あさ【朝】 どうにか起き上がって 石井萠水【SPAC俳優 言葉をひらいて①】

 「あさ、眼をさますときの気持ちは、面白い。」

石井萌水
石井萌水
石井萌水

 太宰治作の「女生徒」はこの言葉から始まります。私も今まで何度か演劇として上演してきた作品です。特に冒頭のこの一言は、読んだり、台詞[せりふ]として口に出したりするたびに、なんとも不思議な味わいを感じます。
 このコラムを読んでくださっている皆さま、初めまして。おはようございます。SPAC-静岡県舞台芸術センターで俳優をしております、石井萠水と申します。舞台や映像に出演して役を演じたり、お芝居に合わせて楽器の演奏をしたり、演劇のノウハウを日常生活にも活[い]かせるようなワークショップや授業をすることなどが仕事です。
 さて、皆さまはどんなお目覚めで今日を迎えられたでしょうか? 仕事に行きたくない、まだ寝ていたい…目覚めた瞬間にそういった自分の本音を感じられた方も少なくないと思います。私も大体そうです。本当は爽やかに健康的に目覚められると良いのですが、「働かなきゃ食っていけないし」とか「この前は寝坊したから起きなければ」と思いながら、どうにか布団から脱出しているのが現実です。
 「面白い」という言葉から始まるこの小説の主人公の朝も、そうなのです。起きているときとは違って厭世[えんせい]的になる自分が朝の寝床の中には居て、一日の始まりなのに虚無感や悲しさが押し寄せてくると、小説の冒頭に書かれています。そんな自分に気づくことも、それでも目覚める自分も、ちょっと面白い。面白がってみると、どうにか起き上がれるということかもしれません。
 私は劇場で皆さまにお会いできる日に向けて、今日も目覚め、どうにか起き上がり、稽古し、舞台に立っています。  SPAC俳優のリレーコラム。身近な単語を五十音順に並べ、イメージを膨らませます。奇数週に掲載。

 いしい・もえみ 浜松市中区出身。2004年に県民参加の「忠臣蔵2004」でSPAC初舞台。「病は気から」「マハーバーラタ」など出演多数。5月、駿府城公園、浜松城公園にてSPAC「天守物語」に出演予定。

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