事実婚の子、法的制約を解消へ 愛知知事、PACS提唱

 愛知県の大村秀章知事が少子化対策として、事実婚のカップルから生まれた子どもに法的保護を与える制度の創設を提唱している。親が未婚であるために生じる法律上の制約を解消し、出産を諦めるケースを減らすのが狙い。フランスの連帯市民協約(PACS)制度がモデルだ。専門家は「子どもを持つことへのハードルが下がる。対策として有効だ」と評価している。

5月、取材に応じる大村秀章愛知県知事=県庁
5月、取材に応じる大村秀章愛知県知事=県庁
婚外子割合と合計特殊出生率
婚外子割合と合計特殊出生率
5月、取材に応じる大村秀章愛知県知事=県庁
婚外子割合と合計特殊出生率

 「経済的な支援だけでは明らかに足りない。意識、制度、慣行を変えるのは今を生きる大人の責任ではないか」。7月19日の臨時記者会見。大村氏は給付拡充と合わせ、婚姻に準ずる制度を新設するべきだと力説した。
 現行の法制度では婚姻関係にない男女の間に生まれた子(婚外子)は出生届に「嫡出でない」と記載され、原則、母親の単独親権となる。また事実婚は配偶者控除などの対象となっておらず、パートナーの死後、遺産を相続する権利も認められていない。
 フランスのPACSは異性、同性を問わず、同居カップルが法律婚と同様の社会保障を受けられる仕組みだ。子どもに「嫡出」「非嫡出」の区別はなく、両親が共同で親権を持てる。県によると、事実婚に法的な保護を与える仕組みは他の欧米諸国にもあるという。
 経済協力開発機構(OECD)の統計によると、2020年の婚外子割合はフランス62・2%、英国49・0%、米国40・5%に対し、日本は2・4%だった。他方、女性1人が生涯に産む子どもの推定人数「合計特殊出生率」はフランス1・79、英国1・56、米国1・64で、日本は1・33にとどまった。
 内閣府によると、日本で事実婚を選択しているのは成人人口の2~3%とみられている。大村氏は「事実婚の家庭は法的に不安定な状況に置かれる。それを避けるため、子どもを持つことを諦めざるを得ない事態も生じている」と指摘。日本版PACSを導入し、出生届に嫡出かどうかの記載もやめるべきだと提案している。
 大妻女子大の阪井裕一郎准教授(家族社会学)は「どんな状況でも子どもが差別されないのは安心して子どもを産める社会につながる」と指摘し、大村氏の提案を歓迎する。
 実現には民法改正が必要となる。県の担当者は「多くの国民の理解が必要で、時間がかかるだろう」とみているが、7月の全国知事会で趣旨を説明したところ、複数の知事が賛同したという。大村氏は国や与野党の国会議員に法整備を求めていく方針で「同志の知事と一緒に国民の機運を盛り上げていきたい」と意気込んでいる。

 PACS フランスで1999年に導入されたパートナーシップ制度「連帯市民協約」のこと。持続的な共同生活を営むため、成年に達した2人の個人が交わす契約で、法律婚と同様の社会保障を受けることができる。同性、異性は問わない。事実婚と法律婚の間の選択肢として、多くのカップルが活用している。既に法律婚をしている人や、1人で複数のPACS契約を結ぶことはできない。

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