マイナス成長に転じた実質GDP 早期対策が政権支持率の鍵に【永浜利広 深読み経済ニュース】

 内閣府が先週発表した2023年7~9月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値は、物価変動を除く実質で前期比0.5%減、年率換算2.1%減と大幅なマイナス成長となりました。ただ、落ち込みの半分以上は民間在庫の減少で説明できますので、最終需要ベースではそこまで落ち込んでいないことになります。

永浜利広(第一生命経済研究所首席エコノミスト)
永浜利広(第一生命経済研究所首席エコノミスト)

 それでも、最大の需要項目である個人消費が2四半期連続でマイナスとなったことをはじめ、輸出などを除きほとんどの項目がマイナス寄与となりましたので、総崩れに近い状態と言えます。
 一方で、年率換算で4.5%増となった4~6月期の後のマイナス成長であるため、景気腰折れとまではいかないとする向きもあります。
 しかし、内閣府の「景気ウオッチャー調査」で街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整値)が8月から3カ月連続で悪化していることからすれば、日本経済が弱まっていることに疑いの余地はないでしょう。
 特に個人消費は、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが「新型インフルエンザ等感染症」から「5類」へ引き下げ後、初めての夏休みということで行楽需要が盛り上がりましたが、物価高に伴う節約志向でそのプラスはかき消されてしまいました。設備投資も「脱炭素」やデジタル化、経済安全保障に関連した投資に政府の後押しがあり、23年度は金額ベースで過去最高水準となることも期待されていますが、機械受注統計が示す通り、製造業を中心に機械投資がさえない状況が続いています。
 10~12月期以降についても、実質賃金マイナスの構図に大きな変化は期待できないでしょう。海外経済も欧米のこれまでの利上げや中国の不動産バブルの崩壊で減速の可能性が高いことからすれば、日本経済はさえない展開が引き続き予想されます。
 ただ裏を返せば、岸田政権の経済対策の必要性が増したとも言えます。当初は、経済全体の需要と供給力の差を示すGDPギャップが4~6月期にプラスに転じたことなどから、総額17兆円もの景気対策はやり過ぎとの見方も一部でありました。しかし、今回の結果により7~9月期のGDPギャップは恐らくマイナスに転じる可能性が高くなります。
 こうしたことから、いかに経済対策を速やかに実行へ移して経済を早期に浮揚させられるかが、岸田政権の支持率を大きく左右する鍵になったと言えるでしょう。(永浜利広、毎週火曜更新)
 ☆ながはま・としひろ 第一生命経済研究所首席エコノミスト。1971年栃木県出身。早大理工学部卒、東大大学院経済研究科修士修了。第一生命保険入社後、日本経済研究センター出向を経て、現職。経済関連の著書多数。新聞各紙へのコメントのほか、NHK日曜討論などテレビにも数多く出演している。最新刊「給料が上がらないのは、円安のせいですか? 通貨で読み解く経済の仕組み」(PHP研究所)が発売中。

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