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熱海土石流検証委 公文書残さず ずさんな情報管理の実態次々と

 熱海市伊豆山の大規模土石流を巡り、静岡県が設置した行政対応検証委員会が、委員や市から送られてきた意見書を事務局が公文書として保管せず、公表しないまま廃棄していたことが分かりました。これまでに、議事録を残さない“裏会合”も開いていて、検証委の情報管理・公開体制のずさんな実態が明らかになってきています。これまでの経緯をまとめます。

データ含め削除済み 行政対応に批判的意見か

 熱海市伊豆山の大規模土石流を巡り、静岡県が設置した行政対応検証委員会(委員長・青島伸雄弁護士)が報告書を取りまとめた際、複数の委員や市から送られてきた意見書を事務局が公文書として保管せず、公表しないまま廃棄していたことが9日までの県などへの取材で分かった。報告書作成の経緯が不透明になり、議論した全ての内容を事後に公開すると約束していた川勝平太知事の説明と矛盾する対応になっている。

 複数の関係者によると、意見書は、検証委の事務局によって4月末に作成された報告書の原案に対し、各委員や市が修正を求める点を記載した内容で、事務局にメール送信されていた。県の行政対応に関して批判的な意見が含まれていたとみられる。
 事務局職員は県職員OBが務めていた。県によると、この県職員OBは報告書の取りまとめ段階でメールを紙に印刷したが、紙はその後、廃棄して残さず、メールのアカウントは事務局解散後に削除したという。県の担当者は「データも含めて削除済みと聞いている」と答えた。
 検証委の報告書は「手が回らなかった」(青島委員長)として一部の関係法令に検証を重点化したが、熱海市が「検証のバランスを欠いている」と批判し、一部の委員も「検証が不十分だった」との見解を示している。(社会部・大橋弘典)
 〈2022.10.10 あなたの静岡新聞〉

 ■静岡県の行政対応検証委員会って?
 行政学や土木技術の専門家、弁護士ら4人の委員で構成される。県が設置し、熱海市が協力する形で昨年12月から今年5月にかけて正式会合を4回開催した。一部の報道で「第三者委員会」と呼ばれていたが、当時の行政手続きに関わった職員へのヒアリングを直接行わず、県職員OBでつくる事務局が県の担当部署と頻繁にやりとりしていた実態が判明している。
 〈2022.07.15 あなたの静岡新聞〉

「全て公開」知事の説明と矛盾

 検証委員会の議事録について、川勝平太知事は2月の定例記者会見で、結果がまとまった後に公表する考えを示していた。

川勝平太知事
川勝平太知事
 川勝知事は「検証が終了していない段階で議事録を公表するのは、誤解や臆測を招く恐れがあると委員が判断した」とする一方、「結果の公表とともに、検証の過程を明らかにしたい」と述べていた。
 ただ、会議そのものの公開については「難しいところ。委員の判断を尊重する」とし、非公開を維持する。
 昨年12月の初会合後、難波喬司副知事は「最終的な報告書で内容が明らかになる」として、議事録の公表は必要ないとの認識を示していた。
 〈2022.02.09 あなたの静岡新聞〉を基に編集

「法の趣旨に反する」 前山亮吉県立大教授(政治学)

 公文書の慎重な廃棄を定めた公文書管理法8条の趣旨に著しく反する運用だ。公文書の保存が大事な理由は文書を追うことで決定過程を可視化できる点。一つの結論に至るまでにメモや意見書などが重要な役割を果たすことが多く、それらも含めて「一括記録」として保存することは外交文書などで常識だ。結論だけの保存では点だけが残り、そこに至る多数の線が残らない。県には公文書管理の条例がなく「時代遅れ」の観がある。早急な整備が必要ではないか。

前山亮吉県立大教授
前山亮吉県立大教授
〈2022.10.10 あなたの静岡新聞〉

議事録残さない検討会も開催 「内容聞かれても答えようがない...」

 行政対応検証委員会が正式な会合とは別に議事録を残さない「検討会」を2回開催していたことが14日(※7月)までの県関係者への取材で分かった。川勝平太知事は検証の過程を全面的に明らかにすると表明していたが、検証委は「検討会」の存在や議事内容を説明していない。

県行政対応検証委員会の開催日程と対応状況
県行政対応検証委員会の開催日程と対応状況
 県関係者によると、「検討会」と称した会合は4月28日と5月11日に開催。4人の委員全員と県職員OBの事務局員が対面やリモートで参加し、委員同士が意見交換して最終報告案の文面を調整したという。青島委員長と事務局が相談して開催を決めたとされるが、青島委員長は5月の最終会合後の記者会見で「検討会」の存在を説明していなかった。
 検証委の会合は全て非公開。通常の会合の日時は事前に報道機関に発表され、各回の議事録を最終報告後にまとめて公表した。「検討会」は報道発表せず、議事録ややりとりの分かるメモも作っていなかったという。
 川勝知事は2月の記者会見で、検証委の議事内容に関して「ありていに全ての事実を報告する。検証の過程を明らかにしたい」と述べていた。
 検証委は、市が措置命令を見送った県土採取等規制条例など一部の関係法令に重点化して最終報告をまとめたが、県が規制を見送った砂防ダム上流域の砂防法の問題は「手が回らなかった」として十分検証しなかった。
 検証委を所管する県経営管理部総務課は「事務局は解散したので(検討会の)内容を聞かれても答えようがない」としている。

 ■“裏会合”報告の正統性に疑問
 県の行政対応検証委員会は、27人が犠牲になった「人災」である大惨事の行政手続きを評価する重責を担っていた。その報告書の中身は訴訟や捜査、今後の行政対応に影響を与えかねず、会合を全て公開し、議事内容を検証可能にするのが筋と言える。
 しかし、検証委は会合を非公開とした。ならば、検証可能な議事録を取るべきだが、議事録を残さずに報告書について協議する、いわば“裏会合”の場を設けていた。重責を自覚しているように思えない。
 なぜ、一部の関係法令に検証を重点化し、崩落した盛り土と周辺の開発行為との関係にも踏み込まないのか。報告書の公表後、数々の疑念が浮上している。
 議事録をなぜ残さなかったのかという疑念も加わった。説明責任を果たさない検証委の対応を踏まえれば、規約にある「公正・中立な立場」は担保できていない。結論を導き出した過程を伏せた“裏会合”で作られた報告書に正統性はないのではないか。(社会部・大橋弘典)
〈2022.07.15 あなたの静岡新聞〉
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