新粒子発見の“眼”に 浜松ホトニクス、光半導体8万個納入

 浜松ホトニクスは2021年、万物に重さを与える「ヒッグス粒子」を発見した大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の性能強化に向けた新製品の供給支援を加速する。欧州合同原子核研究所(CERN=セルン)と契約を結んだ2種類の光半導体素子計8万個の納入を1月に始める。実験装置の中核を担う検出器の耐久性強化や高精度化につなげ、宇宙の謎の解明に近づく世界規模の研究に貢献する。

新粒子を探すCERNの実験の仕組み
新粒子を探すCERNの実験の仕組み
浜松ホトニクスの光半導体素子を搭載した世界最大の加速器LHCの検出器アトラス=スイス・ジュネーブ郊外、2017年(CERN提供)
浜松ホトニクスの光半導体素子を搭載した世界最大の加速器LHCの検出器アトラス=スイス・ジュネーブ郊外、2017年(CERN提供)
浜松ホトニクスが納入を開始するHL-LHC用の光半導体素子「SSD」(同社提供)
浜松ホトニクスが納入を開始するHL-LHC用の光半導体素子「SSD」(同社提供)
新粒子を探すCERNの実験の仕組み
浜松ホトニクスの光半導体素子を搭載した世界最大の加速器LHCの検出器アトラス=スイス・ジュネーブ郊外、2017年(CERN提供)
浜松ホトニクスが納入を開始するHL-LHC用の光半導体素子「SSD」(同社提供)

 LHCは、互いに逆方向に進む陽子と陽子をほぼ光速まで加速して衝突させ、高いエネルギー状態を再現して宇宙誕生のビッグバンに等しい状況をつくりだせる世界最大の加速器。放射線耐性などを5~10倍に強化するHL(高輝度)-LHCは27年に稼働予定で、陽子と陽子の衝突頻度を上げてデータ収集量を1桁増やし、未知の新粒子の探索感度を大幅に高める。ヒッグス粒子も従来より高精度で測定し、新たな物理現象の発見を目指す。
 浜ホトが今回提供する光半導体は、粒子が飛ぶ跡を大面積で高精度に捉えるセンサーの次世代「SSD」と新開発の「PAD Detector」。ヒッグス粒子の発見時と比べ、より強い放射線損傷に耐え得る性能を備えた。前回と同様、「神の粒子」を探す巨大加速器内のコアデバイスとして“眼”の役割を果たす。浜松市東区の市野本社工場などで開発し、24年末までに完納する計画。
 検出器内部の刷新に伴うモジュール作りは21年に始まる予定で、量産態勢構築へ世界約10カ所の研究施設で組み立て手法と検査システムの確立が急ピッチで進んでいるという。
 浜ホトは素粒子ニュートリノの次世代観測装置ハイパーカミオカンデ計画に向け、最新改良型の20インチ光電子増倍管の納入も21年から始める。晝馬明社長は「われわれの技術が社会や自然科学発展に貢献できるのであれば、これ以上光栄なことはない」と意欲を示す。

 <メモ>日本を含めた世界中の研究者1万人以上が参加する欧州合同原子核研究所(セルン)は2012年、スイス・ジュネーブ近郊の地下に設けた1周27キロの円形加速器LHCを用いた実験でヒッグス粒子を見つけ、同粒子の存在を提唱してきたピーター・ヒッグス博士らが13年にノーベル物理学賞を受賞した。
 浜松ホトニクスはLHCに光半導体素子約16万6000個と光電子増倍管約1万本を提供した。“心臓部”を中心に全ての実験装置に供給され、特に光半導体素子は搭載のほぼ全てが浜ホト製だった。
 日本の研究グループが主体的に担った検出器アトラスに加え、欧州グループの検出器CMSにも採用されたことは画期的で、この実績と高い信頼性が新たな発注につながった。

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