人権の視点、性教育に 教員の実践12年、書籍化 対等な関係、多様性を意識

 体の仕組みや妊娠の知識にとどまらず、人権の視点から性を学ぶ「包括的性教育」に、都内の公立中学校で教員として取り組んできた樋上典子さん(64)が、授業づくりに協力した大学教授らと「実践 包括的性教育」を出版した。12年にわたる学校現場での経験を詰め込んだ一冊。「保護者や子どもたちにも読んでほしい」と話す。

「包括的性教育」に教員として取り組んできた樋上典子さん=2022年11月、埼玉県草加市
「包括的性教育」に教員として取り組んできた樋上典子さん=2022年11月、埼玉県草加市
「包括的性教育」の授業をする樋上典子さん(画像の一部を加工しています)
「包括的性教育」の授業をする樋上典子さん(画像の一部を加工しています)
樋上典子さんが授業づくりに協力した大学教授らと出版した「実践 包括的性教育」(エイデル研究所)の1ページ
樋上典子さんが授業づくりに協力した大学教授らと出版した「実践 包括的性教育」(エイデル研究所)の1ページ
樋上典子さんが授業づくりに協力した大学教授らと出版した「実践 包括的性教育」(エイデル研究所)の1ページ
樋上典子さんが授業づくりに協力した大学教授らと出版した「実践 包括的性教育」(エイデル研究所)の1ページ
「包括的性教育」に教員として取り組んできた樋上典子さん=2022年11月、埼玉県草加市
「包括的性教育」の授業をする樋上典子さん(画像の一部を加工しています)
樋上典子さんが授業づくりに協力した大学教授らと出版した「実践 包括的性教育」(エイデル研究所)の1ページ
樋上典子さんが授業づくりに協力した大学教授らと出版した「実践 包括的性教育」(エイデル研究所)の1ページ

 包括的性教育では、対等な関係の築き方や多様な性の在り方などのテーマを通じ、性を幅広く学ぶ。国連教育科学文化機関(ユネスコ)が科学的根拠に基づいた手引を作成しており、樋上さんは、手引を和訳した埼玉大の田代美江子教授(ジェンダー教育学)、渡辺大輔准教授(教育学)、宇都宮大の艮香織准教授(教育学)と連携して授業を進めてきた。
 樋上さんは1982年に保健体育の教員として東京都に採用された。性教育に積極的に関わるきっかけは、勤務先の養護学校(現特別支援学校)高等部で生徒が性的暴行を受けたことだった。警察に連れ添ったが、性器と肛門の違いなど体の知識がないため、被害を生徒が認識できていないことに驚いた。
 足立区の中学校に異動後は、卒業の時期に合わせて避妊と中絶を教えるように。そんな中で出合ったのが、田代教授らと京都教育大付属桃山中学校(京都市)が、包括的性教育の理論を基に進めていた授業だった。2011年からは自らも導入。子ども同士で考えさせることに重点を置きながら、生徒の反応を見て内容の更新を重ねた。「日ごろから身近な大人が教えることで、子どもが性のことで相談しやすくなる」と学校で扱う重要性を説明する。
 性教育に携わる中で、外部からの反発も経験した。03年、都立七生養護学校での性教育が批判され、教職員らが処分対象になったことで学校現場の萎縮が長く続いた。樋上さんの授業も18年に都議会で「避妊・中絶を教えている」とやり玉に挙げられたが、「身を守る知識を教えるのは大人の責任で、必要な授業だ」と屈しなかった。
 現場で実践してきた包括的性教育を、広く知ってもらうため企画したのが今回の書籍だ。現状と課題を合わせて研究者が解説。生徒とのやりとりを吹き出しで紹介し、項目ごとに実践的な伝え方を提示した。ユネスコの手引は年齢ごとに学習目標を示しているが、実態に合わせて幅広く学ぶ範囲を決めた。
 現在も教壇に立つ樋上さん。「性の学習は権利の保障そのもので、必ず子ども自身の助けになり、幸せにつながる」と期待を込めた。

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