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新型コロナ飲み薬足りる? 運用の現状は

 新型コロナウイルス感染症の国内初の飲み薬が静岡県内でも運用が始まりました。オミクロン株にも有効とされ、ワクチン接種とともに重症化を防ぐことが期待されます。ただ、供給量が不十分のため、医療現場や高齢者施設での感染者急増に対応しきれていないのが現状です。静岡県内の状況をまとめました。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・吉田直人〉

飲み薬間に合うの? 迅速供給が課題

 頻発する高齢者施設の新型コロナウイルスクラスター(感染者集団)対策として、静岡県は感染した入所者に飲み薬「モルヌピラビル」を速やかに投与する新方針を打ち出した。早期対応で症状悪化を防ぎ、入院回避につなげる狙い。ただ、同薬は配分が認められた医療機関や薬局、施設でも取り扱いに制約があり、現行の枠組みでは感染者の急増に供給が追い付かないとの懸念が強い。関係者は政府に運用上の改善を訴える。

高齢者施設でクラスターが起きた際の飲み薬の流れ
高齢者施設でクラスターが起きた際の飲み薬の流れ
 「絵に描いた餅だ」
 静岡県内にある複数の特別養護老人ホームの幹部は、飲み薬活用の現況について口をそろえる。施設でクラスターが発生した場合、嘱託医に処方箋を出してもらうことになるが、登録薬局1カ所当たりに認められたモルヌピラビルの在庫数は3人分で、必要数を効率的に確保することは難しい。
 国は拠点薬局に10人分配置する通知を16日付で出した。ただ、拠点薬局は県内で30施設程度にとどまり、「焼け石に水」(医療関係者)。モルヌピラビルは薬局間で融通し合うことも認められていない。現状で必要数を調達するには国から供給委託を受けた登録センターに追加発注するくらいしかないという。
 オミクロン株は感染力が強く、薬の到着までに感染が広がってしまう。実際、県内のある特養では患者発生から納品までの3日間に感染者が28人まで増えたケースがあった。
 医師が常駐する介護老人保健施設も似た状況で、県老人保健施設協会の小出幸夫会長は「スピード感が大切なのに、それがない」と強調する。福祉関係者の一人は「拠点薬局にもっと配分するなど、『選択と集中』の度合いを高めるべき」と注文する。
 モルヌピラビルは現時点で国内に流通する主流の飲み薬。米メルク社から3月までに国内に納入されるのは80万人分で、安定供給の難しさが厳重な管理の背景にあるとされる。
 高齢者の感染は死亡や病床使用率の上昇につながり、抑制は喫緊の課題。県感染症対策局の青山秀徳局長は「飲み薬の供給は国が直接的に行える数少ない感染対策であり、現場の状況は国に伝えている。早急に改善してもらいたい」と話した。

 <メモ>米メルク社のモルヌピラビル(商品名ラゲブリオ)は昨年末、特例承認され、国内で使用できるようになった。発症から5日以内に投与することなどが条件。米ファイザー社の「パキロビッド」も2月10日に特例承認され、現在は全国2千の医療機関に限定して提供されている。塩野義製薬は国内初の飲み薬を目指し、開発薬を25日に承認申請した。
〈2022.03.01 あなたの静岡新聞〉

記者が解説 高齢者施設の負の連鎖、解消へ一手を

「集団感染はいつ起きてもおかしくない」

 静岡県内で高齢者施設に関わる人たちの共通認識だ。体を密着させて行う介護は感染リスクが高く、ひとたびウイルスが施設に入り込むと封じ込めは難しい。感染しても基礎疾患を悪化させないことが肝要で、飲み薬の効果的な投与はワクチンの追加接種と並び、対策の鍵を握る。
 県内で1月8日から2月24日までに発生した高齢者施設のクラスターは76件で、学校・保育施設の94件に次いで多い。介護従事者が家庭内で感染し、職場に広がる流れが目立つ。
 現状では感染をきっかけに亡くなる入所者が増えている。福祉関係者は「集団感染の初期に陽性が分かった介護従事者は『自分が原因になったかもしれない』という意識に駆られ、離職を考えるほど心的負担を抱える」と話す。
 オミクロン株はそれ自体が持つ毒性以上の影響を社会に与えている。政府は負の連鎖を断つ一手を速やかに講じるべきだ。
〈2022.03.01 あなたの静岡新聞〉

飲み薬「モルヌピラビル」 県内は1月から取り扱い開始 登録薬局に限定

 新型コロナウイルス感染症の国内初の飲み薬「モルヌピラビル(商品名ラゲブリオ)」の取り扱いが、静岡県内でも本格的に始まった。軽症から中等症の患者が使えるカプセル剤。重症化を防ぎ、爆発的に感染が拡大しているオミクロン株にも効果があるとみられている。

県内でも取り扱いが始まった新型コロナウイルス感染症の飲み薬=21日午後6時半、浜松市中区
県内でも取り扱いが始まった新型コロナウイルス感染症の飲み薬=21日午後6時半、浜松市中区
 米製薬大手のメルクが開発した。昨年末に特例承認されたが、供給量がまだ不十分のため、国が登録した薬局などに限定して配分している。県内では21日時点で、薬局651カ所が登録した。このうち、在庫があるのは396カ所前後。県薬剤師会の品川彰彦常務理事は「在庫のある薬局が増えれば、より速やかに薬を届けられるようになる」と期待する。
 投与対象は重症化の恐れがある18歳以上の感染者。医療機関を受診して「投与が必要」と医師に判断されれば、薬局の薬剤師が電話やオンラインで薬について説明し、5日分(40錠)を配送する。県内でも既に患者への処方が始まっているという。全額公費負担とし、無料で提供する。
 処方箋を出す県内の医療機関は17日時点で331カ所。入院患者のいる病院や、へき地の医療機関は院内処方を行っている。
〈2022.01.22 あなたの静岡新聞〉

 

国産飲み薬は? 塩野義が承認申請 軽症者向け

 塩野義製薬は25日(※2月)、開発を進めていた新型コロナウイルスの飲むタイプの治療薬に関して、厚生労働省に承認申請したと発表した。国内の製薬企業が開発した軽症者向けの飲み薬は初めてで、重症化リスクの有無を問わずに投与が可能。重症化の防止や、医療機関の負担軽減につながるか注目される。

塩野義製薬が開発中の新型コロナの飲み薬(同社提供)
塩野義製薬が開発中の新型コロナの飲み薬(同社提供)
 塩野義は迅速な審査が可能な「条件付き早期承認制度」の適用を希望。政府は既存のあらゆる制度を活用して早急に審査するとしている。
 これまでの新型コロナ治療薬やワクチンの審査で使われた特例承認制度は、海外で承認されていることが前提のため対象外となる。
〈2022.02.25 あなたの静岡新聞〉
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