多様性に富む遠州織物 未来へつなぐ取り組みは
静岡県西部で作られる「遠州織物」。遠州地域で織られた生地の総称で、決まった形があるわけではありませんが、だからこそ、多様性に富んでいます。最近は、生地作りの過程で生まれる切れ端の利用、発信拠点の設置など新しい動きも見られます。遠州織物の魅力に迫ります。
〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・石岡美来〉
手芸に彩り 繊維くず「布みみ」だって使えます
企業や自治体でSDGs(持続可能な開発目標)の実践が広がりを見せる中、遠州織物工業協同組合などが、生地を織る過程で生じる繊維くず「布みみ(捨てみみ)」の活用に乗りだした。今年、手芸用の材料として販売を開始。県内外の作家によって布みみを生かした商品が生まれたほか、遠州織物の認知度向上にも一役買っている。
「糸自体は高品質。捨ててしまうのはもったいない」。関係者のこうした声を受け、同組合や遠州産地の機屋などが今年、「遠州織物SDGs LABO」を発足した。会員企業が排出した布みみを回収し、浜松市中区の組合事務所とオンラインで売り始めた。
オンライン販売を担うのは、手作り作品のECサイトを運営する「クリーマ」(東京都)。「サステナブルなハンドメード材料」と紹介し、「毛糸とは違うかわいさ」「さすがの品質」などと人気を集めた。同社はものづくりを通じた地方創生企画の一環として、布みみを使った作品も募集した。71点が寄せられ、ピアスやブローチ、バッグなど25点の商品化に結び付いた。
遠州織物と布みみを使ったバッグを製作した編み物作家のmei mei(めいめい)さん(御殿場市)は「布みみの存在を初めて知った。使ってみると楽しい素材だし、SDGsに貢献できたこともうれしい」と振り返る。アクセサリー作家の柴田倫子さん(静岡市駿河区)が作った富士山がモチーフのイヤリングは海外からの反響も。「ご当地アクセサリーという感覚。県西部が織物で有名なことを作品を通じて知ってくれた人もいた」と話した。
同組合の加藤満さん(28)は「作家の皆さんのアイデアで布みみの使い道が広がった。産地として持続可能な取り組みを続けたい」と声に力を込める。
〈2021.12.21 あなたの静岡新聞〉
洋服も着物も、シートベルトも 多様性が特徴
岡山ならデニム、今治はタオル-。全国各地の綿織物産地には代表的な素材がある一方、遠州は多様性に富むのが特徴だ。遠州織物は静岡県西部で作られた織物全般を指し、決まった織り方や生地はない。県繊維協会の浅山肇専務理事(65)は「シャツやコートなどの洋服生地に限らず、着物やゆかた、さらにはシートベルトなどの細い生地もある。他産地では織れない生地も、遠州に来れば作れると言われる」と胸を張る。
〈2022.1.23 あなたの静岡新聞〉※「遠州育ちモデル×遠州織物 まとう故郷の技 當間ローズさん/イシヅカユウさん」より抜粋
浜松市中区に発信拠点「エントランス」
浜松市中区大工町に27日(※2021年6月)、遠州織物の発信拠点「entrance(エントランス)」がオープンした。繊維業関係者が生地や作品の販売などを行い、市民に遠州織物の魅力をアピールする。
27日はオープンを記念し、遠州地域の若手繊維業者でつくる「ひよこのかい」が生地などを販売した。シャツ地など春夏用の生地のほか、ストールや手ぬぐいを並べ、多くの来場者でにぎわった。
同会は毎月、販売会などのイベントを開く予定。会長で古橋織布社員の浜田美希さん(30)は「遠州にはすてきな織物がたくさんある。気軽に触れるきっかけの場となってほしい」と話した。
県繊維協会の会員は打ち合わせや作品販売の場として活用できる。使用希望者は同協会<電053(456)7222>へ。
〈2021.6.28 あなたの静岡新聞〉
未来へつなげ 浜松の若手業者団体 鈴木市長と意見交換
浜松市は5日、市民の市政参加機会を創出し、市民の声が反映される市政の推進を目指す「浜松まちづくりミーティング」を同市中区の起業支援施設「FUSE(フューズ)」で開いた。鈴木康友市長と遠州地域の織物や染色などの若手繊維業者でつくる団体「ひよこのかい」が意見交換した。
鈴木市長は「若手のみなさんの情熱が伝わった。海外も視野に、多様なPR方法を考えたい」と話した。
〈2022.2.6 あなたの静岡新聞〉