はだしのゲン 被爆描いた漫画、なぜ削除 広島市教委に抗議相次ぐ【大型サイド】

 広島市教育委員会が、市立の小中高校を対象にした「平和教育プログラム」の教材から漫画「はだしのゲン」を削除する方針を決めたことに、抗議や撤回を求める声が相次いでいる。「原爆被害を詳しく描いた漫画なのになぜ」。市教委は時代の変化に応じた改訂と釈明するが、納得は得られていない。

漫画「はだしのゲン」が掲載されているひろしま平和ノート
漫画「はだしのゲン」が掲載されているひろしま平和ノート
漫画「はだしのゲン」が掲載されているひろしま平和ノート
漫画「はだしのゲン」が掲載されているひろしま平和ノート
漫画「はだしのゲン」が掲載されているひろしま平和ノート
漫画「はだしのゲン」が掲載されているひろしま平和ノート
漫画「はだしのゲン」
漫画「はだしのゲン」
はだしのゲンを巡る動き
はだしのゲンを巡る動き
漫画「はだしのゲン」が掲載されているひろしま平和ノート
漫画「はだしのゲン」が掲載されているひろしま平和ノート
漫画「はだしのゲン」が掲載されているひろしま平和ノート
漫画「はだしのゲン」
はだしのゲンを巡る動き

 ■生き方
 「私は被爆者ながら、ゲンから生き方を学んだ。削除決定は我慢ならない」。生後9カ月で被爆した広島県原爆被害者団体協議会の佐久間邦彦理事長(78)は21日、市教委の担当者に訴えた。
 はだしのゲンは、漫画家の故中沢啓治さんが6歳で被爆し、父と姉、弟を失った体験に基づく作品だ。広島の惨状とともに、家族を亡くしたゲンがたくましく生き抜こうとする姿を描いた。
 16日に削除方針が表面化すると、交流サイト(SNS)で「はだしのゲンを無くすことに抗議します」とのハッシュタグ(検索目印)付きの投稿が続出。歌手加藤登紀子さんも「教科書から外すのは許せないけど、みんなで広げていきましょう。はだしのゲンを」と呼びかけた。
 ■賛否
 平和教育プログラムは2013年度に始まり、市教委作成の「ひろしま平和ノート」を教材に、各学年で年3時間の授業をしている。小3が学習する部分では、身重の母親のため、ゲンたちが浪曲のまねをしてお金を稼ぎ、栄養不足を補おうと裕福な家の池でコイを釣る場面を引用した。
 市教委は19年度にプログラム改善へ向け有識者会議を設けた。共同通信が入手した議事録によると、メンバーの教員は「浪曲の場面は理解が難しい」「漫画の一部分だけでは、被爆の実相に迫りにくかった」と報告。「コイを盗ってよいのかという問題にされてしまう」との指摘もあった。一方で「はだしのゲンは児童にとって身近なので、(ゲンの)思いを表現しやすい。浪曲は教員が補足的に紹介できる」と評価する意見も上がった。
 市教委によると、24日時点で問い合わせは約300件。多くは削除反対の意見だった。高田尚志指導第1課長は「時代が変わる中で子どもの心に届くものを探り、改訂に至った。ゲンが持つ力は全く否定していない」と強調する。
 ■子どもたちに
 中沢さんの妻ミサヨさん(80)は「教材への掲載が決まると本人はとても喜んでいた。子どもたちに原爆の怖さや悲惨さをどうやって伝えようかと考えて描いた作品なのに」と悔しがった。
 はだしのゲンを巡っては13年8月、松江市教委が「過激な描写がある」と市立小中学校に閲覧制限を要請したことが判明。その後批判を受けて撤回した。大阪府泉佐野市でも14年3月、差別的表現が多いとする市長の意向から、市教委が市立小中学校の蔵書を回収したことが明らかになり、各校に返却した。
 国内外の教育機関や図書館への寄贈など、普及活動をする金沢市のNPO法人「はだしのゲンをひろめる会」の神田順一事務局長(73)は「削除ありきの議論だったのでは」と広島市教委の姿勢を疑問視。「被爆地の判断によって他の自治体に影響が出るかもしれない」と危ぶんだ。

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