学校のブラック校則、謎ルール、見直しませんか③ 関係者インタビュー【賛否万論】

 子どもや保護者が「なぜ?」と戸惑う校則や学校のルールについて、多くの先生も「説明するのが難しい」と苦慮しているようです。生徒はどんなことを考えているか。先生の本音は?-。静岡県内公立中の元教諭で、校則をテーマにした動画を「TikTok(ティックトック)」や「ユーチューブ」に投稿して人気を集める「静岡の元教師 すぎやま」さんにインタビューしました。

すぎやまさん
すぎやまさん


 先生と生徒 一緒に考えて
 経歴を聞かせてください。
 大学卒業後、講師時代を含めて12年間、県内の公立中5校で音楽を教えていましたが、2018年に退職しました。市民ミュージカルの指導をきっかけに、「舞台に立ちたい」「歌がうまくなりたい」という子どもたちと本気でぶつかってみようと、ボイストレーナーを目指してスタジオを開業しました。ただ、コロナ禍でうまく軌道に乗せることができず、そこで始めたのがSNS(交流サイト)でした。20年6月から、自分らしく生きられる人を増やすことを目的に社会問題や教育問題を解説する動画を上げています。
 登録者数がTikTokで27万人、ユーチューブで8万人。これだけ人気となったのは校則がきっかけですか。
 一気に増えたのは校則でしたね。20年当時は校則問題について大きく取り上げるインフルエンサーはいませんでした。世間一般の大人はツーブロックの髪形や、くるぶしソックスが禁止であることを知りませんでした。ちょうど同じ頃、東京都の政治家が「ツーブロック禁止はなぜ?」と教育長に質問したことがニュースに取り上げられ、自分のSNSも共感を集めることができました。

 問題提起 理解得られず
 なぜ校則問題だったのですか。
 私は10カ月前、自分がLGBT(性的少数者)であることを公表しました。校則問題に取り組んできたのは、このことが自分の根っこにあるからです。校則でつらい思いをしている子どもたちが日本中にいます。私自身も公表する前まではずっと、自分らしさを隠して生きてきました。自分のアイデンティティーにも関わる部分です。教員時代から、自分らしく生きることができる時代を子どもたちのためにつくっていきたいと思っていました。
 SNSのターゲットは。
 14歳の男子、中学2年生です。老若男女の人気を集めようとすると、「実はツーブロックという髪形があって…」という説明から始める必要がありますが、ターゲットを絞れば鋭い言葉を届けられるようになります。「中2病」という言葉もありますが、14歳男子って社会に不満を持ち始めて、つい何か言いたくなっちゃう時期なんですよね。私は説教するのではなく、子どもの味方。自分が教員時代に担任だった生徒を思い浮かべ、その子と話すようなスタイルを意識しています。「おかしいよな。分かるよ。でも、先生たちもつらいんだよ」って。
 教員時代に校則について感じていたことは。
 職員会議では毎年のように問題提起していました。特に、教科書を学校に置いていってはいけない「置き勉禁止」という校則。子どもたちは、毎日10キロ以上のリュックを背負って登下校していました。教科書を持ち帰っても、自宅で教科書を使って勉強している生徒はほとんどいません。成績の良い子は別の参考書で勉強しているし、勉強が苦手な子は教科書を持ち帰っても見ません。でも、ベテランの先生方は「教科書で予習復習させなければ勉強の習慣が身に付かない」と主張し、理解は得られませんでした。
 他に変えた方がいいと感じていた校則やルールは。
 くるぶしソックスの禁止も、体育の先生によれば「転んだ時に擦りむく可能性があるから駄目」と。膝は丸出しなのに、おかしいですよね。制汗スプレーや汗ふきシートも禁止でした。OKにすれば教室が臭くなるとか、万引する生徒が出てくるとか。日焼け止めクリームは顔が白くなって、化粧との見分けがつかなくなるという理由でした。登下校中に水筒の中身を飲んではいけないというルールも。学校側が気にするのは近所からのクレームです。いつまでも水筒を飲みながら、道端でたむろしてほしくないということでしょう。
 男子全員が上半身裸で体操する映像も問題になりました。
 最近は校則よりも、明文化されていない「謎のルール」が問題になっています。男子に裸で体操させる学校をSNSで取り上げた時は、すごい反響でした。修学旅行での集団入浴も同じです。それはLGBTへの配慮という問題ではありません。男子だからといって、人前で裸にさせていいわけがない。人権を無視し、コンプレックスを助長させるようなルールです。
 逆に、必要な校則はありますか。
 例えば、ピアスや金髪の禁止は仕方がないでしょう。社会に出ても、金髪では働くことができない職場は多いです。学校は社会に出る子を育てているので、社会の常識に歩み寄らなければいけない部分はあると思います。あとは「○時以降は校舎内立ち入り禁止」とか。
 最近は制服のルールを見直す学校が増えています。
 意外かもしれませんが、中高生は制服の廃止までは望んでいない子が多い。「制服いらないよね」という話を振っても、「制服は欲しい。青春できなくなる」というコメントが付くことが多いです。選択制がいいかもしれません。

 人権問題考える契機に
 文科省は積極的に校則の見直しを行うよう促しています。効果はあるのでしょうか。
 昨年「生徒指導提要」(教員向けの手引書)の改訂がニュースで大きく取り上げられましたが、現場の教員は見たことがない人も多いと思います。それに、年配の先生方はかつての校内暴力があった時代を経験しているので、一つ緩めればたがが外れてしまうと強く主張します。厳しくしておけば、コントロールもしやすい。私が教員をしていた頃に、熱心に校則を変えようとする管理職に出会ったことはありませんでした。
 教員の多忙化も問題になっています。校則問題など二の次、という声もあります。
 先生はやるべきことが多すぎて、どうしても校則は後回しになってしまうでしょう。校則について1時間話し合いをしましょうと持ちかけても、その1時間すらつくれない現実があります。大きな労力も必要になります。こわもての生徒指導の先生と対決しなければいけない。リスクを冒してまで、校則見直しに動こうとは思わない。なるべく平穏に、という心理がどうしても働いてしまいます。
 生徒に厳しくルールを守らせる先生と、見逃す先生がいます。先生同士でも不信感を募らせているという話も聞きます。
 先生間の温度差は、学校が荒れる原因になると言われています。ダブルスタンダードが生まれ、生徒が学校に不信感を持つようになる。保護者からも「あの先生はOKだったのに、別の先生が駄目と言っている。どういうことか」と電話がくる。だから、厳しく指導する先生の考えは理解できます。自分も教員時代、明文化されているルールがあれば、見直した方がいいなと思いつつも、組織人としてしっかり指導していました。
 学校側はどう変わっていくのが理想ですか。
 昔は、文句も言わずに黙って働く人が社会で求められていたかもしれませんが、今は新たな突破口を自分で探したり、古い慣習を改善したりする人が求められる時代になっています。にもかかわらず「つべこべ言わずルールを守れ」「禁止だから禁止」という、型にはめる教育を続けている学校も多いのでは。校則の見直しは、人権問題を考えるきっかけにもなります。先生方が迫害者にならないよう、子どもたちと一緒になって考えていくというスタンスを取ってほしいと思います。

 「静岡の元教師 すぎやま」さん 講師時代を含めて12年、県内の公立中で教諭を務め、2018年に退職。現在はSNSへの動画投稿のほか、SNSコンサルタントとしても活動中。掛川市出身。昨年8月から東京都在住。年齢非公表。

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 多くの学校に不思議な校則や謎のルールがあるようです。校則に関する困り事や問題提起、学生時代の思い出など、さまざまな投稿をお待ちしています。お住まいの市町名、氏名(ペンネーム可)、年齢(年代)、連絡先を明記し、〒422ー8670(住所不要)静岡新聞社編集局「賛否万論」係<ファクス054(284)9348>、<Eメールshakaibu@shizuokaonline.com>にお送りください(最大400字程度)。紙幅の都合上、編集させてもらう場合があります。

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