生還したガイド、教訓伝える 御嶽山噴火、登山者に

 死者、行方不明者計63人を出した2014年9月の御嶽山(長野、岐阜県、3067メートル)噴火に巻き込まれ、生還した山岳ガイド小川さゆりさん(52)=富山市=が、体験を基にした教訓や、装備や下調べなど活火山に入る心得を登山客に伝えている。噴火から27日で9年。「生き残った人しか事例を残せない。それが万一の時、生きる術につながる」と話す。

生還者の証言をまとめて出版した本を手にする小川さゆりさん=3日、長野県駒ケ根市
生還者の証言をまとめて出版した本を手にする小川さゆりさん=3日、長野県駒ケ根市

 今年7月、犠牲者が集中した山頂付近の尾根「八丁ダルミ」の立ち入り規制が噴火後初めて解除された。小川さんが8月に歩くと、噴石で曲がった手すりや壊れた石像は撤去され、噴火を感じさせるものはなくなっていた。
 9年前はガイドの下見のため、1人で火口付近を歩いていた。落石のような音で振り返ると、青空に噴煙が上がっていた。「噴火した」。岩陰に張りつき、雨のように降る噴石をしのいだが、噴煙で視界は遮られ、体も灰に埋まった。
 ただ、ザックには数日分の食料と防寒着があり、山小屋までの最短ルートも頭に入っていた。体を埋める灰は噴石の衝撃を吸収。「生きて帰れる」と希望が湧き、必死で斜面を駆け降りた。
 そのさなか、脚を骨折し泣き叫ぶ女性を見つけた。小川さんは山小屋に逃げ込めたが、女性は亡くなったことを後日知った。自身は右脚に軽いけがをしただけで済んだ。
 小川さんは(1)どこで被災したか(2)危険をすぐ認識できたか(3)運―が生死を分けたと考えた。「御嶽山噴火からは火山を登る心得だけでなく、登山の基本が学べる」。火山であるというリスクを事前に頭の片隅に入れておくこと。日帰りでも防寒着や予備の食料、ヘッドライトを持つこと。「噴火を考えればそもそも登らないことも選択肢」
 16年、生還者の証言をまとめ、出版した。「亡くなった人は運が悪かっただけ、では終わらせたくない。証言を蓄積すれば生きる術が見えてくる」と思ったからだ。御嶽山をガイドする際は登山客にシェルターの位置などを説明、噴火した場合の待ち合わせ場所を確認する。他の山でも装備や危機意識の重要性を説く。「山の中で話すのが一番伝わる」。頼まれて講演会で話すこともある。
 27日はガイドの仕事で入る南アルプス駒ケ岳(山梨、長野県、2967メートル)から御嶽山を望み、黙とうするつもりだ。

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