トイレ制限認めず、国に違法判決 性同一性障害巡り最高裁が初判断

 戸籍上は男性で、女性として東京都で暮らす性同一性障害の50代の経済産業省職員が、省内で女性用トイレの使用を不当に制限されたとして、国に処遇改善を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(今崎幸彦裁判長)は11日、制限を認めないとの判断を示した。経産省の対応を是認した2015年の人事院判定を違法と判断し、職員側の勝訴が確定した。

東京高裁の判決を受け、記者会見する経産省の職員=2021年5月
東京高裁の判決を受け、記者会見する経産省の職員=2021年5月

 自認する性別が出生時と異なるトランスジェンダーなど性的少数者の職場環境の在り方を巡る最高裁の初判断で、裁判官5人の全員一致による結論。小法廷では異例となる全員の個別意見が付いた。今崎裁判長の補足意見は判決について、不特定多数が利用する公共施設のトイレなどを想定した判断ではないと強調し、そうした問題は改めて議論されるべきだと説明した。今回と同様に人間関係が限られる企業や学校などでは性的少数者のトイレ使用の対応に影響する可能性がある。
 判決によると、職員は入省後に性同一性障害との診断を受けた。健康上の理由から性別適合手術は受けていない。長年、女性ホルモンの投与を受け、10年から許可を得て女性の身なりで勤務を始めたが、女性用トイレについては勤務先のフロアから上下2階以上離れた場所での使用しか認められなかった。職員は制限を不服として人事院に行政措置要求を申し立て、15年に退けられていた。
 第3小法廷はまず、これらの個別事情や職場でのトラブルもなかった状況などを考慮し「職員は自認する性と異なる男性用か、離れたフロアの女性用トイレしか使えず、日常的に不利益を受けている」と指摘した。
 さらに職員が性同一性障害について周囲に説明会を開いて以降、人事院判定が出るまでの約4年10カ月の間、経産省側が処遇見直しなどの検討をしなかった点を重視。職員が不利益を受ける事情はなく、人事院判定は「職員の具体的事情を踏まえることなく、同僚らへの配慮を過度に重視しており、著しく妥当性を欠く」と結論付けた。
 一、二審では自認する性別に即した社会生活を送ることをいずれも「重要な法的利益」と位置付けたが、結論は分かれた。19年の東京地裁判決が使用制限は正当化できず違法とした一方、21年の東京高裁判決は「他の職員の性的な不安などを考慮した」などとして適法と判断していた。
 最高裁判決では、二審判決が原告の上司の「もう男に戻ってはどうか」との発言を違法とし、国に11万円の賠償を命じた部分も確定した。

 性同一性障害 心と体の性が一致せず、体の性別に強い違和感を持っている状態。医療としてはカウンセリングやホルモン療法、性別適合手術がある。現行の性同一性障害特例法では、2人以上の医師から性同一性障害と診断された上で(1)18歳以上(2)婚姻していない(3)未成年の子がいない(4)生殖機能がない(5)変更後の性別の性器部分に似た外観がある―の要件を全て満たせば、家裁の審判を経て戸籍の性別変更が認められるとしている。

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