無園児定期預かり 「心にゆとり」母親笑顔 先駆園、子の成長実感

 核家族化が進み、地域のつながりも薄れる中、政府は4月から、親子の孤立を防ぐため、保育所の空き定員を活用した無園児の定期預かりを試行する。先駆的に取り組む園では母親が「心にゆとりができた」と笑顔を見せ、保育士や他の園児との関わりによるわが子の成長を実感している。

「おうち保育園かしわぎ」で保育士の話を聞く園児=2022年11月、仙台市
「おうち保育園かしわぎ」で保育士の話を聞く園児=2022年11月、仙台市

 「息子にガミガミ言わなくなりました。本当に助かっています」。昨年11月中旬、仙台市の企業主導型保育所「おうち保育園かしわぎ」を厚生労働省の職員が視察に訪れた。1歳の長男を週2~3回預けている佐藤真理さん(43)は利用のメリットを聞かれ、そう答えた。
 佐藤さんはモデルとして活動していたが、長男出産後は中断していた。出張や宿泊も伴う仕事だが、毎日出勤するわけではないため、フルタイム勤務を想定した認可保育所の入所条件に満たなかったためだ。夫が不在の日中は「ワンオペ育児」で、洗濯物をたためなかったり、料理に取りかかれなかったりと、家事がはかどらないことにいらだちが募る毎日だった。
 昨年5月、同園を初めて利用した。「泣かないかな」と心配だったが、喜んで通う姿を見て、週2~3回に増やした。驚いたのは長男の変化だ。人見知りだったが、公園で初対面の子と遊ぶように。自分でパジャマに着替えるなど、身の回りのことに自発的に取り組むようになった。
 佐藤さんはモデルの仕事を再開。家族のために料理を作り置きし、友人とゆっくりランチを楽しむなど、自分の時間を使えるようになった。
 新型コロナウイルス禍で児童館や子育て支援拠点が休館し、園には居場所を失った母親らから問い合わせが相次いだ。「転勤族で知り合いがおらず、家で涙が止まらない」という声も。週に数回預ける家庭が口コミで増え、これまでに8人の子どもが利用してきた。
 政府は待機児童解消を目指し、企業主導で整備する保育所を増やしてきた。従業員の子以外に地域の児童も受け入れ可能で、認可保育所に比べて柔軟な運営が認められている。同園では0~2歳児を午前9時~午後4時、希望する曜日や時間帯に預けることができる。散歩や給食、昼寝など、毎日通う子どもと過ごし方は変わらない。山本千尋園長は「地域で子育てを支え、孤立する家庭を減らしたい」と話す。
 一方、保育の現場は慢性的な人手不足で、こうした定期預かりを広げるには人材確保が課題だ。
 子育て政策に詳しい東京大の山口慎太郎教授(労働経済学)は定期預かりについて「母親の育児負担が軽減され、ストレスが減って幸福度が高まる」と評価。経済的困窮など支援が必要な家庭と接点を持つことは「虐待防止にもなる」と強調する。現行では認可保育所入所の条件が厳しいとし「親の状況にかかわらず、幅広く利用できるようにすべきだ」と求める。

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