千枚岳・荒川三山を歩く 地質が生む貴重な水場【大井川とリニア 第2章 南アルプスは今①】

 多彩な動植物が生息し、貴重な自然が登山者を魅了してやまない南アルプス。9月中旬、その山々に抱かれた大井川の源流部を2泊3日で訪れた。地下を貫くリニア中央新幹線のトンネル工事が、豊かな水に育まれた自然に影を落とそうとしている。動植物と登山者の命をつなぐ水場や県による希少植物保護の取り組み、トンネル掘削に向けてJR東海が進めるヤード(作業基地)整備の現場などを取材した。南アルプスの今を伝える。

色鮮やかな緑のコケがじゅうたんのように広がる駒鳥池
色鮮やかな緑のコケがじゅうたんのように広がる駒鳥池
千枚岳に向かう途中の水場。登山者が水を確保できる場所は少ない
千枚岳に向かう途中の水場。登山者が水を確保できる場所は少ない
リニア南アルプストンネルのルート
リニア南アルプストンネルのルート
色鮮やかな緑のコケがじゅうたんのように広がる駒鳥池
千枚岳に向かう途中の水場。登山者が水を確保できる場所は少ない
リニア南アルプストンネルのルート

 最初に目指したのはリニアのトンネルルートの南側にそびえる千枚岳(2880メートル)。JR東海が、工事の影響で地下水位が大きく低下すると予測した範囲に位置する。本格的な登山は初の経験だった。案内してくれたのは、県自然保護課の山崎由晴さん(41)。事前に登山の厳しさを教えられていた。「今回の登山コースで水を確保できる場所は数カ所しかない」。500ミリリットルのペットボトル3本をザックに詰め込み、登り始めた。
 登山道を進み、2400メートル付近に差し掛かると、うっそうとした森の中に突然現れたのは駒鳥(こまどり)池だ。色鮮やかな緑のコケがじゅうたんのように一面に広がる。水面に古木が横たわり、時が止まったかのような幻想的な光景だった。たたえた水が周囲の草木を育んでいた。
 流入する沢や川は見当たらない。なぜ、こんな標高の高い所に池が―。山崎さんに尋ねると、南アルプスの特殊な地質が関係しているのではと説明してくれた。ただ「どこから水が来ているかは分からない」と言う。
 先に進むと、地下水が湧き出る水場があった。事前に聞いた「数カ所」のうちの一つ。管から滴る水の量はわずかだが、ひんやりと冷たく、暑さで消耗した体を潤した。その後は休憩のたびに、背負ってきたペットボトルの水を飲んだ。食事にも水は不可欠だった。
 この日の夜、山崎さんから翌日の行程について説明を受け「この先の水場で水が補給できなければ引き返す」と伝えられた。
 翌朝、赤石岳(3120メートル)に向かった。アップダウンを繰り返す荒川三山(悪沢岳・中岳・前岳)の山道を歩き、体力の消耗は想像以上だった。約2時間かけて、2カ所目の水場にたどり着いた時には、ペットボトルの水は残りわずか。岩場から湧き出る水を確認して安堵(あんど)した。登山者にとって水がいかに貴重かを実感した瞬間だった。
 「高山植物も登山者も水を失えば生きられない。リニア工事後、登山者が南アルプスに登る機会が奪われてしまわないといいのだが」。山崎さんの言葉が心に響いた。

 ■地下水位低下を予測
 JR東海は国土交通省の専門家会議に、トンネル工事によって大井川上流部の地下水位がどのぐらい影響を受けるのかを予測した資料を提出している。
 トンネルの坑口より標高の高い範囲はポンプアップしたトンネル湧水を戻せないため、JRも影響が避けられないと認めている。資料によると、千枚岳や悪沢岳山頂の地下水位がトンネル掘削完了時に5~100メートル、掘削完了から20年後には100~200メートル低下すると予測した。この範囲には開発行為が厳しく規制された国立公園の特別保護地区やユネスコエコパークの核心地域が含まれている。
 JRは防水シートなどでトンネルを覆う対策を取れば予測よりトンネル内の湧水量は少なくなると説明するが、その量は予測できないとしている。

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