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進む制服刷新 多様性尊重、快適に…

 機能性向上や性の多様性尊重の面から、静岡県内の学校で制服の刷新が広がっています。生徒自身が議論を重ね、デザインを選ぶ学校も。新制服の導入は学生生活を過ごしやすくするだけでなく、生徒の主体性を育む効果もあるそうです。県内の現状をまとめました。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・石岡美来〉

新制服デザインに一票 静岡東高、校内投票を実施

 静岡東高(静岡市葵区)はこのほど、2023年度に刷新する制服の内覧会を同校で開き、デザインを決める校内投票を実施した。

新制服デザインの機能性などを確認する生徒ら=静岡市葵区の静岡東高
新制服デザインの機能性などを確認する生徒ら=静岡市葵区の静岡東高
 参加したのは生徒会役員と校風委員会の計50人。新制服候補となる4種類に触れ、素材や機能性を確認し、一票を投じた。「身体上の性別を問わず、どの組み合わせを選んでも違和感を生じないか」など、ジェンダーの視点を交え、生徒同士で意見交換する時間も設けた。今後、生徒の意見や投票結果を踏まえて最終決定する。
 2年の良知鈴大風紀委員長(17)は「時代に沿って制服を変更することは素晴らしい取り組み。制服は学校の魅力を発信する一手段だと思うので、明るい印象を持つ制服に投票する」と話した。
 同高ホームページでは14日まで、市民の投票も受け付けている。
〈2022.1.11 あなたの静岡新聞〉

「第三のデザイン」追加の動きも 機能的メリット、多様性への配慮

 静岡県内の公立高校で、男子用スラックス、女子用スカート、という2種類の制服に女子用スラックスなど「第三のデザイン」を追加する動きが広がっている。暑さ対策や防寒といった機能的なメリットに加え、学校側は「多様性の象徴」と教育的な意義も掲げる。

2種類の制服に男子用クロップドパンツと女子用スラックスを追加した藤枝西高。新しいスタイルは生徒たちに好評だった=9月下旬
2種類の制服に男子用クロップドパンツと女子用スラックスを追加した藤枝西高。新しいスタイルは生徒たちに好評だった=9月下旬
 「冬暖かく、スカートのようなめくれもない。私服はズボンが多いため心地よい」。スラックスをはく藤枝西高2年の女子生徒(17)は新しい制服を歓迎する。同校は今年、女子用にスラックスを、男子には7分丈のクロップドパンツを加えた。購入した1年の男子生徒(16)は「夏涼しかった。膝回りの引っかかりがなく自転車をこぎやすい」と高評価する。
 県教委によると、この数年間で県内で5校以上が検討や追加をした。女子用スラックスが主流で、富士宮東高は防寒を目的に、函南町の田方農業高はアンケートで女子生徒の半数近くがスカートとの選択制を希望したため、実現させる。
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スラックスとネクタイの冬服を着用する女子生徒=浜松市中区の浜松学芸高

 「男子が夏、校外に出るとズボンをまくり上げてしまう」(藤枝西)、「女子がスカート姿で農作業をする時間がある」(田方農業)などの課題を「現状に合う服装で解決したい」との動機が多く聞かれたほか、LGBTなどの性的少数者や宗教への配慮の声も。田方農業高の安田能章生徒指導主事は「多様性を受け入れる学校の姿勢を制服で発信したい」と意気込む。
 きっかけは校則の見直し。藤枝西高の鬼束浩子生徒指導主事は「数年前まで実現する雰囲気はなかった」と話す。2017年、数十年前の理不尽な規則が放置された“ブラック校則”が全国的に取り上げられ、県教委が各校に対応を求めた。同校ではイエローカードを渡す指導の廃止を模索していたこともあり、鬼束教諭は「校則を見直す中で制服に着目した」と振り返る。

 ■私学でも導入 差別化図る
 私学でも他校と差別化を図るため、選択式の制服を導入する学校が出始めた。浜松市中区の浜松学芸中・高は4月から、女子は夏服、冬服ともスラックスを購入可能にした。女子の冬服はリボンを着けるが、スラックスはネクタイを合わせる。
 同校によると女子生徒の中には私服でもスカートをはかなかったり、冬は寒いといった理由でスラックスを望む声があり、選択制を導入した。心と体の性別が一致しないトランスジェンダーらへの対応も視野に入れているが、理由は問わない。
 高校2年の女子生徒(17)は「制服で男女どちらかに分けて見られたくない」としてスラックスを購入した。同2年の別の女子生徒(17)はスカートの寒さを理由に購入。「制服を選べると言われても周囲を気にして選べない子もいる。『選んで大丈夫』ということを後輩に示したかった」と話す。2人とも、友達からは「かっこいいねと言われる」という。
​〈2021.10.15 あなたの静岡新聞〉

「誇れる学校に」 発案から投票まで生徒主体で制服選定 掛川東高

 掛川東高(掛川市)が生徒主体で新たな制服の選定に取り組んでいる。ジェンダーレス、多様性の尊重、伝統、自治-。さまざまな視点で議論を重ね、8月(※2021年)までに在校生を中心に学校関係者が新しい制服を選ぶ投票を行った。投票結果を参考に今月中にも新デザインが決まる。未来の生徒を思い在校生が進めてきた活動がまもなく実を結ぶ。

新しい制服の候補を見て投票先を選ぶ、一日体験入学に参加した中学生=8月上旬、掛川市の掛川東高
新しい制服の候補を見て投票先を選ぶ、一日体験入学に参加した中学生=8月上旬、掛川市の掛川東高
 きっかけは昨年(※2020年)11月に同校で開かれたジェンダーに関する講演会だった。生徒が制服のジェンダーレスについて考える契機になった。意識の高まりを背景に生徒会がことし1月に校内アンケートを実施すると、全校生徒の7割が「新しい制服を検討したい」と回答した。職員からも、多様性の尊重や防犯・防寒の観点で女子用スラックスが必要との意見が届くなど、学校を挙げた議論がスタートした。
 近年、公立高校では制服を再検討する動きが広がっている。県教委が7月に公立高88校を対象に行った調査によると、すでに18校が女子用のスラックスを導入済み。既存の制服にスラックスを追加する学校が多いという。
 掛川東高は1997年の共学化以来、制服のデザインがほとんど変わらなかった。生徒の中にはデザインや機能性に対して意見や改善の要望が潜在的にあったようだ。
 制服業者には男女差のないデザインなど要望を伝えた。4業者から七つの案の提示を受けた。試作品は校内に展示した。在校生に加え教員、保護者、同窓会役員、さらに一日体験入学に参加した中学生の計約1200人が、それぞれの立場から投票した。
 制服は学校の魅力を発信する一つの手段でもある。生徒会長の片桐菜花さん(18)は「何年後かに『制服がすてきな学校だね』と言われたら、卒業生として誇らしい」と話す。「生徒が行動に移し、変えられる学校。新入生には自分の意思を持って、学校をより良くしてほしい」。母校の未来に期待を込めた。
〈2021.9.17 あなたの静岡新聞〉

「制服は主体性育む教材」 静岡大・加藤特任教授インタビュー

 加藤靖・静岡大特任教授インタビュー
 青島中校長に2018年4月に就任後、制服改革に着手した加藤靖・静岡大教職センター特任教授(61)に、経緯と課題を聞いた。
 -なぜ改革を行ったのか。
 「生徒が自ら判断して行動する力が育っていないことに危機感を抱いたからだ。制服は主体性を育むための最適な教材になると考えた。女子から『夏服が暑くてたまらない』、トランスジェンダーの子から『男女別の制服を着るのが苦痛』と、生徒の意見を直接耳にしたことも後押しした」
 -同校に関わる住民の反応は。
 「改革を前にまず、歴代のPTA会長や同窓会長、現職の自治会長や市議ら80人に意図を説明した。制服が原因で、モヤモヤした気持ちのまま学校生活を送ってほしくない。好きなことにまい進する3年間であってほしい。それがわれわれに共通する願いだった。全員が賛同してくれた」
 -県内の制服の現状は。
 「公立中のほとんどの制服はセーラー服と詰め襟。高校は中学校よりもブレザーの割合が高い傾向がある。その中で一部、女子のスラックス着用を認めたり、青島中のように男女の区別がない制服を採用したりする学校が出てきた。性別への違和感から制服に抵抗がある生徒にとっては、男女同じか、制服をなくすかのどちらかでなければ、解決策にならないと思う。トランスジェンダーの子が周囲に悟られることを心配して望み通りの制服を着られなかったとしても、同じクラスの生徒が思い思いの格好をしている環境があれば、不安は軽減されるのではないか」
 -課題は。
 「子供が自分らしさを発揮して主体的に物事を選択できるようにするためには、周りの大人の理解が不可欠。しかし地域の住民や保護者の中にはまだ、女子のスラックス姿に眉をひそめる人がいるのも事実。一人一人の選択や多様性を尊重することが子供たちの生きやすさにつながり、能力を伸ばすことにつながる。青島中では全教職員に繰り返し伝えてきたが、改めて全ての大人に伝えたい」
〈2021.6.23 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞