東名あおり運転死傷事故 差し戻し審始まる
2017年10月に静岡市清水区の一家が神奈川県の東名高速道路であおり運転を受け、死傷した事故の差し戻し審が横浜地裁で始まりました。あおり運転をした被告は「危険な運転はしていない」と無罪を主張しています。一審、二審では被告の危険運転を認定しましたが、再び地裁に審理が差し戻しとなりました。差し戻し審に至る経緯と審理の最新状況をまとめました。
〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・吉田直人〉
「ワゴン車が最初に減速」 弁護側、危険運転を否定 差し戻し審初公判
神奈川県大井町の東名高速道路で2017年、あおり運転を受けたワゴン車の一家4人が死傷した事故で、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)罪などに問われた無職の男(30)の差し戻し裁判員裁判の初公判は27日午後も横浜地裁(青沼潔裁判長)で続いた。弁護側は冒頭陳述で「最初に減速したのはワゴン車で、停止を余儀なくさせていない」と主張した。
![東名高速道路あおり運転事故の差し戻し裁判員裁判の初公判が開かれた横浜地裁=27日午前](/news/images/n102/1018737/PN2022012701000542.-.-.CI0003.jpg)
さらにワゴン車に追突したトラック運転手の通行帯違反やスピード違反が事故を招いており、被告の運転との因果関係はないとした。
地裁は今後の期日を公表。2月14日に被告人質問を実施し、同18日に論告求刑公判を行い結審。判決は3月16日に言い渡される予定。
■被害者制度で遺族が審理参加
横浜地裁で27日に始まった無職の男(30)の差し戻し裁判員裁判。事故で死亡した静岡市清水区の男性=当時(45)=と男性の妻=同(39)=の遺族が被害者参加制度を使って出廷し、審理を見つめた。
男性の母親(81)は数日前に自宅で転倒し、腰を痛めた。初公判前日には「こんな体では行けない。被告の顔も見たくない」と口にしていたが、つえを突きながら開廷10分ほど前に法廷へ入った。男性の兄2人が同伴した。
開廷すると、罪状認否で「人が亡くなったり、けがをしたりするようなことはしていない」と述べた被告から目を離さなかった。
一、二審、差し戻し審と裁判は長期化している。母親に付き添った代理人弁護士は取材に対し「(高齢の母親のためにも)裁判を早く終わらせてあげたい」と話した。
男性の妻の父親も制度を使って参加した。
〈2022.01.28 あなたの静岡新聞〉
量刑変更の可能性も 審理一からやり直し
神奈川県大井町の東名高速道路で2017年、あおり運転を受けて本線上で停車させられ、後続車に追突されて静岡市清水区の一家4人が死傷した事故を巡り、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)の罪などに問われた無職の男(30)の差し戻し裁判員裁判が27日、横浜地裁で始まる。改めて審理が一からやり直され、懲役18年を言い渡した差し戻し前の地裁判決と量刑判断が変わることもあり得る。
![事故で亡くなった息子夫婦の写真を手に差し戻し審への思いを語る母親=13日、静岡市清水区](/news/images/n102/1018737/IP220114TAN000113000_O.jpg)
事故は17年6月5日の夜に発生した。直前のパーキングエリアで男性から駐車方法を注意された被告が腹を立て、男性一家のワゴン車にあおり運転を繰り返した。追い越し車線上に止めさせられたワゴン車に後続の大型トラックが追突し、男性と妻=同(39)=が死亡。同乗していた娘2人が負傷した。
18年の横浜地裁判決は、あおり運転と死亡の因果関係を認め、危険運転致死傷罪が成立するとした。19年の二審東京高裁判決も同罪の成立を認めた一方、地裁が公判前整理手続きで「危険運転致死傷罪は成立しない」との見解を表明したのに、最終的に変更したのは「被告への不意打ち。防御の機会を失わせ、判決に影響を及ぼす違法な手続き」として一審判決を破棄し、審理を地裁に差し戻した。
母親は、今も息子夫婦が亡くなった実感が全くないという。「何で生きて帰ってくれないっけかなぁ」との思いが募る。一審、二審と法廷に通った。被告は事故直前のパーキングエリアで、駐車場に空きがあるのに路上に車を止めていた。「何であんなところに止めていたのか。あそこにさえ止まっていなければ…と思う。反省しているように見えなかった」。悔しさが消えることはない。
関係者によると、妻の父親も法廷に足を運ぶ予定という。
事故をきっかけに、あおり運転は社会問題化した。厳罰化を盛り込んだ改正道交法が20年6月に施行された。
〈2022.01.18 あなたの静岡新聞〉
どうして差し戻し? 控訴審で一審の「違反行為」認める
神奈川県大井町の東名高速道路で2017年、あおり運転を受けた静岡市清水区の夫婦が死亡した事故で自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)罪などに問われた無職の男(27)の控訴審で、一審横浜地裁判決を破棄し、地裁に審理を差し戻した(2019年12月)6日の東京高裁判決は、一審判決同様に危険運転致死傷罪の適用を認め、あおり運転を「高度の危険性を内包する行為」と指弾した。その上で、一審の訴訟手続きに「裁判員法に違反する明らかな越権行為があった」と破棄・差し戻しの理由を述べた。
高裁の朝山芳史裁判長は、一審横浜地裁が公判前整理手続きで、危険運転致死傷罪は成立しないとの見解を示していたのに、判決で成立を認めたことについて「被告や弁護側に対する不意打ち」と違法性を指摘して批判。「改めて裁判員裁判で審理や評議を尽くすのが相当」と判断した。
一方、停車行為は危険運転の要件に当たらないとした上で「夫婦の車が停止したのは、被告の停車行為が直接の契機だった」と説明した。その後、被告の暴行によって停車状態が続き実際に事故が起きたとして、死亡とあおり運転との因果関係を認めた一審の判断に誤りはないとした。
〈2019.12.07 静岡新聞朝刊〉