5類移行で全数把握終了 コロナ、見えない流行懸念 医療提供、機能不全も【表層深層】

 新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い、流行監視の方法は感染者数の全数把握から、全国約5千の医療機関による定点把握に切り替わった。これまで毎日だった感染者数の発表は週1回となり、専門家からは「迅速に状況を追えなくなり、見えない流行が広がる懸念がある」との声が上がる。一方、患者は幅広い医療機関で診る体制へと一歩を踏み出したが、機能不全に陥る恐れも指摘される。

5類移行に伴う感染状況把握方法の見直し
5類移行に伴う感染状況把握方法の見直し
クリニックの敷地内に設けられた発熱外来患者向けテントで診療する医師=8日午後、東京都内
クリニックの敷地内に設けられた発熱外来患者向けテントで診療する医師=8日午後、東京都内
5類移行に伴う感染状況把握方法の見直し
クリニックの敷地内に設けられた発熱外来患者向けテントで診療する医師=8日午後、東京都内

 ▽発生届ゼロ
 東京都港区の「みなと保健所」では、7日に医療機関などから26件届いていた感染者の発生届が、8日は午後時点でゼロだった。国が全数把握をやめ、報告の必要がなくなったためだ。職員30~40人の体制は今後、区民からの相談対応業務などに縮小されるという。
 厚生労働省は今後、約5千の定点医療機関から月―日曜日の1週間に報告された患者数を数える方法で感染状況を把握。翌週金曜日にデータを発表する。死者数は、月別の人口動態統計を活用し把握するが、死者の総数が分かるのは2カ月後、死因別の情報が出るのは5カ月後となる。
 救急搬送困難事案や入院者数などと合わせて監視する方針で、厚労省幹部は「5類移行後は感染者数より医療逼迫を重視する形にするため問題ない」と強調する。
 ただ、対策には迅速さが重要だ。流行「第6波」や「第7波」の立ち上がり時には、感染者数が1週間で倍以上に膨れ上がるなど爆発的な感染拡大が起きた。また、感染者数を毎日発表すること自体が、リスクの高い行為を避けるよう促すのに大きな役割を果たした。疫学の専門家の中には、精度が落ちることや、国民が感染拡大を実感できなくなることから定点把握に慎重な意見もある。
 宮城県の村井嘉浩知事は8日の会見で「感染者が急に増えれば、注意報や警報が必要だ。国で統一した基準を作った方がいい」と訴えた。
 ▽新たに診療
 政府は5類移行後、段階的に患者を診る医療機関を増やしていく方針を示しており、埼玉県川口市のクリニックでは、8日から新たにコロナ患者の診療を始めた。医師は「発熱患者の隔離などはせず、インフルエンザと同様の対応になる」と話す。連休明けでクリニックには多くの患者が来院しているといい、「今後は一部だけでなく、多くのクリニックが診ていかないといけない」と力を込める。
 ただ、入院病床数を巡り埼玉医科大総合医療センターの岡秀昭教授は「コロナ用病床は確実に目減りしていて、行政が見積もる病床数が本当に機能するのか分からない」と話す。
 同センターでは40床あったコロナ患者用の病床を通常時は4床、流行時は最大14床と大幅に縮小する。今後は大学病院として本来の高度医療に軸足を戻す。埼玉県は減った病床数を県内の幅広い医療機関で受け入れることで補う。
 ▽消極姿勢
 だが5類移行に伴い、コロナ患者向けの病床を確保した医療機関への補助金が大幅に減ったため、受け入れに消極的な病院が多いのが実情。入院調整における行政の関与が薄くなることで、病院間での患者の受け入れに支障が出る懸念もある。
 岡氏は「個室満床や専門外などの理由により、入院が実際には難しいケースが出てくるかもしれない。通常診療で病床が既に埋まっている病院がコロナ患者を積極的に受け入れるかは疑問。病院ごとの役割分担も課題だ」と指摘する。

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