宇佐見りんさん「真実を見つけたい」 小説描写に静岡県内の風景

 「推し、燃ゆ」で第164回芥川賞に選出された宇佐見りんさん(21)=沼津市出身=が5日までに、リモートで静岡新聞社の単独インタビューに応じた。小説執筆の根源を「一つ、真実を見つけたいという気持ち」と表現し、「目指すものを書き続ける」と意欲を語った。

芥川賞選出を受けた記者会見で受賞の喜びを語った宇佐見りんさん=1月20日、都内
芥川賞選出を受けた記者会見で受賞の喜びを語った宇佐見りんさん=1月20日、都内

 初めて小説を書いたのは、小学3年生の授業。以後絶えることなく創作を続けた。高校に入学してからは純文学を意識し、長編を手掛けるようになった。中学、高校では演劇部に在籍。俳句を学んだ時期もあったが、小説を選び取った。「一人の人間の視野、内面的要素、身体感覚を伝えられる点で小説という表現がいいなと。自分一人で(作品に)向き合えるし、良しあしが全て自分の責任になる」
 「推し、燃ゆ」は、生きにくさを感じながら、男性アイドルの応援に心血を注ぐ10代女性の物語。「推し」と呼ばれる現象や当事者のありようを、精緻な描写で例示した。「『推し』という言葉は、単なる趣味のような捉えられ方をすることが多い。そうした冷ややかな視線や感覚をはぎ取りたかった。そこには切実な何かがあると思った」
 沼津市生まれで、2歳まで家族で住んでいた。神奈川県内に引っ越してからも、高校時代までは毎夏、同市内にある母親の実家に2~3週間滞在した。「(沼津市内の)らららサンビーチが好き。温泉にもよく行った。(7月下旬の)夏まつりでは、花火が終わってから(商店街の)マルサン書店さんに連れて行ってもらうのが楽しみだった」
 静岡県内の風景をモチーフに使うこともある。「『推し、燃ゆ』では、主人公のおばあさんが入っている病院の周辺の描写に、熱海市の海岸のイメージを混ぜている」
 目指す小説家像に具体的なモデルはないが、書き続ける理由ははっきりしている。「一つ、真実を見つけたいなという気持ちで毎回書いている。いろいろなやり方で自分の中を掘って、作品ごとにそれ(真実)が見えかけた時はあるが、まだ届いてはいない。これからも掘り続けたい」

 ■うさみ・りん 1999年沼津市生まれ、神奈川県育ちの大学生。2019年に「かか」で文芸賞を受けデビュー、同作で20年の三島由紀夫賞を最年少受賞。「推し、燃ゆ」が史上3番目の若さで芥川賞に決まった。

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