社説(11月3日)ガザで地上作戦 人道優先し即時停戦を

 イスラム組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザ地区での戦闘が激化している。イスラエル軍はガザ地区への空爆を続けるとともに、ハマスの拠点があるとするガザ北部への地上作戦を開始した。ガザとイスラエル双方の死者は計1万人を超えた。
 ガザへの地上侵攻によってさらなる人道危機や民間被害が危惧されている。人道優先でイスラエルはただちに戦闘を停止し、空爆をやめて侵攻した地上部隊を撤退させるべきだ。ハマスも戦闘を止め、イスラエル領から拉致した200人以上とされる人質全員をすぐに解放すべきだ。
 停戦を求める国際世論も強まっている。国連総会は先月27日、「人道的休戦」を求める決議を賛成121カ国で採択した。ヨルダン提案の決議はガザの人道状況に「深い懸念」を示し、水や食料、医薬品、燃料の供給を要求した。
 ただ、民間人への無差別攻撃は非難しているがハマスを名指しで糾弾せず、「人質」との表現も避けて「不法に捕らわれている民間人の即時解放」を求めた。そのため米国など14カ国が反対、日本や英国など44カ国が棄権した。
 決議に法的拘束力はない。しかし、地上侵攻を本格化しようとするイスラエルの軍事作戦を、国際社会が容認しない姿勢は明らかだ。奇襲を受けたイスラエルへの同情論は消え、ガザ住民を巻き込んだ過剰な報復への批判が強まっている。イスラエルは国際的に孤立し、イスラエルの後ろ盾になっている米国への反発も高まっているといえる。
 イスラエルのネタニヤフ首相は「戦争が新たな段階」に移ったと表明。ハマスとの停戦はないと断言して徹底掃討を強調している。イスラエル軍はハマスの拠点があるという理由でガザ北部の病院や難民キャンプを空爆し、多数の死傷者が出た。ハマスが民間人に紛れ込んで「人間の盾」にしていることは明らかだといえるが、住民が犠牲になるのを承知で国際人道法に違反するとされる攻撃を続けるイスラエルの苛烈さも際立つ。
 市街戦が激しくなれば、巻き添えの民間人がさらに増えることは避けられない。生活衛生物資が不足するガザ地区の人道危機が深刻化し、人質の安否も不透明となる。抵抗するハマスだけでなくイスラエル軍の損害も増える。影響力を持つ米国はイスラエルに強く自制を求めるべきだ。
 イスラエルと対立するイラン系組織の動き次第では、戦火が中東全体に広がる恐れもある。激化すれば原油価格に影響する懸念もある。日本も対岸の火事として傍観するわけにはいかない。そうした事態を防ぐためにも各国が連携して双方に自制を訴え、早期停戦を求める必要がある。

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