上流は下流を思い 下流は上流に感謝 嘉田由紀子参院議員インタビュー【サクラエビ異変 母なる富士川 未来につなぐ/番外編】

 サクラエビの不漁を契機に静岡・山梨両県の流域住民が富士川の河川環境について深い関心を抱くようになった。子供たちが生きる未来に健全な生態系や自然環境を手渡すにはどうしたら良いのだろうか。近畿地方の水がめ・琵琶湖を有する滋賀県の知事を務めた嘉田由紀子参院議員(72)は、県境などにこだわらず、流域が手を取り合うことの大切さを説く。

インタビューに応じる嘉田由紀子参院議員=5月10日、東京・永田町の参院議員会館
インタビューに応じる嘉田由紀子参院議員=5月10日、東京・永田町の参院議員会館

 ―上流と下流はどう向き合うべきか。
 「県境など人工的に区切られた地域ではなく、河川流域など生態的つながりを表す地域として『バイオリージョン』の存在が注目される。富士川水系での不法投棄を受け、2021年7月に両県知事はマスコミの前で覚書を交わすセレモニーをわざわざ行い、有害物質の残留状況の調査を開始するとポーズをとった。県境問題の象徴だと思った。人間が後から勝手に作った県境なのに、人間が振り回されている。『上流は下流を思い、下流は上流に感謝する』。サクラエビをきっかけに真の連携が上流下流に芽生えたらいい」
 ―日本軽金属の自家発電用水利権が巨大だ。
 「戦時期から続く日軽金の水利権は国策のアルミ製錬のためのものだった。既に製錬は行っておらず、電力会社への売電を行っている。本支流で取水された水は導水管を通り、一度も川に戻ることなく海に流れ出る。富士川では挙国一致体制の特殊な状態が続いている。2014年制定の水循環基本法上、問題にできる可能性があると考える。3月に河川維持流量が決まったというが、川の規模を考えれば『ちょろちょろ』。少なすぎる。非公開で大学教授らの意見のみを聞いて国土交通省が決めたが、流域に公開しなくては両県住民の関心は高まらず、期待する連携もこれでは始まらない」
 ―サクラエビやアユが戻ってきた。
 「どんなに人工知能(AI)や工業が発達しても、人はサクラエビやアユ、富士川の水一滴も作れない。何千年、何万年と命をつないできたサクラエビやアユを自然からの『使者』と考えたらどうか。人は自然の価値を管理しきれず、差配しきれない。そこを感謝するということが大切では」
 ―両県知事、流域住民へのメッセージは。
 「英語で川を意味する『river』は、競争相手を意味する『rival』の語源だ。川の上流と下流は構造的にライバルであり、放っておけばそのようになる。上流は下流にとって唯一であり生殺与奪、下流は水を涵養(かんよう)してくれる森を養う上流に対して感謝すべきだ。川勝平太静岡県知事と長崎幸太郎山梨県知事にはサクラエビやアユのお母さんの気持ちになってほしい。彼女らの子供は生まれた場所で生きていくしかない。だから、卵を産む場所を選ぶ。為政者はポーズではなく、自然の持つ価値を自覚しなくてはならない」

 かだ・ゆきこ 農学博士(環境社会学)。京都精華大教授などを経て2期8年務めた滋賀県知事時代、県内六つのダムの建設を中止・凍結するなどしたことで知られる。主な編著書に「流域治水がひらく川と人との関係―2020年球磨川水害の経験に学ぶ」(農文協)、「水と人の環境史」(御茶の水書房)などがある。京都大大学院・米ウィスコンシン大大学院修了。埼玉県出身。

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