2022年、静岡市消防局の隊員1人が殉職した葵区のビル火災。静岡市は3月17日、これまで非公開にしていた現場活動の映像をすべて公開し、最終報告を公表しました。映像からは、消防が現場で火元の情報を入手しながらそれを聞き入れず、誤った活動を続けた経過が明らかになりました。
<静岡市 難波喬司市長>
「遺族の方にはまだまだ心が癒えていないと思います。心からお見舞い申し上げます」
2022年8月、静岡市の繁華街で発生したビル火災。消火にあたっていた静岡市消防局の男性隊員(当時37歳)が殉職しました。
3月17日、静岡市の難波喬司市長が臨時の会見を開き、現場の安全管理を担う消防隊員が付けていたカメラの映像を全面公開しました。
公開された映像では、殉職した男性隊員の音声は確認できませんでしたが、現場にいた消防隊員のやりとりが含まれていました。
「(火元は)今のここを言っている?」
『ここ、ここ、ここ』
「今、ここから入って、(火元は)こっちかと思っていた」
『今、熱源があるところはここ』
火元をめぐり、食い違う意見。映像には火災が起きた店舗の従業員から、火元の情報を聞き取る場面も残っていました。
<隊員>
「(火元は)通路を入って奥って言ったよね?」
<従業員>
「奥のこっちです」
<隊員>
「ここは?」
<従業員>
「トイレです。トイレがあってここに給湯室がある」
<隊員>
「この給湯室への行き方は?」
<従業員>
「ここのトイレがあって、もう1枚扉がある」
その場にいた従業員はSBSの取材に対し…
<火元を伝えた店舗従業員>※2023年取材
「僕ははっきり自分が見た範囲で、『火元はここですよ』という説明、見取り図で『ここが燃えていました』という話は(現場で)させてもらっている」
しかし、火元の情報は生かされることはなく、消防は火元とは異なる場所の調査を継続。消火活動は誤った方向へ向かいました。
取材にあたった社会部の山本太朗キャップです。こちらは、火事が起きたビルの3階の見取り図です。

<社会部 山本太朗記者>
従業員が消防に伝えた火元は店舗奥の「倉庫兼休憩室」で、この時点で通報から約25分経っていました。しかし、聞き取りを遮った隊員の報告をきっかけに、その情報とは異なる「店舗入り口付近」を火元と推定。
初期の消火活動では給湯室など、火元ではない場所の確認に時間を費やしました。結果的に、殉職した男性隊員の部隊は通報から約1時間が経過後に進入しました。火災の状況が刻々と変化するなか、対応が後手にまわる形となりました。
難波市長は3月17日の会見で静岡市消防局が抱える課題についても言及しました。
<静岡市 難波喬司市長>
「やはりこの情報共有というのは、やはり基本中の基本ですね。初動において極めて大事なことだと思っています。その個人の行動そのものというよりも、そこについての組織的課題です。現場の臨機応変の対応に任せるところが多くてですね。火点(火元)情報はこういう風にしなければならないということをしっかり記述することが大事だと思います」
これまで深く検証されてこなかった消防のミスとも受け取れる火元の判断。最終報告では映像が公開され、そのいきさつが初めて明るみになりました。
映像の全面公開がこのタイミングになったことについては…
<静岡市 難波喬司市長>
「最終報告が大事ですので、1時間半の情報をそのまま出してもどこが何が大事かというのはなかなか分からないという状況なので、この今回の報告書と関連付けた形で、示すのが1番良いと考えてそのようにいたしました」
男性隊員の遺族は、今回の最終報告と全面公開された映像について「当初遺族が消防に何度も追及して知り得た問題点がようやく公表されて、再発防止につながることを期待したい。まだ公表されていない問題点や市との『見解の違い』との理由で検証不十分な点もあり、今後も追及していきたい」とコメントしています。
難波市長は今後について最終報告に対する関係者からの意見があったら受け止め、変更点があれば新たな証言などで確認するとしています。
ただ、一番重要なのは組織改革、指揮体制の強化で、消火活動の方法を検証するプロジェクトチームを立ち上げる方針です。

