知っとこ 旬な話題を深堀り、分かりやすく。静岡の今がよく見えてきます

見直し進むブラック校則 これからの在り方は

 「ブラック校則」とも呼ばれる不合理な校則の是正に向け、静岡県内では生徒主導で見直しが進んでいます。時代にそぐわない校則に教諭も合理的な説明ができず、見直しの必要性を感じているといいます。ブラック校則や「謎ルール」の現状と、生徒会が主導して改定が進む静岡市の事例をまとめます。

時代に合わない謎ルール 学校現場の現状

 「ブラック校則」や「学校の謎ルール」というワードが盛んに使われるようになったのは、2017年の校則を巡る裁判がきっかけでした。生まれつき茶髪の女子高校生が黒染めを強要されて不登校になったとして大阪府を訴え、大きな社会問題となりました。以降、静岡県内でも校則見直しの動きは少しずつ広がってきましたが、指導現場では「緩めれば学校が荒れる」という声も根強いようです。多様性への理解が進み、LGBT(性的少数者)への配慮も当たり前になる中、これからの校則はどうあるべきか考えてみませんか。

静岡市教委が示した「見直すべき校則」
静岡市教委が示した「見直すべき校則」

「生まれつき茶髪」を黒染め
 ブラック校則が社会問題化して以降、静岡新聞社にも校則に悩む多くの中高生から投稿が寄せられるようになった。
 そのうちの一人、県中部地区の県立高校を昨春卒業した女性は、今も憤りを隠さない。「生まれつき茶髪」という友達が髪を黒く染めるように学校から強要され続けたという。「友達よりも周囲の私たちの方が悔しがっていた。『絶対におかしいでしょ』って」
 女性が通っていた高校には月1回の頭髪服装検査、通称「トウケン」があった。頭髪のほかに「色付きリップクリームを使用していないか」「スカートの裾を折っていないか」など10項目ほどの検査があった。教諭陣が○×を付け、引っかかった生徒は週3回、昇降口で簡易検査を受けた。
 女性の友達は入学時、幼い頃の写真と一緒に地毛証明書を学校に提出していた。にもかかわらず、生徒指導の教諭からいつも「待った」が掛かった。
 教諭は声を荒らげることなく、諭すように言ったという。「茶髪の生徒が一人でもいると、学校のイメージが悪くなるからさあ。地域の人は地毛なんて知らないからさあ。頼むよ」。友達は仕方なく、茶色が目立つようになるたびに黒く染めた。
 結局、女性が抱いた疑問は3年間解消されなかった。「地毛証明書を提出しているのになぜ? 生まれ持った特徴なのになぜ? 校則には『髪を染めてはいけない』とあるのに、黒染めがいいのはなぜ?」

子どもの言い分だけも危険
 中学や高校の「謎のルール」が話題になる時、例として挙げられるのが「下着の色は白」「ツーブロック(髪形)禁止」「髪を束ねるゴムは黒や紺」などだ。校則の制定権は校長にあるとされ、学校によってルールは違う。
 不良行動がエスカレートして学校が荒れないように。貧困家庭の金銭的負担が増えないように-。学校側にはさまざまな考えがあるだろう。「ルールを守れる子どもになってほしい」と厳しい指導を求める保護者もいる。
 県中部地区の教頭は「人権侵害になるような校則は論外だが、卒業後、社会のルールに対応していくためにも校則は必要。子どもの言い分だけを聞くのは危険だ」と話す。
 一方、現場の教諭からは戸惑いの声が漏れる。県中部の男性高校教諭は「『決まりは決まり』と自分は厳しい指導をしているが、『ツーブロック禁止はなぜ?』と生徒につつかれても理論武装できていない」と打ち明ける。
 別の男性教諭は「一部の校則が時代にマッチしていないことは多くの先生が感じているはず」としつつ、「見直しにエネルギーを注ぐほどの余裕はない。今は、説明できない校則は注意していない先生が多い」とこぼす。こうした教諭間の温度差が、生徒を一層混乱させているという指摘も多い。
 多様性の尊重が叫ばれる中、県教委は昨年10月、県立高の校則について実態調査に乗り出した。各校から2月末までに確認シートが提出される予定で、担当課は「各校のスクールポリシーや求める生徒像と照らし合わせ、検証を進めてほしい」としている。(社会部・南部明宏)
 〈2023.01.23 あなたの静岡新聞〉

​生徒会が意見集約し見直し 静岡西奈中の事例

 静岡県内の中学では、校則の見直しが急ピッチで進められている。静岡市教委は2021年10月に見直しのガイドラインを全小中学校に通知。必ず見直すべき校則として「女子はスカート」「日焼け止めの禁止」などの例を挙げ、「『中学生らしい』などあいまいな概念ではなく、合理的な説明ができる内容とする」と示した。

PTA会長や校長に校則見直し案を説明する生徒(奥)=2022年12月中旬、静岡西奈中
PTA会長や校長に校則見直し案を説明する生徒(奥)=2022年12月中旬、静岡西奈中
 こうした動きを受け、同市葵区の西奈中では昨年度、教諭主導で校内アンケートを実施し、下着や靴下の色に関する校則の改定に取り組んだ。本年度は生徒会が中心となり、各クラスの意見を集約。「外靴の色は白だけでなく黒、紺など制服に近い色を基調とした2色まで可」「防寒着として制服に近い色のタイツやスパッツを着用できる」という二つの見直しについて、校長とPTA会長の承認を得た。
 生徒会本部役員の岩崎翔さん(2年)は「生徒全員で意見を出し合って決めたルールなので、一人一人がルールを意識するようになった」と話す。小山浩明校長は「変えた方がいいと思う校則はたくさんある。しっかり青写真を持ち、見直しを続けてほしい」と期待する。
 裾野市は23年度から市内中学校の制服を統一し、多様性などを考慮してスラックスとスカートを自由に選択できるようにする。
 19年から各中学に校則見直しを促してきた浜松市教委は「『男子は』『女子は』の表記をやめている学校は多い。地域や保護者の意見も反映させながら進めていきたい」と説明する。見直しが一過性のもので終わらないよう、各校のホームページで校則を公開していく方針だ。

生徒主導に「主権者意識」への期待
 生徒主導で校則の見直しを行うプロセスが当たり前になれば、幼い頃から社会的な問題を自分事として考えられるようになり、「主権者意識」が育まれると期待されている。政治に対する若者の無関心や、10代の投票率の低さが指摘される中、教育現場では「義務教育時代から自分たちでルールを変える経験をしてほしい」という声が上がる。
 文科省は昨年12月、12年ぶりに改訂した教職員向けの手引書「生徒指導提要」の中で、校則の見直しを行うプロセスの重要性に触れている。クラスで議論させたり、改定手続きを明文化したりする取り組み例を示し、「児童生徒が主体的に参加することは、身近な課題を自ら解決するといった教育的意義を有する」としている。
 投票に行かない若者の多くが口にするのは「投票しても、どうせ何も変わらないし…」という諦めだ。静岡市教委は「児童や生徒が自ら学校生活をつくり上げていこうとする態度を育てることは、積極的に社会参画しようとする態度を養うことにつながる」と強調する。(社会部・南部明宏)
 〈2023.01.23 あなたの静岡新聞〉

静岡西奈中・生徒指導主事 大村悠紀さんインタビュー

 ブラック校則や学校の謎ルールについて考えています。校内暴力などが社会問題化していた時代は学校の秩序を保つために厳しい校則が必要とされていましたが、今は時代にそぐわなくなっている校則もあるようです。静岡新聞社にもこれまで、校則に悩む多くの生徒から投稿が寄せられてきました。非合理的なルールが、不登校の子どもを増やしているという指摘も聞こえてきます。積極的に校則の見直しを進める静岡市立西奈中で、生徒指導主事を務める大村悠紀教諭(34)に今後の校則の在り方について話を聞きました。

静岡西奈中の校則見直しの流れ
静岡西奈中の校則見直しの流れ

意見や考え 発信する力養いたい 
 
photo02
大村悠紀さん 大学卒業後、清水第六中に5年勤め、2016年に静岡西奈中へ。専門は保健体育。女子バスケットボール部顧問を務める。生徒指導主事。静岡市出身。34歳。

 西奈中は積極的に校則の見直しを進めています。これまでの流れを教えてください。
 2021年7月、静岡市教委から「校則を見直していかなければいけない」というアナウンスがあったのが始まりです。本校の校則の課題を洗い出し、昨年度は市教委が指摘する校則を一部改定しました。本年度は生徒の見直しを求める声が多かった校則から少しずつ変えていくことになり、全校生徒へのアンケートで意見を吸い上げました。下着や靴下の色を見直し、ツーブロックや編み込みの髪形についても「不潔というわけではないよね」という子どもたちの意見で禁止ではなくなりました。
 先生もツーブロックですよね。これまで生徒から指摘されることはありませんでしたか。
 私は体育教師で常に汗をかきます。仕事がやりやすいのでこの髪形にしていますが、生徒も同じですよね。ツーブロックを禁止にする根拠がありませんでした。生徒たちから指摘されても「子どもだから駄目」とは言えない。「なぜ生徒は禁止なんだろうね。声を上げてみたらどうか」と答えていました。自分も疑問を持っていたので、校則の見直しは自然なことでした。「校則を変えたいなんて言っていいのかな」という気持ちが生徒にはあるので、「言ってもいいんだよ」と。

誰もが納得できる形に
 保護者や、他の先生方の反応はいかがでしたか。
 保護者向けのアンケートをしたことはないですが、PTAの会合などでは「もっと変えてほしい」「古くさい」という声は多いです。職員の中では、不安という声はありました。かつて全国的に中学校が荒れた時代があって、校則は子どもたちをコントロールしたり学校の秩序を保ったりする役割がありました。「子どもに判断を委ねて大丈夫なのか」「崩壊した時に誰が責任を取るのか」という意見もありました。
 どうしたのですか。
 30代半ばの私や、私よりも若い教員には「校則を少しでも緩めれば崩壊する。学校が荒れてしまう」というイメージはありません。見直しの進め方をしっかりすれば、荒れることはないと思います。なぜツーブロックは禁止なのかという理由を生徒に説明できなければ逆に困りませんか、という思いもあります。職員の中でもさまざまな意見が出ましたが、まずは初年度は市教委の指摘する校則から変えていこうということになりました。生徒と同じように、私たちも校則見直しに対して慣れていくことが必要だなと感じています。基本は生徒とPTA、教員の3者が納得できるような形にしていきたいと考えています。

生徒との信頼関係大切
 文科省も静岡市教委も、見直しのプロセスを大切にしています。
 個人的には、大人の出番を間違えないようにすることが大切だと思います。子どもたちが出してきた見直し案や意見を、すぐにつぶしてしまうことがないようにしなければいけないと教員間でも共有しています。変えなければいけない根拠は何か。変えたことによって、どんな影響が出そうか。生徒に考えさせ、気づきを与え、深めていく時が教員の出番では。そのために、子どもからアクションがあったら職員全体で一度共有しましょうと。学校の管理職からは「子どもたちに判断力をつけさせたい」という話がありました。選択肢を増やしてあげたり、判断するための余白部分をつくってあげたりすることが大切という考えも共有しました。
 生徒からとんでもない見直し案が出てくる恐れは。
 突拍子もない見直し案が出てくるかもとは、あまり思っていません。一人の生徒がポンととんでもない意見を出してきても、みんなが「そうだ、そうだ」となるのは学校ではなかなか難しい。周りの目も気になり、多数の考えと違う意見を主張するのは勇気がいることですから。生徒と教諭の信頼関係も大切になると思います。ただ、ある子から本当に本質を突いた意見が出てきて、「それって面白いじゃん」という生徒が数人出てきて、そのうち意見が二つに割れるようなことになれば理想的かなと思います。
 教諭の多忙化が社会問題になっています。「校則見直しに注ぐ時間がない」「校則を緩めれば、生徒指導の仕事が増える」という声も聞こえてきます。
 校則見直しによって、生徒指導の時間が増えてしまうのではという意見もありますが、個人的には仕事は減るのではと考えています。ツーブロック禁止の根拠を示さないまま頭ごなしに「校則で決まっているから駄目だ」と言っても、生徒は反発してしまう。そちらの対応の方が大変になるのではないでしょうか。
 生徒主導による校則の見直しは、主権者教育や若者の投票率アップにもつながると言われています。
 校則見直しを通して、自分たちの意見や考えを受け止めてもらえたという経験をしてほしいですね。政治に関しても「自分たちが声を上げても結局届かないじゃん」と思えば、若者は興味を持たなくなると思います。いきなり政治や社会につなげることは難しいかもしれませんが、次のカテゴリーにつながっていけば。高校に進んだ後も「こういうことをやってみたい」とか「こんなアイデアがある」と発信することができるような生徒になってほしいなと思います。
 今後も校則の見直しを進めていく予定ですか。
 昨年度は生徒たちも見直しの動き方が分からなかったと思うので教員主導で流れを作りましたが、本年度は生徒たちに半分任せました。来年度はスタートから、生徒会主導で発信させていきたいと考えています。私たちが心配しているのは、子どもたちから校則見直し案や意見が何も出なくなるということが、いつか起こるのではということです。校則は絶対に変えなければいけないものではなく、議論した末に「今年は見直し無し」であれば、それはそれでいいと思います。ただ、校則見直しがここ2、3年に流行した一つのイベントのような、一過性のものとして終わってしまうのではいけないと感じています。(社会部・南部明宏)
 〈2023.01.28 あなたの静岡新聞〉

全国的にも見直しの動き 国が生徒指導マニュアルを改定

2022年8月27日 静岡新聞朝刊

 文部科学省の有識者会議は26日、児童生徒の生活面の注意点や問題行動への対処を示した教員用手引書「生徒指導提要」の改訂版をまとめた。「ブラック校則」とも呼ばれる不合理な校則の是正に向け、子どもの意見を反映し、必要性が説明できないなら検証して見直すことを求めるのが柱。2010年に作成した現行版の初改訂となり、近く同省ホームページで公開する。
 従来は、いじめや非行など問題行動への対応に主軸を置いたが、児童生徒の主体性を生かす指導を重視した内容に転換する。日本が「子どもの権利条約」を批准していると明示して「児童生徒の基本的人権に配慮し、一人一人を大切にした教育」の大切さを説いた。
 現行版では「制服の着用、パーマ・脱色、化粧」などに関する校則があると例示したが、お墨付きを与えるような印象を避けるために、手引書から事例を全て削除。「本当に必要なものか絶えず見直し、不要に行動が制限される児童生徒がいないか検証することも重要」と訴え、子どもや保護者らの意見を聞くことが望ましいとした。
 校則のホームページ公開を推奨。あらかじめ見直し手続きを定めることや、少数派の意見も尊重したルールにすることの必要性を明記した。
 また性的少数者への対応に関する内容を盛り込んだ。教職員が理解を深め、差別やいじめを許さない指導を求める。当事者が秘匿したい場合に注意しつつ、専門家と連携してチームで支援することも要請。服装やトイレの扱いなど具体的な配慮の方法も示した。
 他に、13年に施行した「いじめ防止対策推進法」の説明や、部活動における不適切指導を防ぐ注意点も載せた。改訂版は約280ページ。今回から冊子では配布せず、デジタル版のみとした。
地域再生大賞