三善(掛川市)川合利弘さん 食品スーパーの一角 “架空の醸造所”出現【しずおか クラフトビール新世代㉔・完】

 食品スーパー「フードマーケットサンゼン葛川店」(掛川市)には、「醸造所」を名乗るスペースがある。「『サンゼン・ブリュワリー』。2021年2月の店舗改装に合わせて“架空の醸造所”を出現させた」と話すのは、運営会社「三善」の川合利弘社長(52)=同市出身=だ。国内外のクラフトビール約150種をずらりと並べ、オリジナルのグラスやTシャツも販売。市内生産者の豚肉を使ったソーセージなど、おつまみの提案にも余念がない。スーパーとしては異例の売り場をつくり出した。

クラフトビールの売り場を整える川合利弘さん=掛川市のフードマーケットサンゼン葛川店
クラフトビールの売り場を整える川合利弘さん=掛川市のフードマーケットサンゼン葛川店
ルーベンス クライキーIPA(左)と掛川産深蒸し茶エール
ルーベンス クライキーIPA(左)と掛川産深蒸し茶エール
クラフトビールの売り場を整える川合利弘さん=掛川市のフードマーケットサンゼン葛川店
ルーベンス クライキーIPA(左)と掛川産深蒸し茶エール

 創業から120年以上、食品スーパーとして半世紀以上の歴史がある三善の4代目である川合さんがクラフトビールにのめり込むようになったのは、2018年の米シアトルへの旅行がきっかけ。
 「現地の醸造所『ルーベンス』のタップルーム(工場併設のパブ)で飲んだIPAが衝撃的にうまかった」
 かんきつ系の複雑な香り、持続する強烈な苦み。帰国後も存在を忘れられずにいたが、19年に静岡市の専門店「12togo」で偶然再会した。「日本で手に入るとは」。輸入業者の連絡先を教わり、自店でも売るようになった。
 同じ頃、掛川の醸造所「カケガワ・ファーム・ブルーイング」との協業も始めた。みかんやライム、地元養蜂園の蜂蜜など、スーパーの店頭をにぎわす地元生産者の良品を次々持ち込み、ビールの副原料にしてもらった。これまで7種を発売し、全て売り切った。
 「サンゼン・ブリュワリー」では国内十数社のほか、アメリカ、カナダや欧州各国のビールを扱う。発注から売り場づくりまで、全て川合さんが自分の手で行っている。多品種を置くことで、クラフトビールのトレンドが手に取るように分かる。売り上げの半分以上が、フルーツの香りと濁った色が特徴の「ヘイジーIPA」という。
 「ヘイジーだけを売っていれば安泰なのは事実。でも、それじゃ面白くない。サワー(エール)があって、スタウトやラガーがあって。バランスを取りながらセレクトした、多様性のある売り場にしたい」
 バイヤーとしての目で、クラフトビールの将来を見通す。
 「いずれ淘汰[とうた]の時代が来る。『ご当地ビール』のような、お土産需要に頼る売り方では先細るだけ。醸造所そのもののブランディングが生き残りの鍵だろう」

 ■ルーベンス クライキーIPA
 ■掛川産深蒸し茶エール
 サンゼン葛川店が扱う、代表的な2銘柄。米シアトルの醸造所「ルーベンス」の「クライキーIPA」(左)は、川合さんがクラフトビールに目覚めるきっかけとなった。華やかなかんきつの香りと、喉の奥の方で持続する強烈な苦みが特徴だ。アルコール度数は6.8%と高めに設計されている。
 掛川市初の醸造所「カケガワ・ファーム・ブルーイング」の「掛川産深蒸し茶エール」は、茶とホップの香りが複雑に溶け合って鼻を通り抜ける。まろやかで丸みのある味わいは飲み手を選ばない。

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