私が「推したかった」本はこれ! コロナで開催断念「静岡書店大賞」、実行委メンバーおすすめの8冊紹介
毎年12月に表彰式が開かれる「静岡書店大賞」の実行委員会は、新型コロナウイルス感染拡大を受けて今年の開催を断念した。静岡県内に広く知られた年末の行事がなくなり、残念に思う人も多いだろう。そこで今年は、紙面を通じて模擬イベントを実施する。書店員や図書館員ら実行委のメンバー8人が、4部門を対象に「今年の選考で1票を投じただろう」本を紹介する。
■児童書新作■
「なぜ僕らは働くのか」佳奈・著、池上彰・監修 モドロカ・イラスト、学研プラス
「仕事ってなんだ?」「どうやって働く?」-。小学生から大人まで、あらゆる世代に「働く」意味を問い掛ける一冊です。
各章の導入部分には、中学生の男の子が家族のサポートを受けて成長する様子を描いた漫画が配置され、続く読み物部分で「働くこと」に関するさまざまな疑問に答えを出しています。
実社会では職業の種類だけでなく、働き方も多様化しています。必ずしも給料が高ければ高いほどいいわけではない。幸せな働き方って何だろう。子どもたちが自分で考え、職業を選択する一助となる作品だと思います。 (谷島屋ららぽーと沼津店、岩田勝さん)
「はじめての ちきゅうえほん」てづかあけみ著、斉藤紀男監修 パイインターナショナル
地球の成り立ち、地中の様子、地球と月の関係など、地球科学や天文学の基礎知識を分かりやすく教えてくれる絵本です。
地殻の内側にマントルがあって、さらにその内側にコアがあり…といった専門的な話を鮮やかな色使いのイラストで丁寧に解説。例えば、深さ1万メートル超のマリアナ海溝を説明する上で、富士山やエベレストの高さを例に取り、その形を使っています。視覚的な分かりやすさがよく考慮されていると思います。
子ども向けの内容ですが、大人が地球や天体への興味関心を高めるきっかけにもなり得るでしょう。 (未来屋書店浜松市野店、溝口晴香さん)
■児童書名作■
「三びきのやぎのがらがらどん」マーシャ・ブラウン絵 瀬田貞二訳、福音館書店
一番大きいヤギの「がらがらどん」が恐ろしいトロルをやっつける場面は、何回読んでもワクワクします。
小さい「がらがらどん」は知恵で困難からうまく逃れ、中型はうまくやり過ごす。一方で大きい「がらがらどん」は力で困難に立ち向かう。二つの楽しさが同時に味わえます。ヤギたちは自分の得意なことを自覚し、物事に対処しています。
自分の力を理解し、それぞれができる範囲のことをすれば結果的にうまくいく。どんな人にも特性があって「できない」=「恥ずかしい」ではない。この作品はそんなことを教えてくれます。(県立中央図書館=静岡市駿河区、水井千保子さん)
「くだもの」平山和子作、福音館書店
リンゴ、桃、サクランボなど10種の果物を描いた絵本です。丸ごとの絵と、食べやすく切ったり皮をむいたりした絵などを組み合わせて「さあ どうぞ。」と読者に勧めます。果物が主役の「おいしそうな本」です。
シンプルで写実的な絵ですが、果物の特徴をよく捉えていて、読んでいると絵に引き込まれます。図書館のおはなし会での反応もいいですね。「さあ どうぞ。」の場面では、本に向かって手を伸ばす子どももいます。おいしそうに見えるからこそでしょう。
幼児向けですが、もう少し年齢が上の子どもも楽しめます。(同、安田宏美さん)
■小説■
「かか」宇佐見りん著 河出書房新社
沼津市出身作家のデビュー作。方言のような、そうでないような独特な文体で、最初は正直、読みづらく感じます。でも、読んでいる内にだんだん文体に慣れていく。ユニークな読書体験を得られると思います。もやもやとした感情を抱かせる話ですが、最後の一段落にスコーンと抜けるようなあっけなさがあり、圧巻です。
主人公の女性にとってSNSは癒やしの場。でもそのことが小説のテーマになっていない点も面白い。SNSが身近にある若い世代の「今」を感じます。
物語をゆっくりゆっくり読み進めたい方にお勧めします。(マルサン書店仲見世店=沼津市、増田淳さん)
「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ著、中央公論新社
都会から地方都市に移った20代後半の女性と、家族から虐げられた少年の出会いから始まる物語です。
他のクジラには聞こえない52㌹という高い周波数帯の声を出すクジラ。主人公二人の、助けを求めて叫んでも声が届かない現実、それでも助けを求め続けなくてはならない過酷さが、こうした「仲間と相いれないクジラ」に重なります。
最後まで明確な救いは示されませんが、それぞれの思いがはっきりしたものに昇華されていくため、よい読後感が得られます。
声に出せない苦しさを持つ方全てに読んでほしいです。
(吉見書店竜南店=静岡市葵区、柳下博幸さん)
■映像化したい文庫■
「ゲームの王国」㊤㊦小川哲著、早川書房
上巻は1970年代のポル・ポト政権下のカンボジア、下巻は2030年代のカンボジアが舞台です。上下巻合わせて主役級の人物が約20人登場する群像劇。時系列に沿って展開するので読みやすいですね。
地方の農村に生まれた少年と少女が物語の軸ですが、彼らを取り巻く、役職や立場が全く異なる人たちの人生も一つ一つ重厚に描かれていて引き込まれます。革命下のカンボジア社会の描写から、「平和」や「公正」「幸せ」について考えさせられました。
歴史ものが好きな方、SFが好きな方にお薦めです。(江崎書店袋井店、大場昭典さん)
「遥かに届く きみの聲(こえ)」大橋崇行著、双葉社
高校朗読部の男女が主人公という、これまでになかった設定の青春小説です。
朗読の発表会を機に人前で声を出せなくなった元天才子役の透と、朗読によって救われた過去を持つ遥。声の出せない透を遥は強引に朗読部へ誘います。なぜ遥が透を特別視するか。物語が進むにつれて、明らかになっていきます。果たして、透はみんなの前で再び朗読が出来るのか…。
朗読という活動の奥深さを感じさせます。物語の解釈によって、朗読方法が変わるのです。宮沢賢治や夏目漱石の小説が、どう解釈されるかも、この作品の“読みどころ”。(谷島屋マークイズ店=静岡市葵区、原川清美さん)