川は誰のものか(3)維持流量設定なし 国整備計画でも疑問視

 最上川(山形県)と球磨川(熊本県)に並び「日本三大急流」と呼ばれる富士川。六つの水力発電所を持つ日本軽金属にとって、山梨・長野県境の鋸岳(のこぎりだけ)=2685メートル=を水源に持ち、急な河床勾配を一気に流れ落ちる環境はとても重要だ。通商産業省(現経済産業省)で水力課員だった佐山實さん(85)も「流れが急だからこそ高効率の発電ができる」と話す。

2006年9月に公表された国の富士川水系河川整備計画。日本軽金属の水力発電所の取水を前提に「適切な河川流量の確保が求められている」と記された
2006年9月に公表された国の富士川水系河川整備計画。日本軽金属の水力発電所の取水を前提に「適切な河川流量の確保が求められている」と記された
富士川流域の水利用の実態
富士川流域の水利用の実態
2006年9月に公表された国の富士川水系河川整備計画。日本軽金属の水力発電所の取水を前提に「適切な河川流量の確保が求められている」と記された
富士川流域の水利用の実態

 まさに「虎の子」(佐山さん)の富士川の水力発電施設。一方で、この川を将来30年間、どのように整備するかを定めた国土交通省の河川整備計画では、日軽金の巨大水利権に疑問を投げ掛けるかのようにも取れる記述がある。
 2006年9月公表の計画では、富士川流域に設定されたさまざまな水利権のうち、日軽金など水力発電のための水利権最大取水量が合計毎秒520トン程度、全体の76・2%(2005年3月現在)に上り、群を抜いて大きいことを指摘している。
 そのうえで「発電用水は富士川に戻されることなく駿河湾に直接放流され富士川中下流部の流量に影響を与えていることから、この区間における適切な河川流量の確保が求められている」としている。
 関係者によれば民間から「日軽金の水利権は、(もともと国策企業だった)取得の経緯からすれば戦後に返却されるべきだった」などの意見が寄せられたことが背景にある。
 計画は1997年の河川法改正でこれまで治水と利水だけだった河川整備の在り方に環境の考え方が加わったことに伴い、全国の河川で作られた。
 ただ、目玉の一つだったはずの「河川維持流量(渇水期においても最低維持すべき流量)」の設定はいまも行われないままだ。専門家は「河川維持流量の設定は、河川環境保全のための一丁目一番地」と話す。
 同省甲府河川国道事務所(甲府市)の幹部は14日までの取材に、「一部伏流するなどの特殊事情があり、当時決められなかったのでは、と想像する。ただ、今後は河川環境維持のため決めなければ」と問題意識を述べた。
 富士川の河川利用において、日軽金が水力発電のために取水した水を富士川に戻さず、静岡市清水区蒲原の工場放水路からそのまま駿河湾に放水していることは、河川整備計画にも言及があるように特筆すべき点だ。
 「どうせ海に流してしまうなら」と、過去には関東地方の水不足の河川に総延長百数十キロの導水管で日軽金の放水路から水を引く計画すらあったという。かつて富士川下流に漁協の設置を目指し、現在は不正漁具を使用するのを防止するため巡視活動を行う「富士川と鮎を愛する会」(会員12人)の花田克弘会長(63)=富士市=は「水を川に戻さないのは全国でも極めて珍しいと聞く。本当にもったいない話だ」と述べた。

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