知っとこ 旬な話題を深堀り、分かりやすく。静岡の今がよく見えてきます

動き出す「地域部活動」 静岡県内の先行例は

 公立中学校の運動部活動の在り方を検討しているスポーツ庁の有識者会議が、部活動の休日指導を民間団体や地域に委ねる地域移行の提言案を示しました。教員の働き方改革や少子化による部員の減少、活動の多様化への対応として注目される部活指導の地域移行。静岡県内の取り組みについてまとめました。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・村松響子〉

中学部活、3年間で地域移行 スポーツ庁有識者会議が提言案

 公立中学校の運動部活動の在り方を検討しているスポーツ庁の有識者会議は4月26日、休日の部活指導を地域や民間の団体に委ねる「地域移行」を2023~25年度の3年間で達成するとの目標を盛り込んだ提言案を提示した。この期間を改革集中期間と位置付け、自治体に具体的な取り組みやスケジュールを定めた推進計画の策定を要求。休日の地域移行がおおむね完了すれば、平日でも進めていくとした。

文科省で開かれた公立中学校の運動部活動の在り方を検討するスポーツ庁の有識者会議=26日午後
文科省で開かれた公立中学校の運動部活動の在り方を検討するスポーツ庁の有識者会議=26日午後
 有識者会議は5月中に提言を取りまとめる予定。公立中の部活動を巡っては、少子化の進展で存続が困難な学校がある他、教員の長時間労働の一因と指摘されている。文化庁の有識者会議も吹奏楽や合唱などの文化系部活動の地域移行について検討しており、7月に提言をまとめる見通し。
 提言案は、このまま少子化が進めば、どの中学校でも運動部活動は廃部や縮小に追い込まれ、学校単位で教員が指導する現状の形を維持するのは極めて困難と指摘。中学生のスポーツ機会を確保するため、まずは休日の部活指導から段階的に地域移行することが重要で、山間部や離島を除き25年度までに達成することを目指すとした。
 地域移行は、単に部活の実施主体を学校から地域・民間に移すのではないと強調。総合型地域スポーツクラブや民間事業者、プロスポーツチームや大学など、地域の実情に応じた多様な実施主体による、新たな地域スポーツ環境構築の必要性を訴えた。
 また、地域移行で部活動の部費よりも高い会費になることが想定されるとして、学校や公共施設を低額で使えるようにする他、経済的に困窮する家庭への国や自治体の支援を求めた。地域での指導を望む公立中の教員は、兼職兼業の許可を得れば従事可能にすることが考えられるとした。
 〈2022.04.26 静岡新聞朝刊から〉

中学部活の地域移行 改革議論待ったなし【静岡新聞 社説】

 中学校の部活動は、少子化で現状維持が困難になりつつある。働き方改革が求められる教員の長時間勤務の大きな要因ともなっている。生徒の心身の発達に一定の役割を果たしてきたことに異論はないが、学校教育における部活動は過渡期にある。改革は待ったなしだ。

 公立中学校の運動部活動の在り方を検討しているスポーツ庁の有識者会議が、部活動の休日指導を民間団体や地域に委ねる地域移行の提言案を示した。山間部や離島を除き、2023年度から3年間の「改革集中期間」で達成する目標を盛り込んだ。自治体に具体的なスケジュールや取り組みなどの推進計画策定を求める。
 地域移行の受け皿として、総合型地域スポーツクラブや人材バンク、プロチーム、大学など多様な形が示された。ただ、過疎地域などでは、外部指導者や利用施設の確保が難しいことが想定される。中学生のスポーツ機会に格差が生じないよう、自治体は地域に応じた環境を整備する必要がある。
 民間に委ねることで指導料や外部施設の利用料などが必要になる。家庭に新たな負担が発生する可能性がある。経済的な理由で参加をためらう生徒が出ることは避けなければならない。保護者への理解を求めるとともに、国や自治体の財政的な支援が欠かせない。
 生徒や保護者は、平日の部活動を指導する顧問の教員と休日の指導者が変わることに不安もあろう。民間の外部指導者には、技術のみならず、生徒や保護者から信頼を得られる資質が求められる。顧問教員や学校と情報の共有、指導者研修制度が不可欠だ。
 休日指導の地域移行は、教員の負担軽減が大きな狙い。ただ、部活動に対して情熱を持ち、休日も指導したいと考える教員もいるだろう。自治体には兼業、兼職規定の整備を急いでほしい。
 スポーツ庁は昨年度、休日指導の地域移行の実践研究として、全国の拠点校で先行実施した。静岡県では静岡市と浜松市、県から委託された掛川市の中学で行われた。掛川市では二つの中学の水泳部が昨年10月から4カ月間、週2回を地域スポーツクラブに委託した。指導者の確保、活動費用の負担など課題も残ったが、生徒には複数校から参加する人間関係の広がりやモチベーションの向上など成果もあった。先行事例を参考にしたい。
 提言案は、可能な地域は並行して平日でも移行を進めていくとした。吹奏楽など文化系部活動についても、文化庁の有識者会議が検討している。私立校や高校も、学校の実情に応じた対応を求めたい。
 〈2022.05.05 あなたの静岡新聞 社説〉

掛川市 吹奏楽、合唱など文化系で盛り上がり

 学校の枠を超えて子どもたちが一緒に取り組む「地域部活動」が静岡県内各地で広がる中、掛川市内で文化系の地域部活動が盛り上がりをみせている。2021年は音楽分野の活動を推進するNPO法人「掛川文化クラブ」が発足し、表現や制作など多様なジャンルを融合した「パレット」は創部4年目を迎えた。関係者らは「子どもたちが身近な地域で、質の高い芸術活動に取り組むことができる」と意義を語る。

児童生徒や楽団員が合同で練習した吹奏楽交流会=11月下旬、掛川市生涯学習センター
児童生徒や楽団員が合同で練習した吹奏楽交流会=11月下旬、掛川市生涯学習センター
 掛川文化クラブでは現在、小中学生約25人が吹奏楽、合唱、弦楽を練習している。指導に当たるのは主に地元の楽団や大学生ら。市教委と連携して地元中学校の吹奏楽部を交えた合同練習も行い、11月末には市生涯学習センターで約100人が参加する交流会を開いた。市立桜が丘中の中村寧音さん(14)は「丁寧な指導でわかりやすかった」とパートごとの練習に手応えを感じていた。
 パレットには中学生ら43人が在籍し、演劇やダンスに加えて舞台技術やプログラミングなど多彩なジャンルに挑戦する。秋に市内で開かれた地域芸術祭「かけがわ茶エンナーレ2020+1」では開会式の企画・演出を担った。
 教員の働き方改革や少子化による部員の減少、活動の多様化への対応として注目される地域部活動。ただ、活動を維持するための経費や人材確保などの面で課題は多いという。
 掛川文化クラブは初心者でも参加しやすいように楽器を貸し出しているが、数が不足。地元からの寄付による対応を模索する。パレットは芸術分野のプロが創部時の講師を務めたが、現在は自主性を尊重して子どもたちを中心に活動し、活動費を抑えている。
 掛川文化クラブの佐藤真澄理事長(64)=掛川西高教諭=は「学校や世代を超えて音楽を楽しむ空間を作りたい。部活動の受け皿になることができるよう活動機会を広げることができれば」と意欲的だ。
 〈2022.01.04 あなたの静岡新聞〉

焼津市は段階移行始動 相撲、柔道など5種目で運営団体

 焼津市は2022年度から段階的に、休日の中学校部活動を地域に移行する。初年度は相撲、柔道、剣道、ニュースポーツ、海洋の5種目で運営団体を設置。市内全域から希望生徒を集め、地域の専門家らの指導を受け、競技の魅力に触れる。24年度までに、野球やサッカー、吹奏楽など計15種目を移行し、休日の部活動を担っていく。

焼津市役所
焼津市役所
 休日の部活動を巡っては、文部科学省が23年度から段階的に地域に移行する方針を提示した。これを受けて、市は21年度に部活動のあり方について議論を重ねた。22年度から段階的に、教職員や競技団体の幹部らを中心に地域部活動の運営団体を設立する。初年度の5団体は3月から募集を始める計画。
 「海洋部」は焼津水産高のフィッシング、カヌーなどの部活動に所属する生徒と連携しながら活動を展開し、海の楽しさに触れながら地域を学ぶ。「ニュースポーツ部」はモルックやボッチャといった世代をまたいで楽しめる競技を体験する。柔道や剣道、相撲は現在地域で活動している専門家や団体を中心に、市内全域で希望者を集めていく。
 平日の学校部活動は従来通り残る。ただ、少子化の影響で、希望競技の部活動がなかったり、選手が少なく他校との合同チームとなったりして、学校部活動団体の維持が難しい状況にある。
 市教委学校教育課の奥川慶一指導主事は「子どもたちにスポーツに親しむ機会を残すと同時に、さまざまな選択肢を用意したい」と狙いを語る。
 〈2022.01.15 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞