ゆらぎ そよぐ 青の線描 美術家・乾久子さん(浜松市西区)

 約5メートルの高さから垂れ下がる真っ白な越前和紙に、青色の線描が無数の弧を広げる。美術家乾久子さん(62)=浜松市西区=が「重力や次元に縛られず、イメージが連鎖していく」という抽象表現は水の揺らぎか、海にそよぐ風の跡か。オイルバー(油絵の具)の鮮やかさと大胆な余白が想像をかき立てる。

「イメージからイメージへ、重力にも次元にも縛られず、ドローイングを広げていく」と話す乾久子さん=静岡市駿河区のグランシップ
「イメージからイメージへ、重力にも次元にも縛られず、ドローイングを広げていく」と話す乾久子さん=静岡市駿河区のグランシップ

 藤枝市出身。大学進学時は理学部を目指すも期せずして美術専攻に。美術史を研究し、学外でデッサンや油彩を習った。大学院に進み、修了後は美術教師になった。
 表現者としての本格スタートは、子育て中の30代後半。友人の作品に触発され、グループ展に参加した。「綱渡りの毎日でも美術は待ってくれた」。描くことで心がケアされる感覚にのめり込んでいった。今も早朝の「一番いい時間」に、ドローイング(素描)と向き合う。
 「ことばのまわり」にあるものは何か、長年追い求めてきたテーマがある。ふと浮かんだ単語、フレーズを絵とともに書き留める。新聞記事と散歩中に撮った写真を取り合わせた表現で、日常と社会事象との接点を探る。
 アートと社会をつなぐ試みにも広がった。2008年に始めた言葉と絵でリレーするワークショップ「くじびきドローイング」は、県内外で40カ所を超えている。
 09年には地方都市と原発の存在に目を向けた。「東日本大震災の時は、新聞を黒く塗りつぶし、その言葉を反すうしていた。コロナ禍では繰り返される言葉の強さに切り付けられるようだった」。福島に足を運び、文化活動に関わる人々と交流してきた乾さん。10年の節目となる今年は、秋に現地で展覧会を開く。「内面から生まれた『ことば』、そのそばにあるものを表現していきたい」

 <メモ>めぐるりアート+「ことばのまわり~船とゆく~」 グランシップ(静岡市駿河区)9月13日まで

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