教育改革20年が「奏功」 OECD 日本の高校生成績上昇 子や教員余裕減 課題【表層深層】

 5日、4年ぶりに公表された経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)で、日本の高校生の読解力が上向いた。約20年間で成績上昇への改革を連発してきたことが「奏功」し、文部科学省幹部は胸をなで下ろす。ただ学習量の増加をもたらし、子どもや教員の日々の余裕が減っている現実も。学校に「息苦しさ」が漂いつつあるとの指摘が絶えない。

平均得点の国際比較(PISA)
平均得点の国際比較(PISA)
「PISAショック」後の主な教育改革
「PISAショック」後の主な教育改革
再び休校になった場合、自律的に学習する自信
再び休校になった場合、自律的に学習する自信
平均得点の国際比較(PISA)
「PISAショック」後の主な教育改革
再び休校になった場合、自律的に学習する自信


 生産性向上
 「3分野全てで世界トップレベル。新型コロナウイルス禍でもしっかり学びを保障できた」。読解力の好転に加え、数学と科学の分野も高水準を保ち、文科省担当者は自信をのぞかせた。
 2003年調査で読解力の順位が落ちた「PISAショック」以降、成績を世界上位に戻し、維持するのが文科省の使命になった。PISAの読解力問題では図表が多用され、文章以外にもさまざまな資料から情報を読み取り、表現する力が必要になる。文科省は07年に小中の全国学力テストを復活させて思考力や表現力を測る設問を並べ、今の学習指導要領で探究的な学習や話し合いの授業を要求している。
 国立情報学研究所の新井紀子教授は「長年の改革が功を奏した」と高く評価。この力が不十分では論理的文章が理解できず、教科書も正確に読みこなせないと指摘する。
 読解力は自ら学びを深める能力にも直結し、社会に出てから「学び直し」でスキルを高める姿勢につながると説明する新井教授。「生産性を高めるため、技術進化に合わせた学び直しは不可欠。時代の流れには逆らえない」と話し、PISA型教育の進展に期待する。

 不登校最多
 ただ文科省の手応えと、学校現場の実感との間には温度差がある。関西の公立小の男性校長は「討論する授業は確かに増えたが、分かりやすく表現するような力は育っていない」と語り、手探りの現状を説明する。
 さらに、PISAショックは当時の「ゆとり教育」への批判を加速させ、授業時間や学習内容の増加が進んだ。小学校英語の教科化やプログラミングなど新たな学びが次々と詰め込まれ、教員らから「学校が窮屈になった」との声が漏れる。
 深刻さが際立つ課題が不登校。22年度に不登校の小中学生は過去最多の約29万9千人に上り、かつてないペースで増える。なぜ学校に行きづらいと考える子どもが多くなったのか、文科省も解明できてはいない。
 不登校経験者の多い通信制高校はPISAの対象外のため、学力状況が今回の結果に反映されていない側面もある。

 得手不得手
 子どもの能力をできる限り伸ばすことが「正しい」と強調され過ぎてはいないか-。そんな視点から、PISAに詳しい一橋大の山田哲也教授(教育社会学)は「『社会人になるまでに、こんな能力を身に付けるのが望ましい』というメッセージは強まっているが、人には得手不得手がある。学校が息苦しい場所になっている可能性がある」と問題提起する。
 文科省内でも、学習量や授業時間のスリム化を検討すべきだとの声が上がるようになった。約10年ごとに改定される指導要領の方向性について、来年から本格的な検討が始まる。ある幹部は「教科書も厚くなり過ぎた。カリキュラム削減は改定の焦点になる」と予測。社会から期待される学力・能力の育成と、過ごしやすい学校づくりは両立できるのか、議論の必要性が高まる。
コロナ影響も調査 休校短いと好成績 日本など傾向  新型コロナウイルス感染症は教育にどう影響したのか-。経済協力開発機構(OECD)の2022年学習到達度調査(PISA)でコロナ下の教育について調べたところ、休校期間が短い国・地域は平均得点が高い傾向がみられた。
 過去3年間でコロナによる休校の有無を生徒に尋ね、期間を回答してもらった。休校が3カ月以上だった割合はOECD平均が50・3%だった一方、日本は15・5%。割合が少ない日本、台湾、韓国が数学的応用力で5位、3位、6位になるなどし、OECDは「割合が少ない国・地域は、より多い国・地域に比べ平均得点が高い傾向にある」と分析した。
 コロナ禍前の18年調査と数学的応用力の平均得点を比べると、OECD平均は下がった。統計的に有意に上がったのは台湾やサウジアラビアなどで、日本は9点高いが統計的な有意差はないとされた。
 OECDはこうした指標を基に、日本、韓国、リトアニア、台湾の4カ国・地域を、コロナ禍を乗り切り、不利な状況でも学習が継続できるよう準備された「レジリエント(強靱(きょうじん)で柔軟)な」国・地域として評価した。文部科学省は「教員の献身的な取り組みで学びの機会が確保された」としている。
 ただ、再び休校になった場合に生徒が自律的に学習できるかを調べたところ、「自力で学校の勉強をこなすことに自信がある」のは41・6%で、OECD平均を大きく下回った。
デジタル端末 4割超利用せず  2022年学習到達度調査(PISA)では、情報通信技術(ICT)の活用状況を調べた。文部科学省の1人1台端末構想の影響で、高校でもパソコンやタブレットといったデジタル端末の配備が進み学校で利用しやすくなっている一方、生徒の4割超が授業で利用していなかった。
 授業でのICT利用が「全く、またはほとんどない」と回答した生徒は、国語で48・5%。数学が53・5%、理科43・8%と、経済協力開発機構(OECD)平均を17・1~18・6ポイント上回った。自ら問いを立てる「探究型学習」でのICT活用頻度は、比較可能なOECD加盟国で最下位だった。
 デジタル端末やプログラミングについて学ぶことに興味がある生徒はOECD平均並みだが、プログラム作成ができる割合は平均より10ポイント以上低かった。
 平日の学校外での利用状況も調査。1日3時間以上「デジタルゲームで遊ぶ」のは17・4%、「交流サイト(SNS)を閲覧する」のは19・0%で、OECD平均の24・5%と33・8%を下回った。
 デジタルゲームとSNSの利用時間別に平均得点を見たところ、読解力、数学的応用力、科学的応用力の3分野とも「1日1時間未満」が最も高く、時間が増えるほど低下する傾向があった。

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