡県の県民防災意識調査で分かった。前年度から約10ポイント下がり、即時避難意識が低下している。南海トラフ沿いで大地震の発生可能性が高まった際に発表される「臨時情報」の認知度も2ポイント下がり、依然として理解が浸透していない。専門家は防災意識そのものの低下にも危機感を強めている。

津波からの避難のタイミングは/「南海トラフ臨時情報」について知っているか
津波からの避難のタイミングは/「南海トラフ臨時情報」について知っているか
 津波に対して、「揺れを感じたら直ちに避難する」と回答したのは42・5%(前回52・1%)。一方、「津波警報の発表を聞いててから」は33・1%(前回23%)だった。
 静岡大防災総合センターの岩田孝仁特任教授は「駿河湾は数分で津波が到達する地域がある。揺れ出したらすぐに高台に避難しなければ間に合わない」と強調する。
 東日本大震災では気象庁から当初発表された警報よりも高い津波が押し寄せ、避難が遅れた人もいた。県は「津波避難の基本は即時避難。津波リスクの正しい理解と的確な避難につなげていく」とした。一人一人が避難行動を考える「わたしの避難計画」の作成や津波避難訓練を通じて引き続き啓発を図る。
 臨時情報は、南海トラフ沿いでマグニチュード(M)6・8以上の地震が発生するなどした場合に発表される。地震の規模に応じて、沿岸部では事前避難などが求められる。
 「知っている」と答えた県民は24・4%(前回26・4%)で、「聞いたことはあるが、内容は知らない」との回答は37・4%(前回36・1%)。県はコロナ禍で直接、県民に周知する機会が少なかったのが要因とみている。県危機管理部の杉山隆通危機報道官は「沿岸部では認知度を限りなく100%に近づけたい」と述べた。
 岩田教授は「コロナ禍を理由に防災対策の停滞や意識低下が進んでいる」と指摘。「自分自身の命を守るにはどうすべきか改めて考え、最適な避難場所や避難経路を確認してほしい」と呼びかけた。
 調査はインターネット方式で実施し、1841件の回答が寄せられた。

災害デマAIが見極め 浜松市、情報収集にSNS活用

 ツイッターやインスタグラムなど、日々膨大な量の情報が投稿される交流サイト(SNS)。自然災害の発生時には速報性や情報量などの“強み”が注目され、人々の暮らしを守るために活用しようとする取り組みが全国の自治体で進む。浜松市は2023年度当初予算案に関連費用として1千万円を盛り込んだ。悪質な投稿などで信ぴょう性の課題が指摘されることもあるSNSだが、どうすれば災害対策に効果的に役立てられるのだろうか。

AIが分析して表示した災害情報を確認する浜松市危機管理課の担当職員=2月中旬、同市役所
AIが分析して表示した災害情報を確認する浜松市危機管理課の担当職員=2月中旬、同市役所
 浜松市が導入を検討しているのは、SNS上に投稿された災害情報をAIが収集するシステム。「浜松」「洪水」「火災」など、場所や事象をキーワードで絞り込むと、関連する投稿を即座に分析して表示できるため、迅速な支援や避難情報発令の判断材料につながることが期待される。市危機管理課は2022年8月から同システムを試行中で、同9月の台風15号による豪雨被害でもSNS上の被害映像などが判断材料の一つとなった。
 災害時の情報収集にSNSを使う人は年々増加傾向にある。総務省によると、発災時にSNSを活用した人の割合は、11年の東日本大震災では0・9%だったのに対し、16年の熊本地震の際には47・6%まで拡大した。
 こうした結果を踏まえ、埼玉県川口市の危機管理課は、20年からAI情報収集システムを導入した。モニターに映し出された災害現場などの写真や動画をAIが分析したSNS上の投稿を適宜確認している。担当者の安村瑠宇人主事は「導入前は情報を得るために能動的な働きかけが必要だったが、情報がいち早く自然に入ってくるようになった」と評価する。一方、「SNSは投稿者が好きなように発信できるため、単独の情報をうのみにはできない。真偽には注意を払う必要がある」と強調する。
 発災時に悪質なデマ情報が拡散される問題はこれまでも繰り返し起きている。東日本大震災では「石油タンクが爆発した」、熊本地震後は「ライオンが動物園から逃げた」などのデマが出回った。22年9月の豪雨被害でも水没する集落のフェイク画像が流れた。
 こうした誤情報を見極める手段としてもAIが活躍している。過去にネットに上がった投稿と比較したり、画像に加工の形跡がないかを分析したりして、デマの可能性が高い情報をある程度排除することが可能だ。
 浜松市危機管理課はSNS情報と過去に起きた浸水被害などのデータの双方から判断しながら対応策を練ることを想定する。小林正人課長は「SNSに上がってこない被害もある。職員の目で実際に確かめることも重視しながら、市民の安全を守る対策に結びつけたい」と期待を込める。

 SNS「信用できる」3割
 NTTドコモのモバイル社会研究所が2021年10月に実施した調査によると、災害時にSNSで情報収集する人の割合は増えているものの、その情報に対して懐疑的に向き合う人が多い様子も浮かび上がった。
 調査は全国の15~79歳の男女計約9000人を対象とし、全体の約4割が災害時の情報収集の手段にSNSを活用していると回答した。特に10~20代では、7割近くがSNSを用いて情報を得ている実態が明らかになった。
 一方、SNSの情報を「信用できる」と答えた人は回答者全体の3割程度にとどまった。同研究所は「自治体から発信される情報など、別の方法と併せて収集し、情報の精度を上げる姿勢が重要」と指摘している。

夜間に避難訓練計画 掛川市、議会で説明

 掛川市の戸塚美樹危機管理監は8日の市議会2月定例会一般質問で、2023年度の津波避難訓練を夜間に実施して課題を検証する考えを明らかにした。藤沢恭子氏(新しい風)の質問に答えた。

 市危機管理課によると、24年3月に沿岸部で実施する訓練を対象にする。避難施設やアクセス道の見え方を確認し、停電に伴う暗闇の中で迅速な避難が可能かどうかを調べる。夜間実施は同市初になる見込み。
 避難場所までの道路沿いや避難所に自発光式の照明を設置する検討も進める。戸塚危機管理監は「自治会が設置する発光ダイオード(LED)防犯灯の設置補助事業で、ソーラー式防犯灯も対象にすることで防犯と防災につなげられないか研究する」と述べた。
 勝川志保子(日本共産党議員団)、鷲山記世(創世会)、窪野愛子(市民派・公明倶楽部)の3氏も登壇した。
地域再生大賞