微生物の働き 有機物を分解、有用な物に(細矢剛/国立科学博物館植物研究部長)【発酵のひみつ①】

 「発酵」と聞くと何を想像しますか。酒、みそ、しょうゆ、漬物をはじめ、ビールやワイン、チーズなど発酵食品は数多くあります。生物資源を燃料としたバイオ燃料を作る工業的なプロセスまで発酵と呼ばれます。これらすべての過程で微生物が関わっています。

葉が微生物によって分解されていく発酵の様子
葉が微生物によって分解されていく発酵の様子

 このように、微生物の働きによって有機物が分解され、人間にとって有用な物が生成されるのが発酵です。その過程で、微生物はエネルギーを得ています。
 逆に、不要な物や有害な物ができることを腐敗と呼びます。ただし、微生物の立場からすると、発酵と腐敗は同じもの。例えば、納豆を作る納豆菌は大豆だけでなく、いろいろな豆で納豆のような物を作ることができます。しかし、レタスのような野菜に作用させると、どろどろの腐った汁ができるだけ。同じ微生物であっても材料が異なると、全く異なる産物になります。
 発酵によって、保存しやすくなる、おいしくなる、消化しやすくなる、栄養価値が高くなるなどの効果が出ます。
 ただし、適切な微生物によって適切な反応が得られなければ、おいしい発酵食品はできません。先人のさまざまな工夫の末、そのような適切な反応が生まれる条件が見つけられてきたのです。
 (細矢剛・国立科学博物館植物研究部長)
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 この連載では、身近な飲食物などの発酵の仕組みについて解説します。

 ほそや・つよし 1963年生まれ、東京都出身。製薬会社の研究員を経て、2004年から国立科学博物館植物研究部長兼筑波実験植物園長。専門は菌類学。

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