半期の振り返り 記者座談会㊦【賛否万論】

 2021年度の上半期分として4月から始まった「賛否万論(さんぴばんろん)」の第3期。社会部の記者による座談会を先週に引き続き、掲載します。「登下校中の安全どう守る?」というテーマで皆さんから寄せられた投稿や、取材で浮かび上がった課題などについて記者の思いや意見を交わしました。

登下校の安全共起ネットワーク
登下校の安全共起ネットワーク


 ■テーマ「登下校中の安全どう守る」(6月25日~9月3日)
 登下校中の子どもたちが不審者から声を掛けられたり、交通事故に巻き込まれたりするケースが後を絶ちません。千葉県八街市では6月、下校中の児童の列にトラックが突っ込む死傷事故が起きてしまいました。核家族化や見守りボランティアの高齢化が進む中、子どもたちの安全を守るためにはどうすればいいでしょうか。(東京五輪期間中は休載)
 【インタビュー】常葉大教育学部教授 木宮敬信さん、県防犯アドバイザー協会理事長 船山恵子さん

 鈴木 登下校中の安全をテーマに始めた数日後、千葉県八街市で下校中の小学生がトラックにはねられて死傷する事故が起きた。登下校中の悲劇は本当に人ごとでないと改めて痛感させられた。
 市川 登下校中の子どもは常に危険と隣り合わせであることを再認識した。ニュースキュレーターからも子どもの安全確保の対策についてさまざまな意見が寄せられ、対策は急務と感じた。
 鈴木 頂いたご意見を集計・分析した「共起ネットワーク」を見ると、登下校の安全には「学校」と「地域」の両輪が欠かせないという意見が多いことが明確だ。その上でご意見を大別すると、①ボランティアや親による見守り活動②道路整備などのハード対策の必要性③子どもたちが「自分で自分の身を守る力」を教えることの大切さ-となった。
 市川 ボランティアによる見守り活動には持続性が求められる。大きな事件や事故のたびに機運が高まるが、半永久的にどう続けていくのか。ボランティアの必要性を否定するわけではないが、ボランティア頼みになってはならない。人に頼るのであればガードレールの設置といったハード対策や、交通量の多い道は通学路から避けるといった明確な指針が必要ではないか。スクールバスの積極的な活用も視野に入れるべきだろう。
 鈴木 確かにガードレール設置や歩車分離式信号などハード対策を求める意見も多く、見守り活動の限界を多くの人が感じているようだ。実際、道路構造に起因する交通事故が統計的に一定数、存在していると聞いたことがある。警察署協議会やJAFの交通安全実行委員会、地元の自治会、議員などに通学路の改善を根気よく求めていくことが欠かせない。
 佐藤 通学路の危険を指摘する意見を受け、浜松市東区の現場を訪ねた。通学時間帯は車の進入規制があり、警察が定期的に取り締まっているという。住民によると、交通量や危険性が増すのは「規制も警察の目もない夕方」。運転者の心理として「目」がないことが安全意識の緩みにつながることはあると思う。浜松市の担当者にガードレールの設置など追加対策を取ることは可能か尋ねたところ、他の危険箇所と優先順位を付けて考えていくとのことだった。限られた財源の中、すぐにはハード対策をできない現実もある。ただ、「ハード対策ができない」で終わらせず、ソフト対策を組み合わせて何ができるかを考えなくてはいけない。
 鈴木 磐田市では自治会長に「市への要望事項集」を配り、その中に「交通規制の要望」を提出する際の要点を磐田署がまとめた資料がある。例えば、ある道路の速度規制を30キロにしてほしい場合、「歩道の有無や幅員、車線数、沿道状況が考慮されるため、単に(理由が)『スピードが速い車が通る・通学路で危険』等では難しいと考えます」と丁寧な解説が載っている。どの自治体でも同様の資料があるのでは。そうした資料の存在が自治会長だけでなく、全家庭に知られ、より的を射た要望につながればいいと思う。
 武田 事故防止策とは対照的に、犯罪や不審者については防犯カメラの増設などのハード対策に関して今回ほとんど意見がなく、住民の「声」や「目」という言葉が多かった。犯罪から子どもを守るには、住民の声掛けや監視の目など地域コミュニティーの力で犯罪を起こさせないのが理想のようだ。防犯カメラは犯罪発生後の捜査に役立つかもしれないが、そもそも絶対に犯罪を起こさせないという住民の目こそが最大の抑止力になる。
 市川 心理学から対策を講じるのは一手だ。万引が多発していたスーパーで防犯カメラの効果は限定的だったが、制服の警察官が巡回するだけで犯罪件数が激減したという話もある。「防犯カメラで見られています。死角はありません」といった看板を地域内に設置するだけでも、犯罪抑止効果は期待できるのでは。
 北井 見守り活動を地域で持続できればいいが、簡単ではない現実もある。自分の出身地の横浜市では住宅街の向かいの家、はす向かいの家に住む人の名前や顔すら知らない。幼少期は近所との会話が少しあった記憶もあるが、小学校に通うころにはほぼなかった。近所同士や子どもへの関心は非常に薄かったと感じる。一度コミュニティーが希薄化した地域が再び活発な近所付き合いを再開させることは困難で、むしろ新しい住民が引っ越してくる度に希薄化は一層進行していった。見守り活動を継続させる方法を議論する必要があるが、関係が希薄化した地域で新しく活動を生み出すことはそれ以上に大きな課題。良策が求められる。
 鈴木 キュレーターの江口裕司さんは「学校への交番の併設」を提案した。夢物語と思われるかもしれないが、今やAIやロボットの時代。110番のホットラインを備えたロボット警備員を各校に配備するなら不可能ではなさそうだ。子どもにGPS端末を持たせるのは当たり前の時代だし、ブレーキアシストや自動運転も進化している。人手不足を先端技術でうまくカバーすることも検討したい。
 武田 意見が多くて驚いたのは「自分で自分を守る力」の大切さ。重いランドセルを背負って長距離を歩かされる子どもへの同情もあったが、危機察知能力を養う重要性を訴える意見が目立った。
 北井 県防犯アドバイザー協会理事長の船山恵子さんは、まさにその「自分の身を自分で守る力」を養うことができる体験型防犯講座「あぶトレ!」の普及を図っている。実際に講座を見学した。ランドセルを捨てて走りだす、車に乗せられそうになった際に暴れるなど、一見簡単そうだが一度は体験しておかないと有事の際に行動に移すことはできない。高学年になると、低学年生徒の守り方、瞬時に不審者の特徴を覚える練習もする。安全な町は自分たちで作るという自立の意識を養わせてくれる講座だ。
 鈴木 小学校教諭を長年務めたニュースキュレーターの増田浩二さんが言われていたことも同様だった。想定外の事態が相次ぐ時代、自分の身を自分で守ったり、自分より弱い子を守ったりできる子どもを育てることは教育の究極の目的とも言える。キュレーターの木野正人さんは食育の大切さを挙げた。一見無関係のようだが、確かに食の安全に無頓着では他の危険にも注意を払えないのは一理ある。核家族でも親が意識すれば日常の中で子どもの危機察知能力を鍛えられる。
 武田 こうして意見をひもといていくと、交通、防犯、防災には、やはり家庭での日常生活から地域、学校、行政、警察まで、子どもたちを取り巻く全てがつながっていることが理想だと思える。
 佐藤 常葉大の木宮敬信教授は、通学路の点検活動は交通、防犯、防災と縦割りになりがちと話していた。これらすべてを踏まえた総合的な点検をすべきとの意見は参考になった。住民が学校運営に関わる中で「安全」という視点を加えていけば、防犯や災害時の地域力にもつながるとの指摘ももっともだと感じた。

 ■分析方法
 立命館大の樋口耕一教授らが開発した計量テキスト分析ソフト「KHCoder(KHコーダー)」を使用。「ジャッカード係数」と呼ばれる統計手法を用い、関連が特に高いとみられる単語間を線でつないで「共起ネットワーク」を描画した。今回の分析では円の大きさは単語の相対的な出現数を表している。
 

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