小6で被災、振り袖は津波に… 10年越しの晴れ着、夢かなう 静岡福祉大を卒業、及川萌さん(宮城県気仙沼市出身)

 焼津市の静岡福祉大で12日、卒業式が開かれ、宮城県気仙沼市出身で小学6年生の時に東日本大震災で被災した福祉心理学科4年及川萌さん(22)=焼津市=が卒業生代表の答辞を読んだ。小学校の卒業式で着る予定だった振り袖が津波で流された及川さん。この日つじが花をあしらった濃紺の振り袖で臨み、10年越しの夢をかなえた。「私にとって震災は失ったものばかりではなかった」と10年の歩みをかみしめた。

卒業式に振り袖を着て参加する及川萌さん(中央)。10年越しの夢をかなえた=12日午後、焼津市の静岡福祉大
卒業式に振り袖を着て参加する及川萌さん(中央)。10年越しの夢をかなえた=12日午後、焼津市の静岡福祉大

 10年前の3月、気仙沼市立松岩小の卒業式を翌週に控えていた時に震災が起きた。自宅は無事だったが、同市の母親の実家が津波で全壊。保管していた振り袖も海へと消えた。及川さんは被災の混乱の中、2週間ほど延期されて開かれた卒業式に普段着で参加した。
 地元の高校を卒業後、福祉の道を志した及川さんは、兄が磐田市にいる縁で静岡福祉大に進学した。答辞で4年間の学業や学友との思い出を振り返り、「震災で失ったもの以上に多くの出会いがあった。学んだ知識は未来を切り開く力になり、仲間と過ごした時間は私たちをいつまでも励まし続ける」と感謝した。
 この日の振り袖は、母親が4年前に浜松市の呉服店で購入してくれたもの。家族は大学によるオンライン配信を通じ、気仙沼市から晴れ姿を見守った。及川さんは4月から社会福祉士として古里の介護老人保健施設に就職予定。(焼津支局・尾原崇也)

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