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部活動の地域移行「文化部」も 課題は

 公立中学校の部活動の在り方を検討している文化庁の有識者会議は、文化系部活動の休日の指導を地域団体にゆだねるべきだとの提言をまとめました。少子化で学校ごとの運営が難しいことや教員の長時間労働の改善のため、運動部と足並みをそろえます。ただ、文化部特有の課題も。解決の糸口や静岡県内の先行事例をまとめました。
 〈キュレーター:編集局未来戦略チーム 石岡美来〉

公立中学の部活動指導 文化系も休日は地域で

 文化庁の有識者会議は9日、吹奏楽や合唱、演劇など公立中学の文化系部活動の指導を、2025年度末までに休日は地域団体へ委ねるべきだとの提言をまとめた。運動部改革と足並みをそろえる。文化庁は自治体による指導者確保や会費補助の後押しをするため、来年度予算の概算要求に関連経費を盛り込む。

 提言は、少子化で学校単位での運営が困難になることや、部活が教員の長時間労働の要因になっていると指摘。スポーツ庁の有識者会議が6月に公表した運動部の移行スケジュールと同じ23~25年度を「改革集中期間」に設定し、自治体に推進計画の策定を求めた。問題点を洗い出し、将来的に平日の部活も学校から切り離す検討を進める。
 委託先は地域の文化団体やカルチャースクール、芸術系大学を想定。自治体が音楽経験のある住人らと団体を設立することも選択肢に挙げた。
 音楽ホールや劇場といった文化施設が少なく、練習場所の確保が難しい地域が多い。重い楽器を持ち運ぶなど文化系特有の負担を軽減する必要もあるとして、外部指導者が学校の音楽室で指導したり、廃校施設を活用したりする対策を示した。
 企業などに委託する場合、家庭の会費負担が膨らむ恐れがある。困窮世帯の中学生も参加できるような公的補助の導入が必要だとした。
〈2022.8.10 あなたの静岡新聞〉

文化部特有の事情は 北山静岡大名誉教授に聞く

 有識者会議の座長を務めた北山敦康静岡大名誉教授(音楽教育学)に提言の意義や課題を聞いた。

北山敦康静岡大名誉教授
北山敦康静岡大名誉教授
 -「改革集中期間」をどう捉えるべきか。
 「休日の文化部活動を地域に委ねる上で必要な、人(指導者)と活動場所を確保するための具体的な施策を自治体が打ち出す期間。3年間で完結するという意味ではない。実績を基に26年度からさらに改革を進めることになる」
 -運動部にはない文化部特有の事情はあるか。
 「スポーツには総合型地域スポーツクラブのような受け皿があるが、文化活動にはそれに類するものが少ない。吹奏楽部をはじめとした文化部の場合、地域の産業が(地域移行に)関わることが期待される」
 -地域移行を考える上での課題は。
 「部活動を学校から切り離すとしても、その過程において当面は学校教員の存在が外せない。指導する教員の兼職・兼業を可能にする仕組みづくりが鍵だ」
 -指導者や活動場所にかかる費用をどう賄うか。
 「保護者から適切に徴収することになる。しかし、家庭の経済状況にかかわらず子どもたちが自由に文化芸術に親しむ機会を保障しなくてはいけない。国や自治体による財政支援が求められる。そうした仕組みがない自治体には、子どもを持つ若い夫婦が定着しにくい。自治体の繁栄のためにも必要な措置だ」
 -地域移行は歴史上、どういう意味を持つことになるか。
 「戦後最大の学校改革になる。学校が地域とともにどのように変わるかが問われている。保護者の中には不安もあるようだが、部活動を持続可能なものにするための改革であることを理解してほしい」
〈2022.8.10 あなたの静岡新聞〉

静岡県内の先行事例に学ぶ 学校超え連携も

 少子化による部活数の減少や教員の働き方改革を背景に、学校の部活動を地域で展開する「地域部活」。生徒は専門性の高い指導を受けることができ、教員は関連業務の負担が軽減される。両者にメリットを見込む一方、人材確保や育成などの課題も指摘される。

泳ぐ姿勢や練習のポイントについて指導員の助言を受ける部員ら=5月下旬、掛川市の西中
泳ぐ姿勢や練習のポイントについて指導員の助言を受ける部員ら=5月下旬、掛川市の西中
 文部科学省は2023年から、土日の部活について段階的に地域に移行する方針を打ち出している。これに先駆けて掛川市は本年度、文化庁やスポーツ庁から県教委を通じた調査委託として、「地域部活推進事業」を始めた。学校部活動の地域展開の手だてや仕組み、課題を研究する。
 運動部はNPO法人市体育協会の掛川水泳クラブに委託し、東中と西中に指導者を派遣。文化部はNPO法人掛川文化クラブに委託し、城東中の吹奏楽部と合同で活動するなどして連携のあり方を検討する。
 西中の水泳部が5月下旬に開いた体験会では、新入部員を含む生徒約40人が参加した。市水泳協会長の土屋正男さん(72)が指導し、泳ぐ姿勢や練習メニューの構成など泳力向上のために意識すべきことを理由を添えて伝えた。3年の花村実来主将は「手がぐっと前に進んだ感覚があった」と指導初日の手応えを語る。
 土屋さんは西中水泳部出身で、教員OB。東中も担当する。「この年になって中学生を教えられて幸せ。記録を伸ばす楽しさを伝え、挑む力を育てたい」と意気込む。
 城東中の吹奏楽部は6月から正式に活動を始める掛川文化クラブ(理事長・佐藤真澄掛川西高教員)と合同で活動する計画を立てている。市内の学校に呼び掛けて余剰の楽器を集めた。楽器ごとに奏法が違うことから、地元の大学生や市内の楽団員など多彩な奏者をそろえ、個別指導を可能にした。クラブは小学4年生以上を対象としていて、学校を超えた音楽活動の場作りを目指す。
 同市には九つの中学校にそれぞれ6~15の部活動がある。ただ、近年は少子化で部員数が減り、大会に出場できなかったり、廃部になったりしていた。教員も休日を含む勤務時間の長さや、経験していない部活を担当する事例が増えた。
 部活動は「人間形成の場」とされながらも、生徒数減少のリスクや教員の実態と合っていない現状が全国共通の課題とされている。事業を担当する市教委教育政策課の沢田佳史指導主事は「キーワードは『持続可能』。学校単位から地域単位に活動が広がることで、子どもたちはより専門的な指導を受けられ、選択肢も広がる」と話す。
 西中と東中の水泳部は10月以降を「地域移行期間」とし、土日の活動について顧問の教員が携わらなくともよい。未経験の教員は希望すれば専門的な助言を受けられるなどメリットも見込む。沢田さんは「部活にやりがいを感じ、打ち込んできた教員もいる。希望する教員が指導を続けられる態勢づくりも検討事項に位置付けている」と話す。
 市教委は①運営団体との連携②地域人材の確保③指導者への研修④費用負担のあり方整理⑤学校部活動との連携―を実践研究内容としている。県教委と数カ月おきに地域部活動研究委員会を開き、本年度末に事業報告書にまとめる。
(社会部・大須賀伸江)
地域再生大賞